週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

対談・Planetway CEO 平尾憲映×東京海上日動 IT企画部 企画グループ 担当課長 堅田英次 第3回

お客様が求めている真のデータ利活用社会とは

2018年06月12日 12時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita) 編集● ASCII
提供: プラネットウェイ

 確定申告、保険金の請求。日本はいまだに個人が書類を作り手続きをしなければならないアナログな国だ。一方、北欧のエストニアでは行政や医療機関でほとんどの手続きがIT技術「X-Road」によりデジタル化・自動化されている。

 同技術をもとに日本企業向けデータプラットフォームをつくり、手続きの自動化、徹底的な効率化を進めようとチャレンジしているスタートアップがある。プラネットウェイだ。

 損害保険大手の東京海上日動火災保険株式会社(以下、東京海上日動)はプラネットウェイのプラットフォーム「PlanetCross」の可能性を検証するため、保険金の支払い等に必要な契約内容や医療情報を安全にやりとりできるか、福岡・飯塚病院協力のもと実証実験を行ったのだ。

 実証実験は成功した。たとえば診断書のやりとりを郵送からデータに変えることで、保険金支払いまでにかかる期間を1ヵ月ほど短縮できる可能性を示せたという。

 なぜ東京海上日動はプラネットウェイの技術に関心をもったのか。そして実証実験の成功の陰にあった、情報管理に慎重な医療機関の協力をとりつけるまでの苦労とは。プラネットウェイ平尾憲映代表と、東京海上日動 IT企画部 企画グループ 堅田英次担当課長が語る。(全3回)

Speaker:
プラネットウェイ 代表取締役CEO
平尾憲映

1983年生まれ。エンタメ、半導体、IoT分野で3度の起業と1度の会社清算を経験する。学生時代、米国にて宇宙工学、有機化学、マーケティングと多岐にわたる領域を学び、学生ベンチャーとしてハリウッド映画および家庭用ゲーム機向けコンテンツ制作会社の創業に従事。在学時に共同執筆したマーケィングペーパーを国際学会で発表。会社員時代には情報通信、ハードウェアなどの業界で数々の事業開発やデータ解析事業などに従事。

東京海上日動 IT企画部 企画グループ 担当課長
堅田英次

1976年生まれ。東京海上日動入社後は経営統合・合併、業務革新プロジェクトなどを通してIT開発の現場を徹底的に学ぶ。その後、IT投資計画の策定やITコストの適正化などの企画業務を経て、近年は、レガシーシステムからの転換を如何に進めていくか、デジタル領域とレガシーシステムを如何につなげていくかなど、来るべき変革の時代におけるシステムの在り方の検討に従事。

大事な個人情報だからというだけで、
使わない・外に出さないことが本当にいいことなのでしょうか

平尾 今回のPoCには東京海上日動システムズさんにもしっかりと入ってもらい、技術検証から一緒にやってきましたが、スピード感がとても速かったのが印象的でした。

堅田 どうしても典型的大企業としてのイメージってありますよね。東京海上日動でもスタートアップやIT系の成長企業と付き合うことがしばしばあります。我々のような大手企業はだいたい「動きが遅い」と思われていて、「東京海上日動さんは3カ月かかると言うけれど、我々は1ヵ月でできますよ」などと言われるのですが、いざスタートしてみるとすぐに先方のタスクに遅れが出て1ヵ月では終わらなくなる。あるいは、業務継続の観点で必須と思われる基本的要求の充足や品質の担保が甘く再検討が必要になり、結果的に我々が待つなんてこともあります。これはどちらが良いかということではなく文化の違いなので、今回もそうなるかなと思っていたのですが、新たに生まれた課題への対応も、QAテスト(品質保証テスト)も早い。こちらも必死についていくという感じで、一緒に頑張ったという実感があります。

平尾 ありがたいお話しです。他の大手企業の場合、東京海上日動システムズさんのように技術と個社のビジネスの両方に精通したメンバーがなかなかプロジェクトに参画できず、プロジェクトをうまく進められなかったり、そもそものプロジェクト評価ですらうまくできないということもある様です。

堅田 おっしゃるとおり、技術をわかっているメンバーがいることは本当に価値があると思っています。「楽しくて意義のあることを一緒にやらないか?」と、システムズのメンバーを徐々に巻き込んでいきました。当然、自分たちがやりたいと思っていたこととマッチしていたのが前提ではあるのですが、最後はやはり平尾さんのコンセプトに共感できるかどうか、そういうメンバーが集まったことが成功の要員だったと思います。一方で、セキュリティーに関しては十分にチェックしないといけないので、外部の専門家の活用から自らコードをチェックするところまで、でき得ることはやりました。東京海上日動システムズには「守り」と「攻め」の両部門があり、守りの部門にはこうした知見があったため、連携しながら進められたのも良かったと思います。

平尾 POCをはじめてから、おかげさまで合計約100社からアプローチがありました。ネットから社会を変えるという理念に共感してくれるところと一緒にやっていきたいと思いますが、思い返してみると最初に東京海上日動さんと一緒にできたのは必然だったとも感じます。プラネットウェイの企業としての将来像はこれから考えていかないといけないのですが、思いを共有できる企業と出会えたことは本当に幸運でした。

堅田 プラネットウェイさんのやり方を真に理解し共感・賛同してくれる会社をどう増やしていくのかが課題ですよね。サービスの観点でもインプリ(実装)の複雑さや、導入に時間がかかるという部分を改善しないと普及は難しい。そして最も重要なのはエコシステムの構築でしょう。参加企業が増えたときどう管理していくのか、それに合わせてシステムをどうスケールさせていくのか。システムインフラだけでない、エコシステムの全体をどう描いていくか、そして実現に向けてどうステップを踏んでいくのか、次のステップはとても大切な一歩になると思います。いろんな企業さんといろんなことをはじめる中、プラネットウェイさんの態勢も強化して頂きたいですね。もちろん、われわれもこれまで同様協力していきたいと思っています。

平尾 いまやっていることは2つあります。1つはインプリしやすい様にインストレーションの改良をはかること。もう1つは何かしらのコミュニティーを作ることです。オープン・イノベーションやファンデーションのように多くの人が集まって、柱となるデータ連携で協業していくための「場」をつくっていきます。そのためにはパートナー戦略がますます重要になっていくと思っています。我々の技術をパートナー企業さんの力を借りながら、我々だけではできない規模とスピードで日本中のみなさんにお届けしていきたいと考えています。

堅田 あと、プラネットウェイさんが継続的に収益を上げることも大事ですね。大手も同じですが、いいサービスも採算が合っていなければ、途中でサービスを終了させることになるかもしれない。そうなると、企業よりも、お客さんや関係者が非常に困ることになる。ですからビジネスで適正な利益をちゃんとあげてもらうことも重視しています。結局はそれが企業にとってもお客様にとっても良い事なのだと思っています。

平尾 詳細は現時点ではオープンにできないのですが、プラットフォーム事業とは別にもう1つの事業を立ち上げることで、安定的な収益を見込めるスキームにしていくつもりです。大きなチャレンジではありますが、「ソフトウェアライセンスがいくらで開発費がいくら」というモデルからは早期に脱却したいと思っています。どの様な形が望ましいのか未だイメージしきれてないものの、使う側が導入しやすい、活用を進めていきやすい形としていきたいと思っています。必ずや、東京海上日動さんをはじめとした企業のみなさんと一緒にその形を作っていきたい。そう思っています。

堅田 マイナンバーの検討が日本で盛り上がってきた頃、エストニアの方から「医療情報を連携することで、たとえ100万人に1人かかるような難病であっても世界中からたくさんの情報が集まってくる。こうした知見を共有することで、必ずよりよい治療につながっていく」という話を伺いました。我々の次の世代が大人になり、その次の世代が生まれてくる頃、どういう社会を目指していくのか、今を生きる我々には、未来の世代への責任があるなと感じたのを鮮明に覚えています。もちろんどんな分野であってもデータをオープンにして活用すればよいという話ではないですが、大事な個人情報だからという理由だけで使えない、外に出せないと思考停止するのではなく、本当に価値のあるもののために、どうやったら活用できるのかを本気で考えなければといけないなと。そんなことをただ漠然と考えている中で平尾さんと出会いました。第一歩として実施したPoCが、PlanetCrossの展開、そして、理想の社会の実現につながっていくとしたら、本当にやりがいのある仕事だなと思ったんですよ。

平尾 わたしの得意分野はずーっと先の話をすることですからね。それが良くも悪くも気に入ってもらえる人には気に入ってもらえる。手前味噌ながら、最近、嫌われる度合いが少なくなってきていると感じるのは、実績が着実に出てきているからだと思います。大きな青写真を描きながら、ステップ・ツーをどう進めていくか、結果を出しながら未来を描き続ける、その両輪をしっかり回していくことを大切にしていきたいと思っています。

堅田 事業を通じて社会やお客さんに貢献するというのは我々が企業としてめざしている姿そのものです。平尾さんとは、企業として大切にしている思いや、将来のビジョンがマッチしていたと思っています。このタイミングで出会えたことに本当に感謝していますし、これからも一緒にいろいろな事に挑戦させていただきながら、プラネットウェイさんの成長をしっかりと見届けていきたいと思っています。

(提供:プラネットウェイ)

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この特集の記事