富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、2018年5月16日、レノボとの合弁会社設立後の新体制における事業方針などについて説明した。
同社は、2018年5月2日から、Lenovo Group Limitedが51%を出資。富士通が44%を、日本政策投資銀行が5%を出資する形で事業をスタートしていたが、会見で説明を行なった富士通クライアントコンピューティングの齋藤邦彰社長は、最初の会見日となった5月16日を「DAY1」と位置づけ、「誓いの日」と表現。「数年後に、あの日を境に、FCCLはさらに進化したと振り返ってもらえる日にしたい」と述べた。
また会見では、開発中のエッジコンピューティング製品として、Edge AIプラットフォーム「Infini-Brain」(インフィニブレイン)を初公開。「今後1000日以内には商品化したい」と語った。
『Made In Japan』による日本品質を世界に発信
富士通クライアントコンピューティングの齋藤邦彰社長は、冒頭に、富士通のPC事業が、1981年に発売した「FM-8」を皮切りに、マルチメディアパソコンのFM TOWNSなどのエポックメイキングな商品を相次ぎ投入。1993年にはFMVを投入し、このブランドが今日まで続いているといった歴史について触れ、「事業を開始して以来、企画、開発、設計、製造、販売、サポートまでを自ら行なう一貫体制は競合他社にはないものである。お客様の要望に対して、いち早く、高いレベルで対応してきた。他社の場合は、80~90%が台湾や中国のODMによる設計、生産になっている。そして2017年11月、レノボとの合弁会社設立を発表した。それにより、我々の強みがさらに強固なものになると考えている。お客様に満足していただけるものを世の中に送り続けてきたが、それはこれからも変わらない」と切り出した。
ここで齋藤社長が強調したのが、「今までの同じスキームを維持し、『Made In Japan』による日本品質を世界に発信する」という点だ。
ブランドやポートフォリオはそのまま継続。直系となる島根富士通では、富士通ブランドのノートPCの全量を生産。これを全世界に展開していくことになる。また、福島県の富士通アイソテックでもデスクトップPCの生産を継続的に行なう。
齋藤社長は、「Made In Japan」や「Made for you」という言葉を使いながら、「モノづくりにこだわった情熱品質を発信しつづけているのがFCCL。モノづくりは我々の価値そのものである。愚直に、最新のテクノロジーを、いち早く、お客様が手に取れるようにモノを作り上げる社内風土は、37年間に渡って培ってきたものであり、この財産を手放すようなことはしない」と断言。レノボとの合弁会社の体制になっても、従来からの仕組みを維持することを示した。
レノボとの戦略的提携の話し合いの中では、従来からの体制を維持することが、最もビジネスの成長につながるという判断がされており、レノボが、この体制をバックエンドで支えるという構図になる。
「両社は、少なくともいまは、異なるポートフォリオ、異なる顧客ベースを持っており、この体制を維持することがビジネスを最大化できるという判断である。いま突き進む方向はレノボ、NEC、富士通では異なる」と述べた。
レノボとの提携による効果
その一方で、レノボとの提携による効果についても示した。
「人に寄り添ったコンピューティングを実現するため、リソースをエッジコンピューティングやAIにつぎ込み、さらにきめ細かに、開発のペースを高めていくことになる。『To the Cutting Edge』にフォーカスし、エッジコンピュータの最先端領域にも取り組んでいく」などとし、「お客様に寄り添うこと、人に寄り添うことがキーワード。これは我々が変わっていくことで、今まで以上のサービスを提供し、向上させていくことができることを示す。我々は、もっとお客様に寄り添うために変わる。すべての主語に『お客様』をおき、お客様のためになにができるかということに、全従業員が一丸となって突き進むことができる体制を作る」とした。
また、共通部品においては、レノボの規模を生かした調達が可能になるというメリットにも触れ、「世界トップクラスの出荷台数を持つレノボとの提携は、頼れるパートナーと結婚したのと同じ。コモディティの世界でありがちな数を追うというビジネスだけでなく、より個人個人への深さを追求できるようになる。しっかりものの女房がいるから、旦那は思う存分やんちゃができる。我が家もそうなりたい」とジョークを交えながら説明。「ボリュームをあまり気にすることなく、我々しか持っていない強みを生かして、深掘りできるようになると考えている。コンシューマでは買い換えサイクルが長くなり、自分に合った良い物を買いたいという傾向が高まっている。そこに向けた商品を投入できることは、むしろ差別化になる。新たな道は、これまでの道の先に続いている。人に寄り添うことをさらに磨き上げたい」と語った。
保険セールス市場では74%、小中学校では66%と、トップシェア
モノづくりへのこだわりについても改めて言及した。
「コンピュータは、均一で、一様の道具でいいのか。そんなわけはない。一人ひとりにあわせた使い心地を追求していくことが大切である。そして、単なるモノではなく、お客様にとってかけがいのないものを提供してなくはならない。これが、人に寄り添った商品ということになる。FCCLは、個人の行動を自由にし、個人の暮らしを楽しくする。体と心の両方に寄り添った商品を作り上げていく」とし、「FCCLには、現場に足を運び、築き上げてきたことで生まれた商品がある。
たとえば、保険セールス向けタブレットは、セールスレディがお客様の前で、軽やかに、凛と振る舞えることを目指した商品。出社から始まり、社内での作業、アポイントメント、事務処理など、1日の行動を見つめ直して開発した。高速起動や軽量化は、お客様と接するときに、片手で持って説明を行なう際にもメリットがある。グリップエッジをつけたことで持ちやすく、契約時に写真撮影をする際にカメラの位置にも困らない。そして長時間駆動や予備バッテリーの装備によって、大切な契約時に電源が切れてしまうということもない。繰り返し細やかな改良を加えた成果であり、いつでも簡単に、安心して使ってもらえる自信作である。1枚のタブレットが働き方を生み出すことができる」とした。
また、小学生向けタブレットについても説明。「これは何度も学校に足を運んで、改良のヒントをもらった。踏まれたり、蹴られたり、場合によっては頭の上に載せてみたりといろいろな使われ方をしている。教室だけでなく、体育館に持ち運んだりといったように、立って使われるシーンは意外に多い。壊れてしまっては授業にならない。落としても衝撃を和らげるように、四隅にはグリップがついている。また、随所に堅牢性を向上する工夫をしている。多感な小学生に思うままに使ってもらい、学ぶ姿勢そのものを育んでもらえるタブレットである」とした。
齋藤社長は、保険セールス市場では74%、小中学校では66%と、トップシェアとなっていることを示し、「愚直な観察とモノづくりを繰り返した成果である。私たちの商品は、働く女性にも、小学生にも認めてもらった。使う人の困りごとだけでなく、気持ちや立場を理解して磨き上げてきた結果である。それにより、人の行動を、より自由に、個人らしく振る舞えることを可能にした。これが『人に寄り添う』という意味である」と述べた。
AIアシスタントのふくまろで、個人の感情に寄り添ったサポートを
さらに、AIアシスタントのふくまろについても言及。2018年1月に発表して以来、数多くの人に利用してもらっており、ある家庭では、PCを持って出かけようとしたら、子供が「ふくまろを持って行っちゃやだ」と駄々をこねたという実例があったことを示しながら、「小さな子供にとっては家族の一員として認めてもらったようだ」とした。
「今後、AIアシスタントが家庭に浸透していくことは間違いない。現在はお手伝い機能だけだが、今後は個人の感情に寄り添ったサポートを行なえるように成長させる。日々の生活の中に溶け込んで、本人が知らない情報や意識していない感情にふくまろが気がついて、家族の一員のように振る舞うことで、利用者の日々の豊かさの感度が向上することを目指したい」とした。
ちなみに、ふくまろは、鳥の賢者であるふくろうの「ふく」を取っていること、「まろ」はマシュマロのマロからとっていることを明かし、「丸いのは太っているからではなく、マシュマロだからだ」と説明した。
エッジコンピューティングの一翼をになう、Edge AIプラットフォーム「Infini-Brain」を初公開
一方、齋藤社長は、「少し未来の話をしたい」として、日本政府がSociety 5.0に取り組んでいることを示しながら、「ここでは、人を中心に物事を見ることが大切になるため、個人に一番近いフロントエンドを担う我々が、Society 5.0に大きく貢献できると思っている」とし、それを実現する商品のプロトタイプとして、Edge AIプラットフォーム「Infini-Brain」を初公開した。
「もっともっと人に寄り添うにはどうしたらいいのか、という発想から生まれた商品」と位置づけ、「クラウドに映像をリアルタイムに転送すると、ネットワークの帯域の問題や、プライバシーやセキュリティなどの問題が発生する。シーンによっては、クラウドが持つコンピューティングパワーを身近(ローカル)に置くことが必要である」とし、エッジコンピューティングのひとつとして、Infini-Brainが利用できることを示した。
Infini-Brainを利用したデモストレーションとして示したAIの活用事例では、カメラで撮影した映像から、人物をリアルタイムで検出。検出した人ごとに、骨格を見ながら体の動きや表情を推定できる様子をみせた。この技術を学校で使うことで、生徒のうつむき加減の多さを認識したり、最近はよそ見が多いことや、手を挙げていても動きから分析するとみんなにつられて手をあげているだけということが分かったりりするという。「いち早く子供の機微に気がつき、先生に伝えることができれば、日々の成長を支えることができる」とした。
また、Infini-Brainを家庭内に設置すれば、家族の感情や関係性を観察・解析し、ふくまろを通じて、適切なタイミングで、相手を思いやったアドバイスができるようになる。「介護が必要な家族の不調を検出し、いち早く介護者に声をかけるなど、日々の生活のなかで欠かせない存在になる」とした。
なお、Infini-Brainは、CADなどで利用される一般的なワークステーションの10台分の性能を持っており、複数の異なるAIを同時に稼働させ、しかも低電力で実行できるという。齋藤社長は、「様々な領域で活用されるものになる」と自信をみせた。今回はキューブ形状のデザインで公開したが、あくまでもプロトタイプであり、このまま商品化されるものではないという。また、ふくまろの成長にあわせた展開を視野に入れているとした。
最後に、齋藤社長は、「いまから約3年後のDAY1000を迎えたときに、具体的なさらなる進化をお伝えすることを約束したい」と宣言した。
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