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「IPナレッジカンファレンス for Startup」レポート

各界のプロがホンネで語る世界展開を成功させる知財戦略とは

2019年03月27日 07時00分更新

【第2部】知財プロフェッショナルが語るスタートアップの課題と新たな働き方

 第2部は、「知財プロフェッショナルが語るスタートアップの課題と新たな働き方」をテーマにしたパネルディスカッションを展開。登壇者は、株式会社メルカリ 社長室 兼 法務マネージャー 齊藤友紀氏、Social Harmony 弁理士 西山彰人氏、株式会社DRONE iPLAB代表取締役 中畑 稔氏、モバイル・インターネットキャピタル株式会社 元木 新氏の4名。モデレーターは、特許庁スタートアップチームリーダーの今村 亘氏が務めた。

(左から)モバイル・インターネットキャピタル株式会社 元木 新氏、株式会社DRONE iPLAB代表取締役 中畑 稔氏、Social Harmony 弁理士 西山彰人氏、株式会社メルカリ社長室 兼 法務マネージャー 齊藤友紀氏、株特許庁企画調査課 課長 今村 亘氏

失敗を未然に防ぎ、成功するために、早い段階での知財戦略が大事

 最初のテーマは、「スタートアップの知財に関する成功談、失敗談」。

齊藤氏(以下、敬称略):「特許は即効性のある武器ではないという認識です。どちらかというと、ビジネスの中長期的な戦略として、参入障壁や他社から攻められたときのカウンターとして使うことが想定される。こうした目線で、どのように特許を取っていくのが最善なのかを考えなくてはなりません。大元にビジネスモデルがあり、それを実現するために技術がある。これを忘れて、技術と特許を安易に結び付けてしまうと失敗しやすい」

株式会社メルカリ社長室 兼 法務マネージャー 齊藤友紀氏

西山氏(以下、敬称略):「オープンイノベーションのイベントに参加すると、審査員から『スタートアップは特許を取り、ビジネスモデルに磨きをかけてから来てほしい』という意見をよく聞く。特許は従来技術との違いを明確にし、競合優位性があることの証明になる。これを顧客の求める価値に結びつけて主張できれば、ビジネスモデルの収益性の説得力が増してくる。この点を意識してピッチに臨むといい評価につながります」

Social Harmony 弁理士 西山彰人氏

中畑氏(以下、敬称略):「知財の知識があれば防げたのに、相談を受けたときには、すでに重症化してしまっているスタートアップのケースが多々あります。大企業であれば、知財を使わなくても別の交渉カードが切れるが、スタートアップの場合、経営に対する知的財産の相対的な価値が高い。だからこそ、初期段階から始めるほうが失敗を未然に防げるし、成功も早くつかめる。

株式会社DRONE iPLAB代表取締役 中畑 稔氏

 トラブルが起きる会社は、たいてい知財の担当者がいない。新しい事業には落とし穴がいっぱいあるが、CEOに一任していると、知財は後回しになりがち。ドローンの機体フレームを作っている会社は、創業時から知財責任者(CIPO)を置いています。その結果として、数々の賞を受賞するなど、成功につながっている」

元木氏(以下、敬称略):「投資家の立場では、知財というより、知財マインドが重要です。まずは経営者の知財マインドを醸造して、意義を理解したうえで、知財戦略を進めていくのが基本。さらに、会社の文化として知財マインドを定着させることが次のステップです。知財マインドがないのに、知財活動に執着して特許を取りまくるのはお金のムダ。まずは知財マインドを醸造しましょう」

モバイル・インターネットキャピタル株式会社 元木 新氏

いい知財専門家の見極め方、付き合い方

 事業戦略と結びついた知財への意識、知財マインドを育てるためには、いい専門家と出会い、信頼関係を築けるかどうかにかかっている。そこで次のテーマは、「知財専門家とうまく付き合うには?」。

中畑:「弁理士の先生が見つからない、という相談をよく受けます。特許事務所は、申請件数が多いほど儲かるが、スタートアップは余計なコストは払いたくないため、利益は相反します。スタートアップ側は知財の知識が足りないため、どこまで専門家の先生を信用していいのか、判断が難しく、疑心暗鬼になってしまうのです。専門家としての能力云々よりも、自社のビジネスに興味をもってくれていることがいちばん重要。見極める方法として、発信するリリースにひと通り目を通し、アプリなどがあればダウンロードしてくれているかどうかを確認するのも手です」

齊藤:「技術そのものではなく、ビジネスに興味を持ってくれる専門家の方でないと、本当に役に立つ特許は取れないと痛感しています。特許の持つバリューを一緒に考えてくれる専門家でないと、お金のムダになってしまう。それを理解してくれる専門家がいてくれればいいが、なかなか見つからないのが現状ですね」

西山:「起業前から知財の専門家とコミュニケーションが取れる機会があるといい。創業前のスタートアップが集まる場に知財の専門家が参加し、気軽にアドバイスが受けられるような場があれば、初期の段階からリスクをヘッジできるのでは」

元木:「ベンチャーのスピード感に、寄り添っていただけるような専門家とお付き合いしたい。具体的には、初回面談の1~2時間で、ファーストクレームができあがるくらいのスピードがほしいですね」

大企業とスタートアップがうまく連携するためのコツ

 最後のテーマは、「こういう大企業だと付き合いやすい!」。スタートアップにとってスピード感は非常に重要。大企業は、スタートアップとの協業で、どういう体制を取れば、このスピード感をうまく活かせるのだろうか。

齊藤:「本質的にはフェアであること。大企業には大企業の強みがあるが、スタートアップにはスタートアップの強みがある。その価値を適正に評価する姿勢が大事です。大企業の課題は、意思決定が遅いこと。そもそも現場担当者に意思決定の権限がないことも多く、意思決定権者とスピードを求めるスタートアップの間に挟まれて、取引が空転することがあります。現場の担当者に意思決定の権限を持たせている企業とは協業がしやすい」

西山:「会社組織として何も決まっていないのに、情報収集のレベルで接してくる人もいるので、スタートアップ側も相手をよく見定めて対応したほうがいいでしょう。現場の担当者レベルでは盛り上がっていたのに、法務でNGになることも多々あります。相手企業の法務担当の性格なども探りを入れておけるといいかもしれません」

中畑:「エアモビリティの分野では、安全機構の開発や量産など、スタートアップだけではどうにもできない部分があります。量産には、大企業のリソースは貴重なので、うまくやっていかないとスケールできません。その点、理解のある企業がこの分野は多いという印象ですね」

元木:「大企業がスタートアップに興味を持ってくれるのはありがたいが、ベンチャーマインドをくみ取ってあげることもすごく大事。名刺交換したときに、“M&A担当”といった書き方であれば、その時点で終了です。上からではなく、スタートアップ側のマインドセットを十分に理解していくと、取り組みはもっとうまく進んでいくのではないかと思います」

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