「体験してこそ知ることができる」スポーツホスピタリティ事業の可能性
ホスピタリティ付きのチケットにも、ニーズに合わせていくつかの種類がある。
ひとつは富裕層やコアなファン層に向けた個人向けのチケット。観戦前に「特別な場所」に集まり、食事を共にしながら、同じ試合を楽しむ参加者同士のソーシャル空間を作り出す。当然ながら価格は観戦チケットよりもはるかに高価だが、それでも”特別”を求めて高価なチケットを入手したいと思う人が多いことは、昨今の人気イベントチケット転売などの問題をみても容易に想像出来るだろう。
もちろん、こうしたホスピタリティ向けチケットを企業が購入し、接待に使うこともあるだろうが、専用個室を用いたホスピタリティ付きチケットもある。スポンサー向けと異なるのは、スポーツイベントによっては、比較的小規模の部屋を商談用、あるいは自社サービス、製品の紹介用にカスタマイズできることだ。
同業の競合が大会スポンサーをしている場合でも、専用個室の中ならば、自由に自社ブランドの訴求を展開できるエリアを設置し、プロモーションを行なったり、あるいは直接的に事業につながる体験エリアを作るなど、スタジアム内や周辺にスペースさえあれば、様々なカスタマイズが行なえるケースも想定される(もちろん大会主催者側としてはスポンサーへの配慮も重要ではあるが)。
欧米で近年特にスポーツホスピタリティ事業として伸びているのは、こうした企業向けの中小規模のホスピタリティスペースの設置事業である。
倉田氏は「スポーツイベントに参加者する者同士のソーシャル空間が生まれ、ビジネス面での効果も高いだけでなく、直接的に効果が見える」ことが、事業として伸びている理由だという。
事業パートナーとの関係の強化、ブランドロイヤリティ強化、新規ビジネスの提案といったことが目的ならば、ユニフォームやスタジアムへのスポンサーロゴ掲示などのマス広告に比べ、費用対効果が高いことが理由だという。
RWC2019のホスピタリティ付きチケットは、すでに「売り切れ寸前」
STH Japanの親会社であるSTH グループは、イングランド開催だった前回のRWCでもホスピタリティを提供していた。あの世紀のジャイアントキリングとなった日本対南アフリカ戦では、300人近くが入れるスタジアム内のバンケットルームに集まってもらい、そこで参加者同士が会食しながらの交流。優勝トロフィーの展示を楽しみつつ、事前に専門家の予想や解説を聞き、試合開始後も専門家の話を聞きながら観戦してもよし、個室に移動して静かに自分たちだけの世界で試合を楽しむこともできるようにしたという。
通常のAカテゴリー席の観戦チケット価格は85ポンドだったが「この内容のもっとも安価なホスピタリティ付きチケットで475ポンド。一般に欧州では、観戦チケットの5~6倍ぐらいの価格が付けられることが多い(倉田氏)」という。
日本開催となるRWC2019では、決勝・準決勝戦、日本戦など7試合が行なわれる予定の横浜国際総合競技場の場合、会場そばのエリアに定員20名のプライベートスイートを20部屋に加え、レストラン形式のスペースを加えた1500名程度が収容できる仮設建築物でのホスピタリティ空間を設置する。
他にもスタジアム内にラウンジを設置したり、近隣ホテルのバンケットルームでのパーティを催すなど、価格やサービス内容が異なる5種類のホスピタリティ付きチケットが販売されている。
これら特設会場にアクセスできるチケットを持つ顧客はおおむね3時間前から入場でき、食事はスイートルームの顧客は自室で楽しめるほか、上記の専用レストランスペースで様々な関連イベントとともに楽しめる。さらには試合後の混雑を避け、ゆっくりとこうしたスペースに戻ってエンターテインメントや食事、飲み物を楽しんでから帰途へとつく。
中でも企業向けに販売されているプライベートスイートルームの価格は1部屋あたり4000万円。他のチケットは試合ごとの販売だが、スイートルームに関しては横浜会場で開催される試合のすべてが観戦できる。もちろん、価格には内装カスタマイズの権利や食事、飲み物、お土産など、すべてがパッケージ化されているが、販売開始後、あっという間に売り切れたという。
ホスピタリティ付きチケットを購入している企業の投資トップ10は、日本、アメリカ、ドイツの企業が占めているという。主催国である日本は当然としても、アメリカ、ドイツはともにラグビーが盛んな地域ではなく「純粋に費用対効果が高いため(倉田氏)」だ。
スイートルームを購入した顧客には東南アジアに拠点を置く金融関係者が多い他、個人で購入したマレーシア人もいるという。日本市場へと進出したい、あるいは日本企業と提携して自国での事業へとつなげたいと思う人たちにとって、ピンポイントでキーマンとスポーツを楽しみながらリラックスした雰囲気の中で商談ができる機会を持てるならば、4000万円という投資は決して高くはない。
国際的なスポーツイベントへの巨額スポンサー料を支払うことなく、顧客との関係を高めることができるからだ。マス向けに企業名を訴求する必要がない企業にとっては、極めて合理的と言える。
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