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さくらじまハウスで聞いたサービス作りに必要なもの

BASEえふしん、LINE和田、ビットスター若狭が語る「サービス作りと運用」

2018年08月20日 10時30分更新

スタートアップはつねに打席に立ち続けないと

 次にサービスをやるときは?という疑問に対して、えふしんさんは「モバツイはTwitterの理念に乗っかったツールに過ぎない。サービス理念ってオレ作ってないじゃんって反省した」と語る。和田さんも「次にサービスやるときは、こういう世界を作りたいという理念は重視しますね」と同調。若狭さんも「『ITで困ったをよかったに』という社是を作ってから、エンジニアは動きやすくなったと言います」と語る。とはいえ、えふしんさんは資質として起業家とは違うようだ。「起業家は世界を変えるとか言うじゃないですか。でも、僕は世界を変える気がない(笑)。むしろ変わりゆく世界に載っていきたいくらい」と語る。

 興味ある技術に対するえふしんさんの答えも「ない」というもの。ただ、「考えたいと思っている」という。ブロックチェーンのような明らかに次来る技術や市場に適用するのは重要。「モバツイもピュアにかっとなってやったんだけど、結局いろんなタイミングや条件が揃っていたからヒットした。そこを狙っていかないとダメだと思う」とえふしんさん。あくまで時間があればという条件だが、技術や市場をしっかり考えて、サービスはどうあるか考えたいというのが今のえふしんさんだという。「スタートアップはバットを振る回数。振らないと、そもそも当たらない」(えふしんさん)。

 「自分で全部やりたい派という和田さんはいろいろあるという。「たとえばSNSは揺り戻しみたいなのが来ていると思っていて、Facebookは大きすぎるので、特定の領域や分野に細分化してくるはずなので、そっちの方向に行きたいなとは思う」(和田さん)。えふしんさんは「mixiコミュもう一度みたいなところありますよね。FacebookやInstagramを使えない人が、Twitterに戻ってきている。Twitterっていつの時代もそういう存在」と語る。

 北海道から来た若狭さんはやや見方が違う。「ITで手が付けられていない領域は多くて、たとえば農業や漁業。そういう部分にもっとフォーカスしていきたいと思います」(若狭さん)。地方でもこうした動きはもれなく出ているが、補助金目当ての事業が実証実験から抜け出せてないというのが現実だという。

ビットスター 取締役COO 若狭 敏樹さん

 3人が重要な要素として指摘したのは、やはりタイミング。早すぎてもお金が続かないし、遅すぎるとサービスとしての価値を失ってしまう。「今のブロックチェーンって、2000年頃の動画サービスと同じ」と語るえふしんさんは、ブロードバンドの登場とともに生まれた動画サービスのブームは2003年頃にいったん失速するものの、2006年にYouTubeが登場し、ニコ動を経て市場にサービスが定着する。「ちょっと下火になっているブロックチェーンも、いまある問題をまったく想像できない形で解決するベンチャーとかが出てきて、定着していきそうな気がする」とえふしんさんは予言した。

運用のスペシャリストは障害があるから生まれた?

 続いてえふしんさんは、サービスの運用で気をつけているところについて、「サービスは人とITの融合なので、運用は組織そのもの。AIの時代になっても、ブランドは最終的に人に依存していくと思う。技術だけでは解決できない」とかたる。テクノロジーを使ってサーバーを増やしたり、データベースの性能を高めることができても、一定のクオリティで問い合わせ対応するのは難しかったりする。「われわれはショップ様のキャッシュフローを会社そのもので支えているので、経理チームの負担が異常に重い。間違ったら祭りになってしまうので、システム設計しつつ、トラブルをいかに早く鎮火し、再発しないようにするか、つねにパズルしている気がします」と語る。

 和田さんは社内で伝え聞いた話と断った上で、運用にかけるリソースは米国と日本で資本投下のやり方が違うと指摘。「Facebookにはカスタマーサポートはいないけど、カスタマーサポートエンジニアはいると言われる。彼らは属性ごとに区切られた100万人単位の問い合わせ内容をAIで学習させ、回答を最適化するエンジニアなんだと聞いて、格が違うなと」とコメントする。「正しいコメントが返されているか、よく判断できますね」というえふしんさんのコメントに対して、和田さんは「そこらへん米国の会社はけっこう割り切りがすごいのかもしれない」、若狭さんは「日本のユーザーだといざというときに電話がつながることの方が重視されたりしますよね」と語る。

モデレーターを務めたリリー代表取締役CEOの野崎 弘幸さん

 グローバルという視点も大きい。和田さんが「日本で成功しても、世界の人口からするとしょせん73分の1。確かに生き残ってはいけるけど、ほかを見た方がサービスとしてスケールするかもしれない」と語ると、えふしんさんは「メルカリさんの成功をどう考えるかという話。彼らも海外進出のためにかなりエンジニアを割り当てているけど、それくらい腰を入れないとダメということでしょう」と応える。

 一方、サービスのインフラを運用する立場において若狭さんは、「運用側はいいことをしてもなかなか褒められる機会がない。なにがないことが当たり前で、なにかあったら怒られる」と指摘。とはいえ、障害が起こらないことがベストだが、運用のスペシャリストは修羅場をくぐってこそ生まれるという面もあるいう。

テクノロジーで人間はどのように変わっていくのか?

 最近、注目するサービスや技術に関しては、えふしんさんは「僕の場合、技術と言うより、技術によって人間がどう変わるか、どう変えていけるのかの方が透き」と語る。ブロックチェーンにせよ、レシートの買取にせよ、QRコード決済にせよ、テクノロジーとビジネスによる行動変容はつねに追っているという。

 和田さんはブロックチェーンの取引所に+αの価値を付けたVALUのようなサービス、そして電子政府として世界に先駆けるエストニアに興味があるという。「エストニアは人口が福岡と同じ約130万で、面積が九州全島と同じくらい。そんな国だけど、結婚と離婚、不動産売買以外の行政手続きはすべてオンラインでできる。われわれもオンライン市民になれるし、エストニアで起業もできる」と和田さんは説明。これからは土地に依存しない、国を選択できるといった思想を掲げるぶっとんだエストニアにシンパシーを感じるという。

 若狭さんはディープラーニングと画像分析の未来に興味があるという。「店舗のカメラで来客の動向を分析するプロジェクトに関わっていますが、ある店舗では店に入ってきた瞬間にこのお客様が何分後にレジに来ますよというところまで当てられるようになってきている」と語る。

 その後、質疑応答を経てパネルは終了。サービスを仕掛ける立場の考え方や目線は参加した九州のエンジニアにとっても新鮮だったに違いない。

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