2018年7月19日、ピアボーナスのサービスを手がけるUnipos(ユニポス)は、ミレニアル世代の働き方改革をテーマにしたプレスセミナーを開催。他世代と異なるミレニアル世代の働きがいやインセンティブ、それに向き合えない日本企業の課題、さらには従業員同士がボーナスとメッセージを送り合うというUniposの使い方など、興味深いトピックが満載のセミナーとなった。
「いい会社に入っても、いい思いはできなそう」と語る学生たち
セミナーは、Uniposの親会社にあたるFringe81のCEOである田中弦氏と、イノベーティブな協働型組織について研究している埼玉大学 大学院の宇田川 元一氏によるトークセッションからスタート。冒頭、田中氏が指摘したのは、増え続けるミレニアル世代に向けての働き方改革が進んでいないのではないか? という課題だ。
2017年現在、労働力人口の平成生まれ比率は8.3%に過ぎないが、実数としては556万人にも上っている。70~80万人の大学生が加わることで、その割合は今後も伸びていくことになる。田中氏は、こうした日本のミレニアル世代の特徴をいくつか抽出する。
まず「死ぬまで働きたい」と答えた人は他国を3倍近く上回る38%で、親の世代よりも長く働くことになると考えている。また、転職の際に重視する条件のうち重視するポイントとして、3位に福利厚生が上がる。ちなみに福利厚生は世界では一切出てこないポイントという。さらに、日本はこの15年で平均給与が下がり続けている現実があり、年代別の給与格差もあるため、ミレニアム世代は賃上げ欲求が高い。承認欲求がとりあけ高いのもミレニアル世代の特徴として挙げられるという。こうしたミレニアル世代に企業はどう対応していくのかが、トークセッションのテーマになる。
こうした世代が生み出されたのは、バブル崩壊後の失われた20年、そしてリーマンショックだという。宇田川氏は、「一番大きく変わったのは、バブル崩壊の信じられていた神話が崩れ、若者たちがなにを目指せばよいかわからなくなったこと。学生と話すとなんだかみんなあきらめてますよね。いい会社に入っても、いい思いはできなそうだと思ってます」と指摘した。
産業構造の変革をともなわず働き方だけ変えている日本企業
こうしたミレニアル世代にうまく対応できていないのが日本企業だ。1990年台後半にIT革命が起こり、産業構造が大きく変わり、エンロン事件とリーマンショックによってコンプライアンスは以前より俄然厳しくなった。そのため、高度成長期を支えてきた企業は、コンプライアンスを守りながら、成長を維持する必要が出てきた。しかも、2000年以降の不景気で採用を絞った多くの日本企業は、40代前半の生え抜き中堅社員が不在で、新卒にしてみれば、「信頼できる先輩社員」がいなくなっている状況だ。
これに対して、GEやIBM、SAPなどの欧米企業は産業構造の変化やITの進化にあわせて、事業や組織自体を大きく変えてきたが、製造業を中心とする日本企業は旧態依然のままだという。「事業構造の変革を伴わないまま働き方だけを変えているので、多様な働き方を活かせていない。イノベーションを生み出せないことが、多様な働き方の制約要因になっている」と宇田川氏は指摘する。
宇田川氏は、多くの企業が即効性のある解決策に飛びつく「解決法依存症」に陥っているのではないかと指摘する。「どんな講演でも、『うちは上司の理解がなく、産業構造として堅いところなので、おっしゃるような働き方はできないんですよ。解決法を教えてください』という質問が必ず挙がる」とは宇田川氏の弁。しかし、成功例を真似して、組織を変えても、ツールを変えても根本的な解決にはならない。「『技術的な解決』と『適応課題』は違う。働き方改革の多くは、『適応課題』なので、現場ごとに違う」と宇田川氏は語る。
こうした中、働き方や組織の問題を解消するには、コミュニケーションが必須になる。生産性の効率性を追求すると、多くの組織ではコミュニケーション不全に陥り、問題解決を先送りにしてしまう。「簡単な問題を解決するためのでも、困っていることを言えないから、タバコでも、薬物でも、依存症になってしまう。同じような構造が日本の働き方改革とつながって見える」と宇田川氏は語る。今後は、悩んでいる経営者や管理職だけでなく、一般社員を巻き込んで、問題を「解消」していくアプローチが必要になってくるという。「問題に手を付けないことが問題。向き合わない課題を語れない苦しさをどう変えて行くのか? この環境を変えることで、課題を解決するのではなく、解消していくことができるのではないか」(宇田川氏)。
互いの貢献をたたえ合えば、組織は元気になるのではないか
続いて登壇したUnipos代表取締役社長の斉藤知明氏は、まさに自社のコミュニケーションの課題から生まれたUniposについて説明する。
直近で165名にまで成長したFringe81だが、メンバーが30名を超えた時点で、「人や拠点が増え、知らない人が増える」「営業メンバーのわかりやすい数値が目立つようになった」「一人一人の成果が見えない」などの課題が浮き上がってきたという。
斉藤氏は、「これってお互いがお互いのことを知らないから起こる課題。知らない人を信頼するのはとうてい無理な話なので、知ることをいかに増やすかが重要だと思った」と分析する。こうして生まれたのがUnipos。「従業員同士がお互いの成果を発見し合い、シェアできる。お互いの貢献をたたえあえば、組織は自ずと元気になるのではないか」というのがUniposのコンセプトだという。
UniposはWeb上でリアルタイムに互いの成果を評価し、少額のインセンティブを送る「ピアボーナス」という仕組みだ。ボーナスとともにメッセージを送ることができ、送った人に対して「拍手」を送ることも可能だ。「口頭やメッセージで感謝は伝えているからそれでいいのではないか?と言われることもありますが、少額でもボーナスを送ることが重要。貢献を他の人に見えるようにするための建前がボーナス」と斉藤氏は語る。「CTOからのUniposに涙しそうになっている」「面と向かっては言えないことをエモいことを伝えられる」「お礼の気持ちを伝えられる」などの声も紹介され、ミレニアル世代の承認欲求をきちんと充足していることが見て取れた。
Fringe81では月に約1000回の公開ボーナスを送られており、4年間でエンジニア離職ゼロを達成しているという。また、利用企業も100社を超え、流通金額は累計で約7400万円、先月は約1300万円が送られているという。メッセージ数は累計で約58万回におよんでおり、「1社あたり、月平均で1000回以上のメッセージがリアルタイムでフィードバックされていることになる」と語る。
メルカリ、パーソルキャリアでのUniposの使い方
後半にユーザーとして登壇したのは、Uniposのユーザーであるメルカリ Culture&Communications マネージャーの山下真智子氏だ。メルカリは創業5年目にして、グローバルで約1000人、日本だけでも約650人の規模にまで拡大。拠点も増えたことで、いっしょに働いている人の顔がわからなくなるという成長痛に行き当たり、Uniposを導入したという経緯だ。現在は1日1000弱くらいのメッセージが飛び交い、社員の99%が利用しているとのこと。「社長の小泉と会長の山田も送りあってる(笑)」とのことで、トップにまで浸透しているようだ。
メルカリの場合、もともと社内に賞賛文化が根付いており、社員が3ヶ月に1回手描きで他のメンバーに感謝状を出していた。しかし、3ヶ月に1回だと期間が長く、手描きに慣れないエンジニアもいたため、Uniposの導入でオンライン化した。「Uniposはメッセージのやりとりをタイムラインのように見ることができる。最近の流行は、疲れたときにUniposをやりとりしている画面を眺めてほっこりするという使い方」とは山下氏の弁だ。
過去、営業部門でUniposを導入した経験を持つパーソルホールディングス イノベーション推進本部 オープンイノベーション推進部の柿内秀賢氏は、「縁の下の力持ちを目立つようにしたかった」と語る。「営業組織は数字が上がると賞賛されるけど、コピーの紙を取り替えてくれたり、落ち込んでいる人に声をかけることも重要。賞賛ではなく承認。これをどう作るかが重要」と語る。こうした課題感の中、Uniposと出会い、生産性の向上や離職率の低減につながり、なによりも職場の雰囲気がよくなった。柿内氏は「達成ボーナスの原資をUniposに振り替えても、達成率は変わらなかった。目の前ににんじんをぶら下げて走らせても、あまり意味がないことが実証されてしまった」と語る。
パーソルキャリアでは泣けるUniposもあった。「目標設定してくれてありがとう」という投稿は、成長するために自身に向き合ってくれたマネージャに送られた部下からのメッセージ。「マネージャーって、上司からは放置され、部下から見てもらえない孤独な立場の人も多い。部下に正直に向き合ったマネージャーへの感謝の投稿は、見ててぐっとくるものがありました」と柿内氏は語る。
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