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なくてもいい。ただ、あるとうれしい:

断言する、日高屋は「中華丼」を食べる店だ

2018年05月23日 12時00分更新

食べるのはラーメンでもチャーハンでもない、らしい

 埼玉県さいたま市大宮区に本社を置く外食企業、ハイデイ日高。低価格ラーメン・中華料理チェーンの「熱烈中華食堂 日高屋」(以下、日高屋)を展開している企業、といったほうが通りがよいかもしれない。機械化され少人数の社員で稼動しているという行田工場のセントラルキッチンで一元的に製造し、低価格を実現しているのが特徴。次回以降使える「モリモリサービス券」を延々とループさせている人も多いはずだ。

 社名のハイデイは、創業者、神田正の出身地である埼玉県日高市にちなむ。「ハイ(high)」と「デイ(day)」、すなわち「高」「日」というわけだ。地名を直訳したら「デイハイ」になるではないか……と思いそうだが、「ハイ(高揚した)な一日(デイ)」になって欲しいという思いが込められているらしい。さらに「日高」をプラスしたわけで、とことん日高づくしの命名なのである。

この看板を見て「回高屋?」と読んでいた若い人がいた

 では、そんな日高屋でハイなデイを満喫するために注文するべきメニューは何か。「中華丼である」と断言する男がいる。アスキー編集部きっての日高屋ニスト、ちゅーやんだ。先日オフィスが移転したアスキー編集部でランチの行き先に悩んでいると、彼が「日高屋でしょう」と勧めてきたのである。では、オススメは何かと聞いたところ、「中華丼」と即答されたのだ。

ちゅーやん。ゲーム担当。1週間に2回は日高屋で飲むという生粋の日高屋ニスト

 夜型の彼は、やや眠たげな瞳で訴えかける。日高屋の中華丼はね、スマートウォッチなんですよ。自分が意味がわからずに困惑していると、ちゅーやんは、ぼんやりとした、しかし確信を秘めた笑顔でいうのだった。別になくてもいいんです。消えたっていい。ただ、あるとうれしいんですよ。あれはね。

 中華丼。炊いた白米の上に中華風のうま煮をかけた、アレである。類似した料理は中国やアジア諸国にもあるものの、意外にも起源はわかっていないらしい。「中華料理」という言葉が広まったのは戦後のため、「中華丼」という言葉が生まれたのも、おそらく戦後ではないかという推測はあるようだ。

 しかし、中華料理店といえば、ラーメン、チャーハン、あるいは餃子あたりがメインのはず。そこで、あえての中華丼? そう言われると気になるのが人情というもの。さっそく日高屋に行き、中華丼を頼んでみた。

酢とラー油とコショウを入れると、あらおいしい

「This is 中華丼」という風情

 頼んでみた……とスムーズに書いたが、実はこの中華丼、店舗によって取り扱いがない場合があるそうだ。自分がふらっと入った店舗で取り扱っていたのはラッキーだった。価格は610円(大盛り710円)。

 外見は、どうということはない、といったら失礼か。うま煮の中に、キャベツやらニンジンやらブロッコリーやらうずらの卵やらが入っている。ほんとうに、普通の中華丼だ。食べると、「ああ、こういうやつね」と思わずつぶやいてしまいそうになる。味が濃いし、化学調味料もおそらくたっぷり入っているだろう。

 これが白米にかかっているのがポイントなのだと感じた。よく味が濃いおかずを「ご飯がすすむ」と肯定的に評価することがあるが、それに近い感覚がある。丼ものに「ご飯がすすむ」というのは不思議な気持ちだけれど、わしわしと下にあるライス部分を食べたくなるし、スプーンでこねこねとかき混ぜて食べたくなる。

 なんだか童心に帰れる味だ。「自然派でやさしい」というのとは対極にあって、ちょっとしょっぱくて、でも具材がいろいろ入っていて、懐かしい気持ちになる。これ、丼だからなんだろうな。ラーメンやチャーハンではこうはいかない。白いご飯がうま煮部分をしっかり受け止めている。なんだか給食っぽいとも思った。

 半分ぐらい食べたところで、日高屋を知り尽くしたちゅーやんの言葉を思い出す。「味を変えたかったら、卓上の酢とラー油とコショウをかけるといいですよ」という。えっ、そんなことをして大丈夫なのだろうか。なんだか、味がわからなくなっちゃったマヌケだと思われたりしないだろうか。店員さんとかに……。少しだけ、ではなく、それなりにたっぷりかけたほうが味の変化がわかるのだそうだが、本当だろうか。不安をおさえられないまま、中華丼に調味料を投入していく。

酢とラー油は、少し……ではなく、回しかけて全体に行き渡らせるイメージ。コショウは多めにかけても案外キツくならない

 ところが、これが面白い。酢とラー油を皿に一回しぐらい、コショウは「ちょっと多いかな」というほどにかけてみると、確かにおいしいのだ。サンラータンのような味になる。ああ、そうか。中華丼だからだ。味が濃くて、具材もいろいろ入っているから、調味料をたくさん入れても負けないわけか。ほほうおもしろい、へええたのしい、と思っているうちに完食してしまった。

 食べ終えると、この中華丼、なかなか得がたい存在な気がしてくる。ラーメンだってチャーハンだって餃子だってほかの店にあるけれど、中華丼は意外とない。味がしっかりついていて、調味料でアレンジまでできるレベルのものとなると、あまりないような。

 もちろん、近所に昔ながらの中華丼を出す中華料理店があるよ、というなら話は別だけれど、そもそも日高屋はチェーン店なわけで、どこでもこれが食べられるのが強みだ。通常のランチにも、飲んだあとのシメにも向いている。こうなると、確かに日高屋で食べるべきは中華丼でないかという気になってくる。

 ちゅーやんの言うことを思い出した。中華丼は、別になくてもいいんです。消えたっていい。ただ、あるとうれしいんですよ。あれはね……。なんとなく、彼が中華丼をスマートウォッチに例えた理由もわかってきた。時計もスマートフォンも持っている人にとっては、いらないんじゃないか、と思うかもしれない。ただ、意外と、重宝するのだ。スマートウォッチで着信を知ったり、スマホを取り出さずに歩いた距離を確認したりすると、「あっ、便利じゃないか」と感じる。このささやかな発見の感覚が、日高屋の中華丼にはある。こればかりは体験してみないとわかりにくい。

 自分は編集部で仕事をしているときのランチ、帰りが遅くなったときの晩御飯などに、日高屋に行くことが多い。いろいろなメニューがあり、気分によって選ぶ楽しみもある。ラーメンもチャーハンもある。ただ、迷ったら、あれを頼めばいい。いまの自分に合った味にしたいなら卓上の調味料を使えばいい――中華丼は、そういう、決め手がないときに選べる位置にいる。曖昧な要求に答えるだけの安心感がある。

 なるほど、ようやくわかった。いまでは、自分もこう言いきれる自信がある。日高屋は、中華丼を食べる店だ。ちゅーやん、ありがとう。ただ、中華丼って、モリモリサービス券が使えないんだね……。


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