インテルはスペイン・バルセロナで開催された「MWC 2018」の併催イベント「4YFN」にて基調講演を行なった。スピーカーとしてインテルのシニアバイスプレジデント兼プラットフォームエンジニアリンググループ本部長アミール・フェインタック氏が登壇し「The Renaissance Of Compute(計算のルネサンス)」をテーマにプレゼンした。
フェインタック氏は「数年前から計算を行なう元となるデータの質が大きく変わってきている」という。1900年代以前のコンピューターが登場したばかりのころは、歯車などの機械要素で取り扱っていたが、1910年頃はテープメディアを使ったチューニングマシンに変わった。さらに1930年代に電気機械式へと移り変わり、真空管からトランジスタを経て集積回路を搭載したPCやスマートフォンなどがデータを処理している。
さらに最近では処理速度の向上とあわせて、ビッグデータやクラウドの登場により、ロボットやニューラルネットワーク、自動運転、バーチャルリアリティーなど、自ら計算を行なうデバイスが増えてきており、これが大きく変わっているポイントとのこと。そこでは、これまでになかった破壊的とも言える新たな計算機能が期待されている。
たとえば人の表情を見ただけで、それがどういった感情を表しているかを把握する計算機能だ。数十年前までは、感情を理解するには個人的な経験による人間だけがなしえたことだが、現在はコンピューターがそれを読み取ることもある。こういった推論的な計算ができるのは、すべてがデータ化されている必要があるとフェインタック氏は説明する。写真やビデオだけでなく、音や動き、ノイズなど人間のやり取りまで、ありとあらゆるものをキャプチャーして、すべてをデータ化することで可能となる。この場合、コンピューターの処理として必要なのは、従来のデータを収集し保存、転送するだけでなく、コンピューター自身が分析・合成し、それを理解できるエンジンだ。
また動画の重要性も増している。たとえばYouTubeは単なる動画検索の検索エンジンとして人気があるのではなく、新しい音楽との出会いの場にもなっている。今後は工場などの監視ツールを始め、ストリーミングを使ってリアルタイムで動画を共有する期待が高まっているという。そのためには大きなデータサイズでも適切にエンコードやデコードをして、さらに遅延なく配信するシステムが重要となる。
フェインタック氏はさらに、2017年にアメリカを襲ったハリケーンが3000億ドルの被害を出したことに言及。現在のコンピューター機能では自然災害の予測などは不可能だと語っている。こういった自然災害の予測には多くのデータを集めるだけでなく、より少ないデータと不確実性を考慮した新しい計算機能が必要になってくる。
フェインタック氏はこれらの新しい計算を「意味のある計算」とし、さまざまな技術が必要になるという。たとえば感情の計算にはディープラーニングと自然言語処理が重要となり、映像配信には高い圧縮技術やスマートストレージ、文脈の解析には、センサーからの処理やディープラーニング、自然言語のつながりといった具合だ。
このような新しい計算機能を処理するためにインテルが取り組んでいるのが、量子コンピューターであるとフェインタック氏は解説している。インテルはすでに49量子ビットの量子コンピューター用チップ「Tangle Lake」の開発に成功している。量子コンピューターの処理は、これまでのコンピューターが音速だとすると、光の速さで動作するという。量子コンピューターによって、無限の組み合わせの計算をすばやく行なうことができるため、薬物開発などに多大な効果が上げられる。
インテルがもうひとつ注力しているのが、人間の脳をモデルとした脳コンピューターで、すでに「Loihi」というチップセットを発表している。現在のコンピューターはナノ秒で動作し、クロックによって同期して計算を行なう。これ自体はかなりの効果はあるものの、数十から数百ワットの電力が必要となる。一方人間脳はニューロンをシナプスで大規模に相互接続したシステムで、たった20ワットの電力で処理をおこなっているという。
膨大な量のデータとその処理、さらにそこから学習した結果をもとにした推論をいかに高速に行なうか、それが「The Renaissance Of Compute」であり、社会を変革させられる可能性なのである。
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