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「牧場×kintone」で牛の命と正面から向き合う

6次産業での組織改革をkintoneで実現した愛媛のゆうぼく

2019年08月16日 09時00分更新

 2019年6月5日に開催されたkintone hive matsuyama vol.1で最後に登壇したのが、有限会社ゆうぼく代表取締役の岡崎晋也氏。「kintoneがある6次産業のカタチ」というテーマでプレゼンを行った。「kintone×牧場」というレアな切り口であまり耳にすることのない6次産業での活用事例が紹介された。

有限会社ゆうぼく 代表取締役 岡崎晋也氏

愛媛で6次産業を手がけるゆうぼくとサイボウズ

 ゆうぼくが手がけている事業は多岐に渡る。牧場で牛や豚を飼っており、その加工品も作って販売し、さらにはレストランで調理して提供している。同社の理念は「ユニークから感動をつくり、貢献し、ゆたかになる。1+1=10」で、それぞれの異なる事業を組み合わせることで、1つの大きな事業を作り上げるという想いを持っているという。農業生産の1次産業と加工の2次産業、流通・販売の3次産業を掛け合わせて6次産業と呼ぶが、今回は6次産業にkintoneを使うと、何ができるのかを紹介してくれた。

1次×2次×3次=6次の産業とkintoneを組み合わせた

ゆうぼくは1次から3次までさまざまな事業を手がけている

 2013年に同社に入社したプレゼンターの岡崎晋也氏は、それまでは5年間化学メーカーで働いていたという。2016年に代表取締役となり、現在に至る。kintoneは2013年の時点で知ってはいたものの、小さな会社では費用対効果が出ないだろうと、あきらめていたそう。しかし、2017年に「サイボウズLive」を情報共有ツールとして導入し、2018年には地元愛媛のあいテレビで水曜日に放送している「ボウズマンと行く!! 」に出演した。

「そんな時、サイボウズLiveが終了するという発表がありました。松山にもサイボウズの拠点ができたし、担当者の好感度も高いし、とりあえずkintoneをやってみようかなと、軽い気持ちで導入しました」と岡崎氏は語る。

経営者がkintone導入に真剣だということを見せて拒絶反応を抑えた

 もちろん、会社が抱えている課題を解決するのが目的だ。たとえば、まず一つ一つの事業が異分野なので、情報の互換性が低いという問題があった。牧場と飲食店では仕事がまったく異なるため、経営管理が煩雑になってしまう。そして、牧場が西予市、飲食店は松山市にあるため、物理的な距離があると無関心になり、心理的な壁ができるとさらに情報の流れが遅くなるという課題があったそうだ。

ゆうぼくが抱えていた課題点

「導入するからにはちゃんとしようとしました。前提として、使われないシステムはどんなに機能が豊富でも意味がありません。だからきちっと導入していこうと考えました」(岡崎氏)

 ステップ1として、紙やメールベースだった既存の作業をkintoneに変えた。日報や月報、出張報告などをアプリ化したのだ。新しいことをしようとすると、社内からの拒絶反応はつきもの。そこで、徹底的に運用を日常に落とし込み、経営者も導入に真剣な姿を見せることが重要だという。

 ステップ2として、kintoneへの抵抗がなくなり、社内のインフラとして落とし込むことができたら、新たな業務アプリを作って付加価値を付けた。牛の肥育管理やイベント履歴といったアプリを作ったのだ。「クラウドを使うと情報の流れが速くなります。いろんな所からアクセスできるので、とにかく便利を感じてもらうことが大切です」(岡崎氏)

 従来は、レストランの日報は手書きで作成していた。きちんと記録は残されているのだが、岡崎氏は現場にいないので都度は見ない状態だったそう。それが日報をkintoneアプリに置き換えることで、通知が来るようになった。すぐに確認し、コメントを書くこともできる。毎日の情報が勝手に流れ込んでくるようになり、現場が何に課題を感じて、何が良かったのかがわかるようになった。そのおかげで、第1の課題である煩雑な経営管理が早々に解決された。

紙の日報では、情報の記録はされているが、岡崎氏が毎日見ることはできなかった

夜中2時にアプリの権限をはずして全スタッフに情報を見せる決断をした

 さらに、アプリを作成しているときに「あることに気がついた」と岡崎氏。当初はアプリに細かく権限を設定して、各自が見られる情報を限定していたのだ。

「なんでそんなことをしているんだろうと思いました。世間一般には権限を設けることが当たり前で、お互いの悪いところが見えると衝突が起こるのが嫌でした。さらに、会社の状況が筒抜けなのも、経営者としてちょっと恥ずかしく、知らぬが仏だという潜在意識がありました。でも、そもそも情報の流れが悪いことが問題だったはずです。今でも忘れられません。夜中の2時にアプリを設定し直しました。直感を信じて、すべてを解放したのです」(岡崎氏)

 次の日の朝、出社したスタッフは、いろいろなグラフを目にすることになった。各部門の労働生産性や売り上げ、客数といった情報が一気に見えるようになったのだ。

「すると化学反応が起こりました。人の書いた日報や月報、議事録はとても気になるから、堂々とではなくお互いにこっそり見合うのです。それで、部門間にいい意味でのライバル意識が芽生えました。あそこには負けていられない、といった想いが出てきたのです」(岡崎氏)

アプリの権限管理を外し、トップ画面に主要な指標のグラフを表示した

 アプリには月報の提出リストもあり、出していない人がすぐにわかるため提出率も向上。さらには、他の人の投稿を参考にするため、報告書の質も上がったという。

 さらに、「○○店は客単価羨ましいですね、うちは客数では2倍勝っているのに」「○○の牛、結構数いますね」「○○というお客さまからの意見あったみたいですね」といったコメントが上がってくるようになった。部門をまたいで情報が往来するようになったのだ。もちろんこれはアプリの権限設定を外し、情報を解放したことによる効果だ。これで情報の互換性の問題と、情報の流れが遅いという課題が改善できた。

kintoneが化学反応を起こし、部門間の情報共有が実現した

kintoneの通知で牛の死亡から目をそらさない

 最後は牧場でのkintone活用だ。「牧場で記録するデータは主に4つです。導入の記録。肥育期間の記録、販売の記録、死亡の記録を取っています。今までは、現場のExcelや紙媒体、あとは全然あてにならない頭の中を使っていました」(岡崎氏)。

 個体識別番号や性別、誕生日、価格といったデータをはじめ、いつどういった処置をして、どういう状況なのかというステータス、いつ出荷していくらで売れてどんなお肉になったのか、ということまでわかるようになった。従来の収益管理は、1か月の売り上げに対するもの。同社は1か月に25頭の牛を出荷しているが、かかった経費見て利益を出すだけだったのだ。しかし、記録をアプリ化したことで利益がすぐにわかるようになった。

「ストレスがない牛はいいお肉になります。つまり、高収益の牧場というのはストレスが少ない。1頭1頭の収益を管理するということは、1頭1頭のストレスを管理すること、つまり1頭1頭の幸福度のパラメーターの一種になります。私たちは牛の命を預かる商売をしています。だからこそ、命と向き合うことは大切です。その大切なことをkintoneを導入することによって、あらためて気づかされました」(岡崎氏)

 牛が死んでしまった場合の記録アプリもある。生きた期間や死んだ理由などが記録されるのだが、登録されると岡崎氏のスマホに通知が届くようになっている。どんなに楽しんでいる休日でも、この通知が来ると、ものすごくテンションが落ちるという。

 しかし、問題が起こった瞬間に把握することで、危機感が生まれるそう。危機感があるから改善が生まれる。従来の牛の死亡管理は、1か月単位、遅ければ2か月単位でまとめて紙で管理していた。それが今では、死んだ瞬間にスマホが鳴るので、どうにかしなければならないという思いが生まれてくるという。

牛が死亡すると通知が届く。テンションは下がるが、危機感と改善が生まれるという

 kintoneの導入は、地域レベルの改善活動にもつながった。同社では、牛が死ぬ事故が多いという問題点があった。そこで推定要因という項目をkintoneに追加し、データを溜めて分析したところ、ある要因を特定。それを獣医に相談したところ、同社だけでなく地域の牧場が抱えていた問題だということがわかった。そこで農協に話を通し、地域の牧場農家を集めた勉強会を開催したのだ。

 また、低収益という課題には推定要因の対策を行ない、成績の推移をデータ分析することで、推定要因との因果関係を断定。利益の如実な改善を実現できたという。現在は牧場にいる正確な牛の頭数や2年後までの出荷計画もアプリで管理するようになった。そのため、何頭いるか聞かれてもスマホを見てすぐに回答できたり、将来の計画も細かく調整できるようになるなど、いいことずくめだ。

 kintoneによるデジタル化はスタッフにも刺さったよう。たとえば、スタッフがInstagramに肉の写真を投稿しているのだが、そこには個体識別番号などのデータが細かく載っている。これは、スタッフが「kintoneにあるデータは、一つの広告媒体になり、活用できる」ということで、自発的に行なっているようだ。

 牧場なのでほこりも多く、入力も大変なため、今後は現場の入力インターフェイスを強化していきたいと岡崎氏は語る。また、現在は標準機能を活用しているが、プラグインを活用して生産性を上げていきたいという。

「kintoneは、ゆうぼくに変革のきっかけを与えてくれました。これからも、kintoneと共にチームワークあふれる会社にしていきたいと思います」と岡崎氏は締めた。

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