国内の“知の最前線”から、変革の先の起こり得る未来を伝えるアスキーエキスパート。ソニーセミコンダクタソリューションズ(株)の田谷圭司氏によるイメージングとセンシング領域におけるイノベーション最新動向をお届けします。
「距離」を数値化できるイメージセンサー
前回は、スマホに複数台カメラ/イメージセンサーが搭載され、高画質な写真やビデオが撮影できるという話をしました。スマホに搭載されているイメージセンサーは、写真やビデオを撮る目的のものだけではありません。レンズの部分が見えにくくなっているため、気付かないですが、ほかにも複数のイメージセンサーが搭載されてきています。今回は、こういった通常のカメラ用途ではないイメージセンサーについて述べたいと思います。
スマホに搭載されている写真やビデオを撮る以外のイメージセンサーの役割は、何らかの情報を取り出すことです。近年、一番よく扱われる情報は、「距離」です。対象物までの「距離」を数値化して残すことができるイメージセンサーが存在し、それを搭載しているスマホが増えてきました。この「距離」の情報を得ることで、できることが飛躍的に増えます。具体例をいくつか上げたいと思います。
1つ目は、個人を特定する技術である個人認証の精度を大きく高められる点です。
個人を特定して、スマホのログインを許可する、インターネット上で銀行に振り込むなど、個人認証の必要性は高まってきています。最近、指紋認証が一般的になってきましたが、指が汚れていると認証が難しくなったり、指紋が複製されたりするなど、使い勝手と安全性にはまだ課題があります。従来から利用されているPINコードは、横からのぞき見られると他人に知られてしまいます。
一方、顔で認証できれば、スマホの画面を見る動作だけで認証され、利便性が上がります。通常の顔の画像だけでは、写真でも認証されてしまう可能性があります。しかし、距離情報を用いることで、口や鼻、目などそれぞれの高さを取得し、顔の形の情報も追加して、安全性を高めることができます。さらに、まばたきなどを検出することで、生きている人間の顔のみを認証できるようになるなど、安全性は飛躍的に高まります。
安全性のほかに、現実世界と仮想世界を重ね合わせるMixed Reality(MR)の技術が注目されています。たとえば、体育館のような広い空間にスマホをかざすと、壁までの距離や床の距離などを読み取り、スマホ上で画像を重ね合わせて、体育館の床から、クジラやイルカが飛び出すような映像をスマホ上に再現できます。自分の家の部屋で、壁から飛び出してくるゴーストを退治するシューティングゲームしたり、テーブルをサッカー場に変えたりもできるようになるでしょう。
さらに、通常のカメラで撮影した写真の中から、距離の情報を元に、人物だけを抽出し、人物以外の背景をぼかす処理を入れることも可能です。そうすると、人物がより際立つ、いわゆる「映える」写真を手軽に残すことができます。
3つの例を挙げましたが、距離の情報を用いることで、スマホの安全性を上げるだけでなく、より楽しい使い方をすることができるのです。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります