kintone hive nagoyaの最後のセッションは、昨年の名古屋のkintone hiveを見て、登壇したいという願望がかなった元気でんきの河口エレキテル社長。事業拡大の末にkintoneに行き着くまでの経緯や、工場やサポートセンターなど全社でのkintoneの活用法を披露した。
駆けつけ、中古エアコン、省エネコンサルの3つのサービス
名古屋に本社を置く元気でんきは、電気トラブルの駆けつけサービス「元気でんき119」、中古エアコンの買取・販売を行なう「エアコン買取王」、最適な電気プランをコーディネートする「省エネ先生」の3つのサービスを手がけている。「昨年、私はそちら(聴衆)側にいて、次は必ずこの場に立ちたいということで、1年の間kintoneを使いこなしてきました」と挨拶した河口氏は、創業からの経緯や事業概要の説明からスタートした。
元気でんきはもともと2001年に電気職人だった河口氏が起業し、電気工事の下請けをやっていたが、リーマンショックのあおりで下請け仕事が一気になくなった。これをきっかけに下請けから自社サービスにシフトし、2009年に電気トラブルを駆けつけで修理する「元気でんき119」をスタートさせることになる。
続いて、元気でんき119で「中古のエアコンはないのか?」というお客の声を聞いて2014年から始めたのがエアコンのリユース事業になる。「ニーズはあるけど、世の中探してもなかった」ということで差別化を実現できると踏んだ河口氏は、洗浄とメンテナンスを行なう整備工場と通販サイト「エアコン買取王」を立ち上げ、中古エアコン国内流通量No.1の事業にまで成長している。
創業時、河口氏の紙のノートだった業務管理は、成長とともにIT化されていった。電気工事の下請け業のときはExcel、ネット集客を中心に据えた元気でんき119の展開ではAccessを導入。エアコン買取王を開始し、社員数が増えた2014年以降は全面的にkintoneを導入している。
IT不信に陥っていた河口社長の心を溶かしたもの
kintone導入のきっかけは、事業計画書で必要なグラフだった。「事業計画書を作るためには、現在の立ち位置を数字で把握する必要がある。そのため、駆けつけサービス開始後3年目で初めて数字を集めてグラフを作ってみたら、2000案件のうちの1%が、売り上げの23%、利益の40%を占めることがわかった」(河口氏)という気づきがあったという。さらに調べると、その1%の20件はほぼ法人。利益の4割を生み出すそれらの企業が喜ぶサービスとして作ったのが、電気のコンサルティング「省エネ先生」だった。「このとき私はグラフに目覚めたんです。グラフによる数値分析が経営には必須だということで、ここから私は調子に乗ります(笑)」と、Accessからさまざまなグラフを作り、事業計画に活かすことになる。
しかし、さまざまなグラフを見ても、大きな気づきを得られるグラフは30個の1個しかなかった。しかも担当者が張り付きで河口社長のためにグラフを作るので効率が悪い。そのため、「いろいろな条件で簡単にグラフが作れる」「事業の変化に柔軟にできる」「誰でも使える直感的なインターフェイス」という目的で、Accessに代わる新しいツールを検討し始めたという。
とはいえ、ここからkintoneに行くまでは紆余曲折があり、大金を詰んで別のCRMの導入を進めたが、目的を達成することはできず、結局Accessに戻したという黒歴史があった。この苦い経験ですっかりIT不信に陥った河口社長だったが、kintoneの導入支援で多くの実績を持つウィルビジョンとの出会いで、kintoneへの道を進むことになる。「ウィルビジョンさんは、できること、できないことをしっかり説明してくれた。この紳士的な態度に僕は心を打たれ、もう1回kintoneでITにチャレンジすることにしたんです」(河口氏)。
あらゆるリソースをkintoneで管理する元気でんき
現在、kintoneは元気でんきの基幹システムとして活用されており、顧客、販売、原価、商品、車両、工事案件、クレーム、社員などありとあらゆる経営リソースの管理に利用されている。河口氏は、このうち特にユニークな利用事例を元気でんき流の活用術ということで披露した。
まずはバーコードを使ったエアコンメンテナンス工程管理だ。こちらは1年半前にオープンしたばかりのエアコン整備工場で用いられており、全国から集まった中古エアコンの入荷、分解洗浄、点検整備、撮影、在庫管理、出荷などの工程をすべてバーコードでkintoneに収集している。「バーコード導入によって工程進捗や回転率、生産台数、商品原価などの管理にかかるコストが低減できたが、一番よかったのはそこで働く障害者さんの活躍する場が増えたこと」と河口氏は語る。
2つめはkintoneを使った電話録音システムだ。電話での問い合わせが多い同社ではCTI(Computer Telephony Integration)をkintoneで実現したいと考えた。「CTI側ではなく、kintone側にデータを持たせたかった。こうしないと僕の大好きなグラフが出せない(笑)」ということで、kintoneによるCTIにチャレンジした。元気でんきに電話がかかってきたら、スタッフがkintoneに顧客情報を入力するとともに、やりとりを録音したデータをDrpoboxに保存され、リンクをkintoneに登録しているという。
これにより、kintoneで顧客DBのエントリを開くと、過去の電話のやりとりもすぐに把握できる。録音データは電話対応トレーニングに使われており、メンバーそれぞれで学び合えるという。「定期的にオペレーターが集まって、よかった点・改善点をそれぞれ10個ずつ出すようにしています。自分の話し方の癖や他メンバーの工夫を発見できる」(河口氏)とのことで、高品質な対応に大きく寄与するという。
3つめは「今日とっておき」という「コメントでシステム改善」。改善要求をコメント欄に書き込むという単純な方法だが、とにかく思い立ったらすぐに記入するのがルール。「最初は改善提案というアプリを作ったけど、1年間なにも書き込まれなかった(笑)」(河口氏)という反省から、どのコメント欄でも記入OKにしたという。これらを拾ったシステム改善チームが、コメントを読んだら、簡単な改善はすぐに対応し、開発が必要なものはウィルビジョンにお願いしている。「一番いいのは現場で改善意識が育つこと。改善するんだ、言えば変わるんだと言うことを体感してもらった」(河口氏)とのことで、現在までに548件の改善が行なわれているという。とにかく、「みんなで使いやすくしよう」は、元気でんきのkintone活用で一貫して貫かれている思想だ。
中部・東北地区のkintone AWARD地域代表は元気でんきに
最近、ウィルビジョンにkintoneコンビニを作ってもらったという元気でんきだが、今はGoogle Homeとの連携を試している。「『本日、出荷する商品はどこ?』に聞くと、『Aの○○の棚にあります』と答えてくれたら、障害者の方ももっと働きやすくなる」と河口氏は語る。
「サイボウズはkintoneという雲を用意してくれた。この雲は乗り手によって、ハーフパイプを飛ぶことができたり、いろいろなスベリ方ができるが、操縦技術はやっぱり必要。どう使うかをいつも考えながら、作りっぱなしではなく、つねに最新状態にしていくことが、時流に乗れる会社で必須だと感じている」とまとめた河口社長。河口 エレキテルという名前の由来はぜひ検索して欲しいと説明し、セッションを終えた。
結局、名古屋のkintone hive nagoyaでkintone AWARD 2108の地域代表に選ばれたのは、元気でんきになった。グラフ好きの社長だけでなく、現場やお客さんまで元気になるkintoneの使い方を、とにかく元気いっぱいに披露した河口社長の幕張での晴れ舞台が楽しみだ。
初出時、河口氏の表記が一部謝っておりました。お詫びし、訂正させていただきます。(2018年7月23日)
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