ゲームは人を対象とした専門のソフトウェアジャンルだ
いまコンピューターの世界をどんどん変えている2つの要素が、AIとGPUだ。米国で、ゲームに関する「GDC 2019」(3月20~22日)とNVIDIA主催の「GTC 2019」(3月17~21日)の2つの開発者会議が開催された。その1つGDCでの最大のトピックは、グーグルが発表したゲームプラットフォーム「STADIA」だった。
1.ゲーム機を不要にする
2.4K、60fpsでも遅延がない世界
3.オンラインゲームではなく、Xbox OneやPlayStation4の領域まで含む
4.1ボタン(URL貼り付け)でプレイ状態を共有できる
5.YouTubeと連動してチュートリアルやコミュニティが作れる
6.グーグルがこれに合わせてゲームスタジオを開設
8.AI技術を生かしてくるものと思われる
もう少し踏み込んで説明すれば、クラウド側で使うCPU(AMDと共同開発)は10.7TFLOPS(やや中坊的な表現だがこれはPS4 ProとXbox One Xの合計値より大きいとか)、複数のインスタンスをつなげてパフォーマンスをアップできるのでより高精細・高負荷のゲームにも対応できる(端末の買い替え不要)。
これは「ゲームのNetflixをはじめる」と理解することもできるし、同時に、「未来のゲーミングをめざしている」とみることもできる。個人的には、AI技術の活用の部分もおおいに興味がある。あるゲームの風景などのアートを機械学習を用いて新しいゲームに適用する「Style Transfer」という技術も開発社から紹介されたそうだ。
ただし、このSTADIAに関しては、「本当に遅延のないゲームストリーミングが可能になるのか?」、「発表された以上のゲーム会社を巻き込めるか?」など、疑問視されている部分もあるようだ。
英国BBCのニュースでも、ゲーム専門サイトの記者がそうした疑問をぶつけていたが、STADIAの責任者は「帯域の増加はそれほど必要ない」といった意味のことを述べていた。それって本当のなか? と思わずにはいられない(後述の三宅氏によると各社ここはいろんな技術を投入してきているそうだ)。
ゲーム関係者の間では、「お金」に関する部分も話題になっているようだ(少なくとも公式には未発表なのだ)。ゲーム会社との間のお金のやりとりは、いままでのソニーや任天堂、マイクロソフトとどう変わるのか?
プレイヤー的な視点を含めれば、定額課金制など課金システムも気になるだろう。デジタルの歴史を見てくると、グラフィックスの美しさや操作性よりも「お金のとり方」がゲーム内容に影響を与えうるともいえる。
ところで、「遅延がない」、「プレイ状態を共有できる」、「AI技術を生かす」というあたりは、ゲームだけに必要な技術だろうか?
ふだん自分が仕事をしているデスクワークにしろ、遠くにいる人とのコラボレーションにしろ、より知的な作業するときにこそ欲しいのがこうした機能ではないのか? つまり、STADIAの向うには今後5~15年後のコンピューティング全体の行方が見えているのかもしれない。
いまや当たり前のインタラクティブ性もグラフィック表現も、1980年代には、ゲームのほうが先行して進化させてきたことなのだ。
10年ほど前にスマホがきて、5年前にAIがブレークした。では、5年後、10年後は?
このグーグルの新しいサービスの詳細は、6月12~14日に開催予定のゲーム見本市「Electronic Entertainment Expo」(E3)を待たなければならないらしい(少なくともエンドユーザーに対しては=北米、欧州で2019年中にサービス開始予定)。しかし、ご存じのとおりデジタルの世界は、技術やトレンドの積み重ねの上にしかサービスは作られない。そのヒントは、すでに提示されているはずなのだ。
ということで、このGDC 2019、GTC 2019を終えたタイミングで、これからのAIやネットワークやチップなどハードウェアの今後を展望するセミナーを開催させてもらうことにした。STADIAは、ある意味象徴的なサービスの提示であって、重要なのはその背景にあるものではないか? GDC 2019、GTC 2019を終えたこのタイミングは、今後の5年、あるいは10年が見据えるいいタイミングだと考えられるからだ。
4月22日(月)に「三宅陽一郎×後藤弘茂・AIと半導体はこれからどこまでいくのか、そして5G」と題したセミナーを開催する。
講師の1人目は、スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏。ゲームは、いわば人を相手にすることを専門としたソフトウェアジャンルである。GDCの内容もさることながら、三宅氏のゲームAIに関する解説は、今後のデジタルコンテンツやコンピューティング全体にも大きなヒントを与えてくれると思う。
講師2人目は、テクニカルジャーナリストの後藤弘茂氏だ。マイクロプロセッサや半導体全般の解説者としてPC Watchの連載『後藤弘茂のWeekly海外ニュース』は、その信頼感とともにファンも多い。後藤氏には、ニューラルネットワークを実装するときに欠かせないチップやコンピューティングの進化、そして、ムーアの法則が鈍化した以降の半導体の世界を解説していただく予定だ。
なお、第三部として三宅氏と後藤氏というまたとない組み合わせの対談を予定している。デジタルの世界の主要なプレイヤーの動きとサービスのトレンド、そのときに必要となる技術を見ながら、今後を予測・展望したい。AI、ゲーム、デジタルエンターテインメント、ライフスタイル、コンピューティング全般に興味のある方は、ぜひ参加していただきたい内容となっている。
開催概要
三宅陽一郎×後藤弘茂・AIと半導体はこれからどこまでいくのか、そして5G
■日時:2019年4月22日(月)18:30 ~ 21:30(18:00 受付開始)
■会場:KADOKAWA富士見ビル 2F/イベントルーム(東京都千代田区富士見2丁目13-12)
■内容
第一部 GDC(ゲーム開発者会議)2019における人工知能技術の動向(講師:三宅陽一郎氏)
第二部 ゲームやAIを支えるプロセッサアーキテクチャと半導体技術の動向(講師:後藤弘茂氏)
第三部 AIと半導体技術、5Gのゆくえを語り尽くす(対談:三宅陽一郎氏、後藤弘茂氏・司会:遠藤 諭=角川アスキー総合研究所)
■参加費:8,000円(税込)
※MITテクノロジーレビューの新規購読、および読者向け優待があります。ほか優待については申し込みサイトをご覧ください。
■主催:株式会社角川アスキー総合研究所
■協力:一般財団法人 デジタルコンテンツ協会(DCAJ)
■申込みページ
https://lab-kadokawa81.peatix.com
遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。雑誌編集のかたわらミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』など書籍の企画も手掛ける。アスキー入社前には80年代を代表するサブカル誌の1つ『東京おとなクラブ』を主宰。現在は、ネット・スマートフォン時代のライフスタイルについて調査・コンサルティングを行っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』、『ソーシャルネイティブの時代』など。趣味は、神保町から秋葉原にあるもの・香港・台湾、文房具作り。
Twitter:@hortense667Mastodon:https://mstdn.jp/@hortense667
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