レパートリーが増えたものの、刺激も強かった“潮プロデューサー”
「ビニール(レコード)化も見越して制作した」という本作は、前半5曲をA面として麻倉氏がプロデュースしている。選曲もジャズファンには馴染み深いアメリカン・スタンダードが多いが、これに対してB面に当たる後半6曲は50~60年代のアメリカンポップが並ぶ。こちらは潮氏プロデュースで、選曲も同氏によるものだという。
低音にこだわりを見せる潮氏は、ドラムセットのバスドラムに通常よりも一回り以上大きい30インチモデルを用意。手配には苦労したそうだが「おかげでA面と異なるサウンドに仕上がった」と麻倉氏は振り返っている。
「音的にはバスドラムが特別大きいですね。通常は24インチのものを使いますが、今回用意したのは30インチ。これは潮プロデューサーの「やっぱり低音が必要だろう!」という意向で、おかげで非常に低音がしっかりしています。リズムのキレもA面とぜんぜん違い、1枚のアルバムで“静の情家、動の情家”という趣きが出ました。B面は“動の情家”です」(麻倉氏)
普段歌っているジャズ・スタンダードとは異なる楽曲に対して、情家さんは「ライブでも歌ったことがないのに録音してしまった曲がいくつかある」と心配していたが、麻倉氏は「歌いこめば歌いこむほど、味が出てくる」と情家さんの新境地を見出したようだ。当の情家さんにとっても収録は良い経験となったようで「おかげてレパートリーが増えて、最近は『Caravan』『Sunny』『Waltz for Debby』を毎回歌っています」と語っていた。
ただし“潮プロデューサー”の要求は、プレイヤーにとっては少々刺激が強かった様子だ。情家さんによると、Sunnyはレコーディング直前に潮氏が収録すると言い出したほか、ノッタリしているデューク・エリントンのCaravan原曲は「ザ・ベンチャーズの(代表作『Pipeline』をイメージした)Caravanをお願いしますよ!」と言われたという。
さらに最終曲Waltz for Debbyでは、今回のアレンジの基となったスウェーデン語の歌詞(「Monicas vals」)を要求されたとも明かす情家さん。流石にこれには拒否したらしく、英語歌詞になったとしていた。
「潮先生のプロデュースには驚きが多かったです。Caravanはラクダに乗って、好きな人とノッタリ旅してという曲なので、そんな感じでやるのかなと思ったら『ベンチャーズのアレンジを入れてくる』と仰るものですから、バンドの皆が面食らっていました。
Waltz for Debbyのアレンジ基となった映画「ストックホルムでワルツを」は私も観ていたんですね(もちろんスウェーデン語ですが)。そしたら潮先生が事前の打ち合わせで『スウェーデン語を覚えろ』とかおっしゃるので『スウェーデン語はノーです!』と言って、一応英語で収まったんです(苦笑)。
Sunnyもレコーディングの1週間くらい前になって聞かされたので『えっ、録るんですか!?』と驚きながら録ったんですが、今では自分のレパートリーになったので、それはありがたいです」(情家さん)
「Sunnyの最初はアコースティックベースからブワーッと入り、オーディオ的にも難しい曲です。“絶唱”と言うか“絶叫”というか、珍しいですね。『Sunny, I love you』というところがグーッとくる、あそこがスゴイですよ。
CaravanはB面最大の聴きモノで、エレキベースと30インチのバスドラ、サックスのソロが入る間奏は聴きごたえがあります」(麻倉氏)
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