号泣した。少なくとも4回泣いた。ディズニー/ピクサー新作「リメンバー・ミー」は家族を描いた傑作だ。「トイ・ストーリー3」のリー・アンクリッチ監督が家族の死を描くという前情報だけで泣いていたので涙が出るのは既定路線だったが、泣く理由が想定外だった。家族の呪いと愛のギャップが涙腺をおそってきた。
「ぼくは呪われてる」というのは主人公ミゲルだ。音楽のあふれる国メキシコに生まれ、あこがれのスターがいて、自分もギターの弾き語りが好きだというのに、家族に音楽を禁じられてしまっている。まるで「リトル・ダンサー」だ。理由はミゲルの高祖父(祖父の祖父、ミゲルは孫の孫)が音楽家の道を進みたいと妻のイメルダ、娘のココを残して家を出てしまったから。ダメなバンドマンのような高祖父は一家に「音楽に触れてはならない」というタブーをもたらした。
しかしメキシコのお盆にあたる「死者の日」、ミゲルは家のオフレンダ(祭壇)に飾られた写真の秘密を見つけてしまう。顔が切り取られた高祖父の写真は、ミゲルあこがれのスター、エルネスト・デラクルスのギターを抱えていたのだ。
自分が祖先にあたると確信したミゲルは、デラクルスの霊廟からギターを盗んで音楽コンテストに出ようとする。しかしギターを鳴らした瞬間ミゲルは呪いを受けて生ける死者となり、死者の国に迷いこんでしまう。ミゲルは生者の国に戻ろうと奔走する中で、高祖父の本心を知ることになる。徐々に解き明かされていく一家の真実に、まんまと4回も泣かされた。まるでNHK「ファミリーヒストリー」だ。
ぐっとストーリーにひきこまれた理由は、描かれている家族がポジティブとネガティブの両面をもっているリアルさだ。
わたしはもともと性根がゆがんでいることもあり、たとえば映画で父親と娘が抱き合うシーンなどを見ると「オッ出たな~~ご都合主義的家族愛」と毒づいてしまうのだが、リメンバー・ミーにはそういうウソくさい家族愛がなかった。序盤で家族のルールをミゲルに押しつけるエレナおばあちゃんを見ているとわりと本気で胸がムカついてくるのだが、それがしっかり後半の感動につながるうまい仕組みだ。シンデレラのように継母からいじめられているといった一方的な悲劇ではなく、家族にけっして悪気がないところが生々しい。そういえば「モアナと伝説の海」も悪気なく家族のルールを押しつけられている女の子の話だった。
リアルな家族像を描くこともあり、感動はトイ・ストーリー3より大人向けだ。「カールじいさんの空飛ぶ家」や「インサイド・ヘッド」に近い。
ただしもちろん、子どもの心をくすぐる要素はたくさんある。ヘクターをはじめとするガイコツの登場人物はキャラクターが立っていて愛おしい。物語にはめまぐるしいアクションがふんだんに盛り込まれ、大人もドキッとさせられるようなサスペンスもある。巨大都市・死者の国を探検する映像的な楽しさもある。
死者の国には古代遺跡から現代建築までの多様な建築物がぎっしり並んでいる。クレーン撮影や空撮などのカメラワークがつくりだす壮大な世界観は、さながら遊園地の巨大アトラクションだ。つねに夜が続く死者の国を彩っている光と霧もあやしく美しく、知らない国を旅しているような気持ちを盛り上げる。光のある風景が遠くまでかすんでいく風景をつくるには霧の粒に色を施す作業を短時間で可能にする最新テクノロジーが必要だったという(公式冊子より)。中にはじつに700万個もの灯りが配されたシーンもあったという。緻密な映像表現は、つねに映像技術に力を入れつづけるピクサーらしいこだわりを感じさせられる。
子どもと一緒に見ても楽しいが、劇場の明かりがついて、ボロ泣きしているのは親。劇場版クレヨンしんちゃんやドラえもんとおなじ枠と考えてよさそうだ。鑑賞後には実家に電話をかけたくなった。良い涙を流したい人におすすめしたい。
●公開情報
リメンバー・ミー 原題:COCO
2018年3月16日全国ロードショー
監督:リー・アンクリッチ
共同監督:エイドリアン・モリーナ
製作:ダーラ・K・アンダーソン
製作総指揮:ジョン・ラセター
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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(C)2017 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
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書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中。
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