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市場の縮小、後継者問題など山積する課題を解決できるのか

ITが水田に入らない理由 北海道米の将来性について交わされたディスカッション

2017年11月30日 07時00分更新

流通における農業とITとの理想的な協力関係とは

山本:流通などもっと上のレイヤーでもITができることってあると思うんですが、そういったところはどうでしょうか。

松尾:大手コンビニエンスストアが2025年までに全商品にICタグを付けるとリリースが出て、すごいと思いましたね。そこまで大きい流通が使えばタグの単価が下がるでしょうから、普及にも加速がつくでしょう。道外に売り込むお米にICタグを付けることができれば、流通のデータを取ってマーケティングに活かせるだろうと、夢を広げています。

山本:消費者もそういうデータは見たいのではないでしょうか。といっても生データを見せられても「へえー」と言っておしまいでしょうから、見せ方に工夫はいるでしょうけど。

フュージョン株式会社 代表取締役社長 佐々木卓也氏

佐々木:データの見せ方という点ですごいと思うのは、クックパッドさんですね。素材を入れると、メニューがビジュアルで示される。同じように、この素材をどのように使えば消費者にとって有益なのか、そんな情報を消費者にわかりやすく示してあげることが必要だと思います。それは写真だったり動画だったりするのかもしれませんが、そこにITをうまく活用できるのではないかと。

 消費者だけではなく、流通の人たちにももっとわかりやすく情報を提供する必要があります。流通の人たちって、大体半年後のことを考えているんですよ。いま(10月)ですと、もうバレンタインを過ぎてひな祭りや母の日の話を始めています。

山本:そんなに早いんですか。そこには生鮮も含まれるんですか?

佐々木:生鮮も含まれます。夏場から「鍋はどうしよう」って話をしていますから。そこに、「来週大根がたくさん取れるから」って言われても、もう組み込めないんですよ。それに、流通の人が知っている食材しかそこには組み込まれません。定番以外の魅力的な商品があれば、できるだけ早く教えてくれと言われます。

北海道大学大学院 農学研究院 准教授(地域連携経済学研究室)小林国之氏

小林:実際の収穫は天気などで変わってくるので、農協の営業マンが「2週間後に大根がこれくらい取れそうです」って言うと、それをスーパーマーケットが仕組んだ商品企画の中にどれくらい組み込めるかを仲卸が考えます。そこにITが入り込んできて、スーパーマーケットで扱えないような商材を扱い始めたりしています。

 一方、お米や穀物は産地である程度貯蔵して、需要を見込みながら精米して出荷します。貯蔵が利くことと、消費の変動が少ないことが背景にあります。買い方の変動も少なくて、4割くらいの人がスーパーマーケットで、1.5割くらいの人が生協で買っていて、2割くらいの人が生産者から直接購入しています。もらっているという人も2割くらいいますね。スーパーマーケットで買う人はあまり変化しないと思いますが、それ以外の買い方のデータを集めて、流通の仕方を変える可能性ってあるんでしょうか。

松尾:量販店とかドラッグストアでも最近お米を売っていますよね。ディスカウンターの流通は伸びています。重い物なので、水と並んで通販の目玉になっているとも聞きます。

小林:ホクレンは通販などへのシフトに対応できているんですか?

松尾:自社サイトやAmazonで販売するなど、トライアルはしています。レビューも返ってくるし、これから有望な市場だと認識しています。市場を拡大するために、輸出も始めています。しかし色々なお米が一気に入って日本米同士の価格競争になっては意味がないので、北海道のブランド力を活かしたマーケット作りを心がけています。

山本:日本の米の食べ方って特殊だと思うんですが、これは海外で受け入れられるんでしょうか。おかず文化とセットで輸出するとか、そういう工夫が必要じゃないかと思うのですが。

小林:居酒屋文化などと一緒に、食べ方や店舗ごと売り込んでいく。そういう手法での海外進出は実際に始まっていますね。

松尾:東南アジアのように屋台文化が浸透していて、自宅で食事をする習慣自体がないところでは、炊飯器も持っていないんですよね。そういう、土地ごとの文化に合わせて売り込んでいく必要はあります。

新たな楽しみ方の提案による市場拡大の可能性は国内にもまだあるのか

山本:さっき楽屋で「ササニシキって最近見なくなったよね」って話をしていましたが、米の銘柄にも流行があるんですよね。日本人は純粋で素の物を好む傾向があるけれど、色々な銘柄の米をブレンドして楽しむなんてことはできないんでしょうか。

小林:米を単一銘柄で食べるようになったのは、実は最近のことなんですよ。元々はそれぞれの米屋が独自にブレンドして自分の店の味を作っていました。そういう文化があるので、ブレンド米には可能性があると思いますね。

ホクレン農業協同組合連合会 米穀事業本部米穀部主食課 課長補佐 松尾一平氏

松尾:今でもお寿司屋さんでは、自分好みのブレンドを作って使っているところが多いですよ。しかし残念ながら一般家庭では銘柄買いが一般化してしまい、私たちもブレンド米にチャレンジしたけれど長続きしませんでした。時代が変わればもう1回チャレンジできるかもしれませんね。北海道米には色々な品種があるので、選べる楽しさに、ブレンドする楽しさを加えるとか。コーヒーみたいにブレンドの違いを楽しんだり、店頭で買った物をブレンドして精米してもらったり、そういう楽しみ方を提案すれば新しいマーケットが生まれるかもしれません。

山本:ブレンドってただ混ぜるだけではなく、物語だと思うんです。ブレンダーの名を冠したウィスキーがあるように、カリスマライスブレンダーのような人が現れて、どんどん情報を出していけば、新しい市場にもつながりそうですよね。

明るい話題ばかりではない北海道の農業、その未来は

山本:前向きな話題を展開してきましたが、そうはいっても北海道に限らず農業が直面している状況は決して明るいとは言えません。子供がなりたい職業の上位にも挙がらないということからも、業界自体が問題を抱えていると言わざるをえません。後継者問題など、いまそこにある課題へのアプローチについて、どのようにお考えですか?

農業データ連携基盤協議会 副会長 上原宏氏

上原:後継者問題は大きいですね。新規で経験のない人が都会からやってきて就農するためのハードルをいかに低くするか。そこは、データ農業が一番貢献できるところかもしれないと思っています。あとは、米にどのようにして付加価値をつけていくかということですね。先ほども海外では色々な食べ方があるという話が出ましたが、実はリゾット米と酒米って似ているらしいんですよ。酒米を上手に炊くとおいしいリゾットができるそうです。食べ方と一緒に輸出するのもいいけど、栽培の仕方を少し変えてやるだけでも、国際競争力を得られる可能性はあるのかもしれません。

松尾:後継者問題の現状を語るととても暗くなるのですが、水田農家で今後20年先まで後継者がいるのは2割くらいと言われています。堀田さんは、継いでくださった貴重なおひとりです。

堀田:私自身は農家を継ぎましたけど、後継者問題にはすでに頭を悩ませています。結婚して男の子にも恵まれましたが、それが解決になったかというと、そうではありません。たぶん、継がないだろうと思っているからです。でも、できるだけ継ぎやすい形にしていこうと思っています。息子が継いでくれなくても、ほかの誰かが継ぎやすいように。

 後継者がいない、というところで思考停止するのではなく、解決策を考える姿勢でこの問題をとらえてみたらいいと思います。子供が継いでくれればもちろんそれでいいし、会社にして何人かで事業として継続していく方法もあると思います。極端な話をすれば、ノウハウだけ継いでもらって、あとは全部人材派遣でやればいいのではないかと思ったりもします。少なくとも、次の世代に残せるように、継ぎやすいように、そう取り組むばかりです。

山本:話題がとても広かったので、もっと深堀りして聞きたいという人もいるでしょう。この後ミートアップがありますので、そちらで登壇者を捕まえてください。

 その山本氏の言葉を持って、パネルディスカッションは締めくくられた。その後は会場を移してライスボールプレイヤー 川原悟氏によるおむすびパフォーマンスを交えながらのミートアップが開催され、参加者はさまざまなおにぎりを食べ比べながら北海道米について語り合った。

(提供:No Maps)

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