ロボットによる接客に可能性を感じたパルコは、外部との共同開発を進め、接客だけでなく棚卸しまで踏み込んだが、立ちはだかったのはコストの壁だった。「ロボットは優秀だし、今後われわれと働いてほしいパートナーではあるけど、コストの問題はいかんともしがたかった」(林さん)とのことで、北米で出たばかりのAlexaに行き着いた。「AWSのビジネス開発の方にお会いして、思いのたけをぶつけさせてもらった。この課題をAlexaで開発できないか相談し、感触を得た」(林さん)とのことで、日本に上陸する前から開発を開始。今回のAlexaスキルの公開にこぎ着けたという。
前述したとおり、現時点では自宅のEchoから池袋PARCOの店頭案内が聞けるという用途にとどまっているが、もちろん本来はこれがゴールではない。「店頭にEchoを設置し、音声で問い合わせてもらうだけではなく、タブレット型のサイネージと連携し、マップでお客様を誘導したい。本来想定していた店頭での接客ロスを減らしたい」と林さんは語る。将来的には、店頭にはタッチポイントとしてEchoを数多く設置し、必要なときにナビゲーション用のロボットを出動させるという。
また、入れ代わりの激しいテナントの従業員に対しては、PARCOについてのオリエンテーション研修のオンライン化を進めているが、これもAlexaに任せることはできないか考えているとのこと。つまり、マニュアルをAlexa対応させることにより、お客様から聞かれたことに対してAlexaが直接回答してくれたり、マニュアルの該当箇所を探し出してくれれば、テナントスタッフは接客に時間を充てることができるという。最後、林さんは「困ったら、Alexaに聞こう!というのが、うちだけじゃなくいろいろな店舗に広がればいいと思う」と語り、実務を担当したパルコの伊藤健さんにバトンタッチした。
発音、ゆらぎ、店頭設置など課題は山積
パルコのAlexaスキルは、伊藤さんがパルコ側の実務を担当し、開発自体はクラウドインテグレーターのクラスメソッドが担当した。
いわゆるVUI(Voice User Interface)の設計はあまり苦労がなかったという。今回は店舗のインフォメーションカウンターで日々集計している問い合わせ記録の中から、よくある質問を中心にシナリオを作成。600種類を超えるバリエーションの質問に答えることが可能になった。「溜まった問い合わせログをそのままAlexaスキルに反映したので、設計自体は苦労しなかった」(伊藤さん)。
しかし、楽だったのはここまででスキル開発にはさまざまな苦労があった。たとえば、池袋PARCOにある約200店舗のショップ(ブランド)をきちんと発音してくれないという問題があった。最初はボイスシミュレーターでテストし、アクセントや語尾の上がり下がりをテキスト化してクラスメソッドに修正指示を出したが、ニュアンスがまったく伝わらなかったという。「結局、自分で発音したのを録音して直してもらった。200店舗以上あったが、すべて人力だったので手間がかかった」と伊藤さんは振り替える。
また、ユーザーによって別の言い回しがされるいわゆる「ゆらぎ」も課題となった。たとえば「文房具はどこで買える?」といった質問の場合、文房具だけではなく、文具やステーショナリー、ペン、ノート、スケジュール帳などの言い方も吸収しなければならなかった。「タワーレコードもタワレコと呼ばれることが多いし、ユナイテッドアローズも、ユーエーやアローズなどいろいろな呼ばれ方をする」(伊藤さん)とのことで、ゆらぎのワードをひたすらカスタムスロットに辞書登録を繰り返したという。一般名刺等を登録したカスタムスロットも北米では公開されていたが、現状は英語のみ対応と言うことで、利用を断念したという経緯があった。
店頭設置のため、現在苦労しているのは、家庭用のEchoをPARCOのような公共空間に設置するためのさまざまな課題だ。「そもそもAmazonさん自体がEchoを自宅以外に置くことを想定していない。アメリカでも全然事例がなく、唯一ホテルでの設置例があったくらい」(伊藤さん)とのこと。盗難防止なども必要だが、設置用の什器も既製品がないため、専用の什器を自ら開発している最中だ。その他、騒がしい店内できちんと反応してくれるのか、いたずらで他のスキルを起動されたらどうする、設置場所によって案内の内容が異なる、審査をかけずにショップの入れ替えに対応する仕組みが必要などさまざまな課題があるが、遠からず店頭への設置は開始していく予定だ。
店頭にEchoを置くというユニークなAlexaプロジェクトの背景に見える思想と課題感を語り尽くしたセッション。後半の技術的な苦労も含めて、さまざまなAlexaプロジェクトで血肉となりそうな含蓄の深い内容だった。
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