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イメージセンサーの大型化と光学ズームの制約をいかに解消したか

増えるスマホのカメラ 二眼・三眼で生まれる価値とは

2018年10月18日 09時00分更新

国内の“知の最前線”から、変革の先の起こり得る未来を伝えるアスキーエキスパート。ソニーセミコンダクタソリューションズ(株)の田谷圭司氏によるイメージングとセンシング領域におけるイノベーション最新動向をお届けします。

スマホカメラの制約を解決する「複眼」

 スマホカメラの画質比較やランキングを行っているサイトが、国内外含めて多く存在します。画質比較を行なう中で、より美しい写真を撮ることができるという評価を得ているスマホに共通点があります。それは、1台のスマホに複数のカメラが存在するということです。複数のカメラを持つことを、複眼カメラと呼びます。

 この複眼カメラ、2018年8月時点では、カメラを2つ並べている二眼カメラが多いですが、近年はカメラを3つ並べたものまで発売されています。こうすることによって、スマホの厚さによるカメラ性能の制約を取り払おうとしているのです。

 前回、スマホには厚さの制約があり、イメージセンサーを大型化できなかったり、光学ズームを持つことができなかったりするという話をしました。では、なぜスマホのカメラが、イメージセンサーの大型化や光学ズームを持つことができないか、その理由を述べたいと思います。

 その前に、一般的にカメラがどういう構造になっているかを説明します。カメラは、イメージセンサーの前にレンズが複数枚配置されています。被写体から反射した光は、その複数枚のレンズを通して、イメージセンサーに集められます。そして、イメージセンサーによって、光が電子へと光電変換されることで、画像データとなるのです。

 ここで、本題に戻ります。イメージセンサーを大型化するということは、イメージセンサーの面積を大きくするということです。イメージセンサーの面積が大きくなると、画素数を増やすことや、1つひとつの画素を大きくして、暗いシーンでも多くの光を取り込んで明るくきれいな写真をとることができます。

 ただし、イメージセンサーの面積を大きくすると、広い領域に光をあてる必要が出てくるため、イメージセンサーの前にあるレンズも大きくなります。レンズを大きくするには、面積はもちろん、高さ方向にも高くする必要があるのです。このレンズの部分をスマホとほぼ同じ10mm前後の高さにしないといけないため、必然的にイメージセンサーの大きさにも制約が出てきます。

 高さの制約でイメージセンサーが大きくできないのなら、横に2つ並べて足し合わせてしまおうという考えが複眼化の1つのコンセプトです。完全に同じものを置いて2つ足し合わせるだけでも、2倍の光の量を受けることができ、暗いシーンでもより明るい写真を撮ることができます。

 それだけではありません。たとえば、片方を通常のカラーのイメージセンサー、もう一方を白黒のイメージセンサーにすることも考えられます。少し複雑な話になりますが、一般的にカラーのイメージセンサーは、赤(RED)、緑(GREEN)、青(BLUE)の色の情報を得ています。光の三原色の原理で、この3色を混ぜてすべての色を表現しています。

 しかし、この3色の情報を得るために、1つ1つの画素はそれ以外の色の情報を捨てています。たとえば、赤の情報を得るために、緑と青の情報を捨ててしまっているのです。一方、白黒のイメージセンサーは、カラーの情報を扱わないので、すべての光を扱うことができるため、カラーのイメージセンサーの3倍程度明るい画像を得ることができます。

 そこでカラーのイメージセンサーと、白黒のイメージセンサーを横に並べて、両方の画像を信号処理で合成させると、1つのカラーのイメージセンサーで撮った画像より、4倍程度明るくきれいな写真を撮ることができます。イメージセンサーを大型化して、4倍明るい写真を撮ろうとするとスマホが厚くなってしまいますが、複眼化することでスマホの厚みの範囲内で明るい写真を撮ることができるようになったのです。

 もう1つの問題であった、光学ズームに関してはどうでしょう。一般的なデジタルカメラは、レンズの部分が駆動することによって、ズーム機能を得ることができます。この駆動部を持つレンズには、15mm程度の厚さが必要になります。この厚さは、スマホに許されるものではありません。

 この問題も複眼化によって回避することができます。

 焦点距離の異なる複数のカメラを載せておくのです。焦点距離とは、ピントを合わせたときの、レンズから撮像素子までの距離のことです。焦点距離が異なる複数のカメラを載せておくと、異なる距離の画像を得ることができます。近くて広い視野の画像と、遠くて視野は狭いがその部分に関しては高精細な2枚の画像を得ることができるのです。この近くて広い視野の画像と、遠くて一部が高精細なの画像を、信号処理によって自然な形でつなぎ合わせれば、あたかも光学ズームをしているような写真を撮ることができます。

 このように、スマホの厚さの制約でできなかったイメージセンサーの大型化と光学ズーム機能が、複眼化によって可能になりました。

MR対応でのこれからの進化

 これまでは、よりきれいな画像を得るための話をしてきましたが、スマホに搭載されているカメラはそれだけではありません。距離を測定する用途のカメラも搭載されるようになってきています。

 いくつか例を挙げると、距離を測定することで顔の形状を正確に捉えて個人の認証を行ない、手軽にログインすることができるようになります。このほかにも、現実世界と仮想世界を重ね合わせるMixed Reality(MR)の技術で体育館を水族館にすることもできます。こういった機能は、通常の写真を撮る以上の価値をスマホのカメラに与えているのです。

 たとえば、ディスプレー側にフロントカメラ1台と、顔認証用の測距カメラ1台で合計2台が搭載されており、ディスプレーと逆側に画像をきれいに撮るために2台のカメラとMR用の測距カメラ1台の合計3台カメラが搭載されているとします。そうすると1台のスマホに合計5台のカメラが搭載されることになります。

 イメージセンサーが、スマホの性能を上げ、逆にスマホがイメージセンサーの市場を牽引している理由がここにあります。次回は、上記、測距用のイメージセンサーのように、きれいな写真を撮るためではなく、情報を取り出すために使われる用途について、くわしく述べていきたいと思います。

アスキーエキスパート筆者紹介─田谷圭司(たたにけいじ)

著者近影 田谷圭司

大阪大学大学院物理学専攻終了後、大手電機メーカーにて半導体開発に従事。2003年ソニー株式会社に入社し、以降、一貫してイメージセンサーの開発を行っている。現在は、ソニーセミコンダクタソリューションズで、主にMobile製品向けのイメージセンサーの開発を行っている。

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