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「スポーツビジネスは特別なビジネスではない」上野直彦氏が語る

――ご指摘のように、スポーツビジネスに新規参入する、あるいは社内で事業部を立ち上げる動きがあります。成功するためのポイントはありますか?

 3つ挙げられます。

 1つ目は自分たちの得意分野で勝負することです。得意分野にスポーツを掛け算するアプローチです。得意分野はデジタルマーケティングかもしれませんし、ウェブメディアやSNSかもしれません。あるいは財務経理系かもしれません。そこにスポーツの掛け算で勝負をする、製品やサービスを作るといいのではないでしょうか。さらにいうと、これに地域貢献、地方創生、あるいはシニアや少子化向けなどの要素が入っていると面白いでしょう。

 2つ目は中国、アジアです。スポーツビジネスというと、アメリカや欧州を連想しがちですが、この分野でも中国に注目すべきです。あるフィンテックのイベントでAlibabaの幹部の話を聞いたのですが、日本の15年ぐらい先を行っています。Alibabaはスポーツ事業を今後の強化分野と捉えており、2015年にスポーツ事業も立ち上げています。東南アジアも重要です。

 3つ目は2020年の先を見据えること。具体的に言うならば、放映権の次に何が来るのかを考えておくべきでしょう。スポーツ庁が2025年までに 15兆円というスポーツ産業市場規模予測を出していますが、このままでは到達しない。スポーツ庁の予測が間違っているというのではなく、やり方によってはこれを超えると捉えることもできます。川淵三郎さん(日本トップリーグ連携機構会長)は「スポーツは宝の山」とおっしゃっていますが、その通りだと思います。オリジナルの手法、プロダクト、日本初のサービスが鍵を握るのではないでしょうか。

――人材の問題は大きいとお考えですか?

 僕は現在、ブロックチェーン分野を中心にいくつかの新規事業と関わっていますが、共通して思うのは、日本には優秀なプログラマも少ないが、プロダクトマネージャも少ないということです。これが日本でGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)を超える会社が現れない理由です。それを招いている要因の1つに、教育があると思っています。サッカーも同じで、サッカーマンガの取材で80人以上の指導者、200人以上の選手に会いましたが、面白いアイディアを持っている人は少ないという印象があります。指導者にはいますが、日本ではなくスペインとか国外でした。

 ですが、日本の良さもあります。日本では、小さな成功事例を重ねることで、”じゃあやろう”となる。小さなことは苦手ですが、大きく変わるときに振り子が最大に変わるんです。ですから、悲観はしていません。デジタルマーケティングがうまくいってチケット販売が伸びたなどの小さな成功事例の積み重ねにより、周囲や組織が納得すると思います。

 もう一つ可能性を感じていることがあります。ユースディベロップメント(育成)です。中国などアジアの国は日本の指導メソッドは評価されています。四国は野球の育成に取り組んでいますが東南アジアの野球チームを呼んで合宿したり、新しいスタジアムがある釜石をラグビーのキャンプ地にするなど、いろいろなやり方があると思います。

 ユースディベロップメントは最大のレガシーになりうるのではないでしょうか? 日本がこの分野でメッカになり、中国や東南アジアから学びに来る。日本は日本で欧州などに人を送り、戻ってきて還元してもらう。今は個人ベースですが、そこを様々な形で支援する体系ができるといいですね。

早稲田大学スポーツビジネス研究所・招聘研究員 上野直彦氏

 兵庫県生まれ。早稲田大学院スポーツ科学研究科修了。早稲田大学スポーツビジネス研究所・招聘研究員。ロンドン在住の時にサッカーのプレミアリーグ化に直面しスポーツビジネスの記事を書く。「Number」「AERA」などで執筆。ユースを描いたサッカー漫画「アオアシ」で取材・原案協力、マンガ大賞2017で4位を獲得。日経BP「スポーツビジネスの未来 2018ー2027」(監修・執筆)など。NewsPicks・日経BPで好評連載中。Twitterアカウント:@Nao_Ueno

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