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地方の料理人を支援する「アスラボ」が、東急TAP2018最優秀賞を獲ったワケ

2019年04月15日 06時00分更新

複数の店が集まる百貨店は売り場との信頼関係が大事

小川氏(以下、敬称略):「去年の5月にアスラボさんの応募があり、すぐにお会いしました。当初の提案は、渋谷の東急フードショーでの企画で、横丁の店舗のイベントを行い、顧客の人気が高かった店舗を常設で置けないか、というお話でした」

片岡氏(以下、敬称略):「そうですね。最初は、横丁事業の延長線上で考えていました」

小川:「百貨店の食品売り場は、1店舗当たりの面積が小さい細密編集で非常に効率が高い部門。新しい店舗にどんどん入れ替えていかなくてはなりませんが、売上のミッションもとても高いため、実績がない店舗を入れるのは難易度が高いのが現実です。また、私のようなバイヤーが全国を駆け回り、出店の可能性がある店舗を発掘し続けるのは実際は難しいことです。今回のイベントでは発掘業務をアスラボさんに担っていただき、東京初上陸の食材と料理人の味をご披露していただけることは今後に向けて大きな収穫になると考えています」

伊藤氏(以下、敬称略):「実は、初めてお会いしたとき、本日登壇した4人のほかに弊社常務が同席していました。弊社は85周年という歴史があり良いことも多くありますが、変えなくてはならないこともたくさんある。百貨店は、新しさの興奮を発信し続けることが重要です。しかし、企業規模が大きくなると、アントレプレナーシップがすごく弱くなる。共創によって、外部のナレッジと連動しながら、絶えず新しいものが売り場に出てくるスキームに魅力を感じました」

東急百貨店 経営統括室 事業開発部 兼 専門店開発部担当 部長 伊藤正貴氏。東急百貨店におけるTAP担当

加藤氏(以下、敬称略):「いちばん難しい部分は、小川さんが握られているように思います。百貨店に出店されているテナントの方への理解を取り付けて、協力してもらえるかどうかにかかっている。今回のイベントが実現にこぎつけたのは、小川さんの功績ではないでしょうか」

小川:「百貨店では、売り場の責任者や販売する人の協力を取り付けることがすごく大事です。私は7年バイヤーとして商品やお取引先を売り場に投入する仕事をしていましたが、何よりも“これならできる”と思ったのは、アスラボさんの熱意です。食品は、一歩間違えると命にかかわる仕事ですから、信頼関係が大切。片岡さんなら、現場の人間も信頼して、一緒に歩んでいけると直感しました」

伊藤:「渋谷ヒカリエ ShinQs店長も現場も含め、私たちみんなが面白い企画だと思った。バイヤーの小川もできると言っている。なら、やるしかない。では、どうやるのか? 具体的な課題をひとつずつ掘り起こしていく作業に時間をかけました」

片岡:「東急百貨店側の意思決定はすごく早かったです。でも、イベントスペースはアスラボのみの展開のため、すぐに決断してもらえるが、東急百貨店に出店している売場を運営するお取引先はまったくの別会社なので、百貨店側の判断のみでは意思決定ができない。ひとつのフロアにたくさんの取引先があり、関わっている人も多い。まとめていくのは、すごく大変なご苦労があったと思います。ベンチャーとは違うハードルがあることを知り、勉強になりました」

スモールスタートで、まずはやってみる

加藤:「資本関係のない会社への説得、理解を取り付けるのは、やはり難しかったですか?」

小川:「満額回答は難しいですね。実際にやってみたら赤字で大変だった、となってはいけないので、出店者様に無理強いはできません。今回の企画は、まずは1回できることからやってみることが重要だと考えています。東急グループの新しい取り組みとして認知してもらい、協力者を増やしていければと」

東急百貨店 小川妙子氏。食品のバイヤーとして開発業務に約7年間携わる。東急フードショー、東横のれん街など渋谷を中心とした食品売り場の店舗の入れ替え、商品の企画を担当

加藤:「絶対に成功するなら、そもそもやっている話。今までやってきたことがない取り組みだから、答えがわからないのは当然です。打ち合わせを横で聞いていて、“まずは、やる”という百貨店側のマインドセットを強く感じました」

伊藤:「今は生活者の変化が速く、旧来型のPDCAサイクルでは、間に合わない。スモールスタートで修正を重ねながら大きな取り組みにしていくことが重要なので、まずは実施してみることですね」

加藤:「失敗するなら、早く、小さいほうがいい。スタートアップ側としては、時間をかけて翻弄された挙句、結果はできませんでした、となると悲劇です。1回失敗してやめるのではなく、失敗から課題を洗い出し、ケアしていく、根気のいる作業なのではないかと感じています」

好立地のリアルな空間を活かし、常に新しいものが生まれ続ける百貨店へ

加藤:「最後に、このイベントの後、どのように進めていきたいですか」

片岡:「僕らはもともと地方でビジネスしていますが、本当に地方にはいいものがある。それを東京でも楽しめるような環境をつくっていきたいです。東急百貨店との取り組みの大目標としては、わくわくする新しい小売りをつくりたい。ECも便利ですが、僕は場所や空間が好き。東急百貨店はいい場所にあり、ベンチャーマインドもあるから、これから渋谷はもっと面白くなるはず。その仲間の一人として、一緒に渋谷を変えていきたいです」

小川:「百貨店は、恒常的に変化し続けることがすごく大事なので、常に変化する売り場づくりができる仕組みをつくりたいですね。渋谷だけでなく、沿線も含めて、チャレンジできる場づくりをしていきたいです」

伊藤:「弊社中期経営計画では、百貨店事業を起点に、リアル(店舗)・デジタル(無店舗)、物販・サービスなど、多様な事業・ノウハウを組み合わせた『融合型リテーラー』に進化することを掲げています。すべてを自前で持つよさもありますが、いろいろなところと組むことによって、より速いスピードで進化していける。東急アクセラレートプログラムに参加する以前はこういう情報への接点がなかった。2019年からもっと進度を速めていきたい」

加藤:「アスラボのビジネスモデルは、システムの提供だけでなく、『横丁』という場所をマスターリースしている。不動産オーナーにとっては、ワンフロアの管理をアスラボに一任できるのはありがたい。うちの都市開発事業とも相性がいいですし、東急百貨店との取り組みは地域活性化にもつながる。東急アクセラレートプログラムは、東急グループのやりたい人が、やりたい人と、やりたいことができるプラットフォーム。今後もこういった取り組みを広げていきたい」

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