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リクルートワークス研究所が「働きがい」と「働きやすさ」の両立を提言

サービス産業の働き方改革は「タスクマネジメント起点」が鍵

2018年09月04日 12時00分更新

 2018年8月23日、リクルートワークス研究所は「サービス産業の『新しい働き方』」と題した新たな調査レポートを発表するため、会見を開いた。この調査は、昨年2017年に発表された民泊業の働き方改革に関する調査結果を受け、さらに飲食業や小売業へと調査範囲を広げたものだ。

 今回の調査の中で提言した「“タスクマネジメント”を起点とする働き方改革モデル」はサービス産業を対象としているものの、他産業にとっても有益だ。労働の時間や場所の変革がなかなか難しい産業や企業にとっても、ソフト面から取り組める今回の提言は、「働き方改革」の打ち手に新たな道筋を示してくれるだろう。

100人の募集にたった8人!「働きがいを感じられない」サービス産業の現場

 提言に繋がる、サービス産業の労働の現場の課題が、アンケート・インタビュー調査から明らかになった。

 人手不足の深刻化は、全産業で重要な課題となっている。しかし、サービス産業では他の産業に比べ先んじて、その問題が事業へ影響を与えているようだ。このプロジェクトのリーダーであるリクルートワークス研究所 研究員 城倉亮氏は、「他業界に比べ正社員比率が低く、人材獲得が難しいため影響が出やすいのがサービス産業。新店舗オープンのために100名の人材を募集したものの、結果は8名しか集まらず、出店計画に影響が出た事例もある」と話す。

リクルートワークス研究所 研究員 城倉亮氏

 こうした人手不足が、現場の従業員の働き方の悪化へつながる。小売業、民泊業などサービス産業は他業界よりも労働時間が長いことがわかっているが、特に飲食業は週45時間以上が63.1%。この数値は、全産業では41.0%となり、20ポイント以上の差がある。これでは、従業員の「働きやすさ」が守られているとは言えない。

 加えて課題と提示されたのが「働きがい」の不足だ。「自分で仕事のやり方を決めることができた」「他人に影響を与える仕事に従事していた」など、働きがいに関する質問に「当てはまる」と回答した割合を見ると、サービス産業は他の産業に比べると10ポイントほど低い。「では、これらの課題を解決するために、賃金を上げれば良いのか?労働時間を減らせばいいのか?とも思ったが、インタビュー結果からはそれでは不十分であると考えました」と城倉氏は語る。

タスクの効率化だけでは不十分 高付加価値化に着目したタスクマネジメント

 リクルートワークス研究所は、サービス産業の先進事例となる22社にインタビュー調査を行ない、働きがいにつながる要素を抽出。その結果、仕事を整理することだけでなく、仕事に“意味・意義”を定義することの重要性が見えてきた。

 そこで、今回「サービス産業の働き方改革モデル」と「8つの視点」の提案に至る。

 「サービス産業の働き方改革モデル」とは、タスクマネジメントから生産性向上につなぐ。ここでのタスクマネジメントは、「タスクの高付加価値化」と「タスクの効率化」を目指すものだ。

 この「タスクの高付加価値化」こそが、今回の調査結果の新規性である。資料によると、タスクの高付加価値化とは、“顧客のサービスに直結するタスクを、より顧客を喜ばせたり、顧客の体験を豊かなものにできるように、やり方や内容を変えていくこと”と定義されている。

 「タスクの高付加価値化」と「タスクの効率化」のそれぞれが、売上アップ、コストダウンに直結する場合もある。一方で、これらは従業員の働きがい、働きやすさも向上させ、従業員満足度も上げるはずだ。また、働きがいのある従業員の働きぶりは顧客満足度の向上に繋がり、結果的に売上にも影響する。働きやすさによる従業員の定着率の向上はコストダウンに貢献するだろう。

 こうした働き方改革を伴う好循環で、生産性を上げるのが、“タスクマネジメント”を起点とした働き方改革である。

 さらに、タスクマネジメントを実現するためタスクの見直しを行なう際に、持つべき8つの視点が提示された。

タスクの高付加価値化4つとタスクの効率化4つ

 タスクの高付加価値化には、「タスクに時間をかける」「タスクの場所を変える」「タスクに情報をいかす」「タスクに予算をかける」の4つがある。一方で、タスクの効率化は「タスクを減らす」「タスクを集める」「タスクを任せる」「タスクを重ねる」という4つになる。会見では、これらの8つの視点で見直しを行ない、見事働き方改革を成功させ、生産性を向上させた事例も、いくつか発表された。

タスクマネジメント起点の働き方改革で、倒産寸前から売上を約2倍伸ばした老舗温泉旅館

 元湯陣屋は創業1918年の老舗温泉旅館だ。実は2009年は10億円の債務を抱えた赤字経営で、一時は倒産寸前にも追いやられていたという。しかし、タスクの見直しにより、業績回復、従業員の働き方も大きく変わったそうだ。

 このタスクマネジメントにおいて、陣屋は“料理”に着目。高付加価値化の実現のため、提供時の演出にこだわって「時間をかけ」、調理場から顧客の目の前へ、調理・盛り付けの「場所を変えた」のが功を奏した。

 効率化においては、稼働率が低い曜日は定休日にすることで「タスクを減らし」、食事の提供を部屋から食事処に変更することで「タスクを集めた」という。食事の提供場所の変更は、従業員の作業時間を減らすだけでなく、料理が冷めてしまったり、提供に時間がかかり、顧客を待たせてしまうという不満点の解消にもつながったという。

 こうした、タスクマネジメント起点の働き方改革を行なった結果、従業員満足度はアップした。その結果、リピーターが増え、稼働率が80%まで上がったことにより、売り上げは2.9億円から約二倍の5.6億円へ増加。離職率も30%から3%と大幅に下がり、EBITDAはマイナス0.6億円から1.6億円へと改善した。

陣屋の働き方改革の成果

 また、陣屋のような大規模な事業主でなくても、成功事例はある。大阪市肥後橋にあるミシュランで3つ星を獲得したレストラン「HAJIME ARTISTES」では、顧客が後を立たない状況が続き、メニュー開発もままならない環境だった。これに持続的な経営への危機を感じたオーナーシェフの米田氏はランチ営業の中止を決断。「タスクを減らす」ことにしたわけだ。一時的な売上減はあったものの、ディナー営業で客単価を引き上げることができ、現在は高い収益性を実現しているという。

 「中小企業では、働き方改革は困難であると思われることが多いが、HAJIME ARTISTESのような事例もある。こうした事例の発信を積極的に行なっていくことも、サービス産業の働き方の転換を推進していきたい」と城倉氏は語った。

 その他にも、調査レポートには、各社がそれぞれに課題に対し、8つの視点で改革に取り組み、成果を題している事例が掲載されている。

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 今回の発表会ではサービス産業の就業実態の課題から生まれた「“タスクマネジメント”を起点とする働き方改革モデル」がテーマだった。しかし、人手不足はどの業界でも進んでいる上に、従業員が裁量権が持てず働きがいを感じられない現象も、サービス産業に限った話ではない。

 今後、他業界でもITイノベーションが進むことにより、従業員の手間、一方で“やりがい”となっていた作業が、システムに取って代われることは今度どんどん増えていくだろう。効率化で働きやすくなったはずが、働きがいが失われてしまうと、働き方改革は成功とは言えない。サービス産業に顕著に現れている課題は、全産業にとって人ごとではないのだ。

 その点、タスクマネジメント起点で考える働き方改革は、身近で取り組みやすいものもある。サービス産業に関わらず、働き方改革に注力する企業はトライする価値のある提案かもしれない。

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