2018年2月15日、サイボウズオフィスで開催された「100農家いれば100通りの農業」のセミナー。農業は場所や人によってアプローチが違い、その現場でのITの役割も当然変わってくる。できるだけ多くの事例を通じて、ITが農業にもたらすメリットを知り、広めようというのが本イベントの趣旨だ。10組の農業従事者が登壇して実際の取り組みを語るという贅沢な構成だった。今回は、休憩までの前半3組を紹介しよう。
経験と勘に頼る農業からの脱却がいずれは人手不足解消への道筋に
セミナーのオープニングを飾ったのは、サイボウズ アグリ担当でありながら、IT農業を進めるNKアグリの社員でもある中村 龍太さんと日本農業新聞の記者を経てフリーの農業ジャーナリストとして活躍している窪田 新之助さんの対談セッション。モデレーターを務めたのは、2014年に開催した農業ITイベント以来、この分野に関わっているというopnlabの小林 利恵子さんだ。
窪田さんと中村さんの出会いは4年前にさかのぼり、昨年はのべ3000人規模の農業×ITのイベントに共同出展したという。ちょうど米国でAgriTech(アグリテック)の投資が非常に大きいというニュースが報じられたさなかに開催されたこともあり、「通常は農家の方だけ集まるのですが、IT関連やさまざまな関係者が集まるような楽しいイベントだった」(中村さん)という。ともあれ農業×ITの注目度が高まっているのは明らかで、今回のイベントにも産官学の農業にまつわるさまざまな関係者が参加しているという。
農業でのIT活用はまだまだ進んでおらず、天気や販売に関わる情報をインターネットで調べる程度。予実管理や生育予想を取り入れることで売り上げにつなげている事例もあるが、「クラウドやセンサーを使いこなすような使い方はまだまだ少ないというのが現場に行った実感」(窪田さん)。中村さんも「センサーデータの取り込みは進んでいるけど、データの相関関係を見るのがまだまだ手作業。農家側にこうしたことをできる人材もいない」と課題を指摘する。また、なにより深刻なのは人手不足。「広い面積の圃場を確保できても、過疎地だとおおむね人手不足に陥る。だから、ロボットに注目が集まる」(窪田さん)。
今回の「100農家いれば100通りの農業」というテーマに関して、小林さんは「農家は作っているものも違うし、規模もさまざま。本来の農業に専念できるよう、いろいろな作業をITやkintoneに任せたという事例を、みなさんに持って帰っていただきたい」と語る。窪田さんは「経験と勘からの脱却を進めている事例に注目してほしい。ITは難しくないというメッセージを得てもらいたい」とアピール。サイボウズの事業紹介をした中村さんは、「農業も家族でやっているとぼっちになりがち。でも、これからは1つのチームとして農業を手がけていけたらよいなと考えている」とチームワークとしての農業に期待を寄せる。
kintoneを使ってトレーサビリティを確保、GAPを取得した山森農園
事例セッションの1番手は、元気もりもり山森農園代表の山森 壮太さん。「GAP(農業生産工程管理)とkintone」というセッションタイトルに書かれたGAPとは、食品の安全や環境保全、労働安全性などを確保していることを証明する認定制度。山森農園が取得しているASIAGAPは、2020年のオリンピック、パラリンピックにおける食品調達基準としても採用されている。
山森さんは農園だけではなく、株式会社虹の橋という障害者支援事業所も運営している。障害者に農作業を委託することで社会復帰を目指してもらう事業だ。単純作業なら十分労働力として活躍してもらえるうえ、仕事を通じて規則正しい生活習慣も身につくという。
「虹の橋での作業を通じて勤労意欲を高め、規則的な生活習慣を身につけたら、一般就労に進んでもらうこともあります。虹の橋を、社会復帰へのステップにしてもらえればうれしいですね」(山森さん)
2法人の力を最大限に引き出すには、作業者と作物の安全確保が大前提となる。その基準として採用したのがGAPだった。農薬の散布やトラクターの運転、肥料の散布などといった責任が求められる作業は山森農園の従業員に集中させ、単純作業のみを障害者に委託することで、食品の安全性と作業者の安全性を両立する。その記録を管理する必要も生じたが事務作業が得意な従業員はおらず、紙やExcelを使った記録では情報共有に難があった。そこで山森さんが目をつけたのが、誰でも簡単に使えるkintoneという訳だ。
「出荷した記録から、圃場のデータまで遡れる仕組みをkintone上につくりました。どのような肥料をいつどれくらい使ったかという記録も確認できます。納品先から圃場のデータを求められることがありますが、必要なデータはほぼ同じで、これらもkintoneから出力できます」(山森さん)
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