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「IPナレッジベース」コミュニティーイベントin福岡レポート

地方発ベンチャーが成功するための知財戦略とは

2019年02月15日 07時00分更新

 ASCII STARTUPは2018年12月7日、スタートアップと知財関係者を対象にしたセミナーイベント“「IPナレッジベース」コミュニティーイベントin福岡”をFukuoka Growth Nextにて開催した。当セミナーは、スタートアップが知財を活用するための情報提供と専門家とのコミュニティーづくりを目的としたイベント。特許庁によるベンチャー×知財関連施策についての講義と、ゼロワンブースターの合田ジョージ氏とQB Capitalの坂本剛氏によるパネルディスカッションを行なった。

 第1部では、特許庁 総務部企画調査課ベンチャー支援班係長の吉野涼氏が登壇し、スタートアップの知財戦略と特許庁のスタートアップ支援施策を紹介した。

特許庁 総務部企画調査課ベンチャー支援班 係長 吉野涼氏

スタートアップにとって知財は必須のツール

 最初に、なぜスタートアップにとって知財が重要なのかについて説明。信用や資金力のないスタートアップは、破壊的技術やアイデア、尖った人材、行動力が強み。つまり企業価値≒知的財産といえる。しかし、日本のスタートアップは、米国のスタートアップに比べて、特許の取得数が少なく、知財への関心が低い傾向がある。

 「知的財産権」としては、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権などが該当するが、「知的財産」は、ブランド、営業秘密、ノウハウなども含めて考えていく必要がある。

ブランドや営業秘密、ノウハウなども知財の一部

 知財の機能としては、「独占」「連携」「信用」の大きく3つ。「独占」は、競合他社の模倣を防ぎ、事業の差別化を図るものだ。「連携」は、大企業との事業提携などをする際、交渉力を維持するうえで特許は重要になる。「信用」は、資金調達やM&Aで知財が評価に大きく影響する。

 続いて、スタートアップが最低限やっておくべき知財対策として、1)社名・サービス名の商標のチェック、2)知財の体制構築の2つを挙げ、特許庁のJ-PlatPat検索サービスを利用した商標のチェック方法、CIPOを設置するなどの具体策を紹介した。

 最後に、特許庁のスタートアップ支援施策を紹介。2018年7月にベンチャー支援チームを設置し、1)知財コンテンツとセミナーイベントによる情報提供、2)1ヵ月以内に特許審査の結果がわかるベンチャー企業対応スーパー早期審査、3)知財アクセラレーションプログラム(IPAS)、4)海外展開支援プログラム(JIP)、5)特許料等の減免制度――の5つの支援策を実施している。

 特許庁では現在、投資家向けの手引書の作成しており、今年度末に公開される予定。また、スタートアップと知財専門家の出会える場の提供を行なっていくとのこと。

 特許庁の支援策について詳しくは、特許庁のホームページ「IP KNOWLEDGE BASE for Startup」に掲載されているので、興味のある方はぜひアクセスしてほしい。

起業する際に知財で事前に気を付けたいこと

 続く第2部では、ゼロワンブースターの合田ジョージ氏とQB キャピタルの坂本剛氏が登壇し、スタートアップ知財戦略の最新事例をパネルディスカッション形式で語った。

 知財についてのスタンスとしては、「何かの事業をやるときは、特許と商標は常に一緒に進めていくことが大事」(合田氏)、「特許を取るのも大切だが、まずは人の権利を侵害していないかの調査だけでもやっておくべきです」(坂本氏)と、両者ともに事業を始める前から知財の準備を進めることがまず強調された。

ゼロワンブースター 共同代表 取締役 合田ジョージ氏

QBキャピタル 代表パートナー 坂本剛氏

スタートアップにとっての知財戦略の優先順位、ステージによる時期は?

坂本氏(以下、敬称略):「リアルテック系では、特許がある程度担保されていなければ、なかなか出資が受けられない。資金調達の前に、しっかり戦略を立てておく必要があるでしょう」

合田氏(以下、敬称略):「ステージが進んでいくと、自分たちだけでやるのは難しくなる。専門家や投資家と相談しながら進めていくのが現実的です」

坂本:「知財戦略にはお金がかかります。たいていのスタートアップは、資金調達の段階では開発費しか見積もっていないことが多い。あらかじめ知財費用を見込んで、資金調達をしておくことが大事」

合田:「特に海外展開を目指すなら、知財は必須。特許の重要性を理解しているVC、投資家と出会うことが何より大切です」

坂本:「とはいえ、特許を出さなくていい場合もあります。特許を取得すると1年半後にはその技術が公開されるため、戦略的に秘匿するのも選択肢のひとつです」

上手な知財戦略をしているスタートアップの事例

坂本:「日本でうまくいっているケースは非常に少なく、バイオ系では東大発ベンチャーのペプチドリームなど一握り。欧米や韓国の企業は知財にかけるコストが違います」

合田:「日本の有名大学でうまくいっているケースでは、たとえば年間100~200の特許を出願しているが、利益になるのはそのうち10%足らず。その中で大型に成長した大学発のベンチャーが出現がしたのは、積極的に売り込みをしたから。どんなに優れた研究成果も、使わなくては技術の塊に過ぎません。特許を活用して、資金化してもらうために、しっかりと売り込んでほしいですね」

坂本:「特許はただ持っているだけではコストにしかなりません。利益を生むには、イノベーションのフレームの中で特許をうまく当て込めるかが重要です」

自社に合う弁理士さんの見つけ方

坂本:「九州地域は知財の専門家が少なく、経験値が高い方は都心に集中しています。今はリモートでも相談を受け付けてくれる弁理士さんがいるので、地域にこだわらず、東京など広い範囲で探してみては。一方で、地元の弁理士さんと、かかりつけ医のような感覚で気軽に相談に乗ってもらえる関係性がつくれるといいですね」

合田:「海外展開を目指すなら、現地のネットワークをもつVCから弁理士を紹介してもらうのがいい方法です」

坂本:「国によって特許の扱い方も違います。コミュニティーの結束は大切だが、地元にこだわりすぎると閉じてしまう。広い視点でビジネスを考えてほしいです」

 特許取得には費用や時間がかかり、特許がなければ資金調達が難しい、というジレンマがある。資金力のないシード期は、特許庁のスピード審査や減免制度などの支援をうまく活用するといいだろう。また、効果的な知財戦略を進めていくには、事業の内容と知財に理解のある弁理士や投資家との出会いが不可欠だ。現在、ASCII STARTUPと特許庁では、知財セミナーやコミュニティー構築を支援するイベントを開催している。イベントに参加してネットワークを広げ、相性のいいパートナーを見つけてほしい。

弁理士による逆ピッチも開催!
スタートアップのための知財戦略セミナー2月20日開催

 知財戦略に関心をもっている、また知的財産を有し国内だけでなくグローバル市場を狙ってビジネスを展開するベンチャー、スタートアップ企業と知財関係者を対象にしたセミナーイベント『「IPナレッジベース」コミュニティーイベント in 東京2』を、2019年2月20日(水)にKADOKAWAの五番町グランドビル 7F セミナールーム(市ヶ谷)で開催します。

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