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開発者インタビューと緊急レビューで徹底紹介

多機能より音質派に朗報! ヤマハの新フラグシップ&BTイヤホンを試聴すべし

2017年11月01日 11時00分更新

文● 鳥居一豊 編集●ASCII 撮影●篠原孝志、曽根田元
提供: 株式会社ヤマハミュージックジャパン

左右同一構造による高音質化
有線ハイレゾ時と無線時の音質的な傾向も揃えた「HPH-W300」

―― では、それぞれのモデルについて聞かせてください。まずはオーバーヘッド型のヘッドホン「HPH-W300」はヤマハ初のワイヤレスである一方、有線時はハイレゾ対応するという野心的なモデルです。

ヤマハ初のBluetoothワイヤレスヘッドホン「HPH-W300」。有線接続時はハイレゾ再生に対応する。11月下旬発売予定。予想実売価格は3万円前後(税込)

波多野 まずは有線接続と、Bluetoothによる無線接続とでの音質差が少ないことを目指しました。Bluetoothは圧縮音声での伝送ですし、有線ならばハイレゾ対応となるので、周波数特性が異なりますが、どちらも音質的な傾向が揃うようにしています。手軽なワイヤレスと有線のハイレゾ再生のどちらでも満足できるものに仕上がったのでは。

―― ワイヤレスタイプはBluetoothの回路やアンプ、バッテリーなどを内蔵するので、左右で内部構造が異なっていることが少なくありませんが、HPH-W300は左右同一構造としています。これはどのようなメリットがあるのでしょうか?

波多野 左右の構造が異なると、音にも違いが出てしまい、自然なステレオ感が損なわれてしまいます。HPH-W300では、バッテリーや電気回路を別のスペースに退避させた上で、エンクロージャー部分の構造は左右共通にしています。外側からはわかりませんし、コストもかかるのですが、音質のためには譲れなかった部分ですね。

HPH-W300の図解。ドライバー部を電気回路部と切り離した上で、左右同一の構造としている。より自然なステレオ感を実現するためのこだわりだ

HPH-W300を分解。ちょうど裏側を向いているエンクロージャー部分が左右共に同じ形をしていることがわかる

―― ハウジングを支えるハンガーの回転軸が傾いているのは装着感アップのためだと思いますが、同時にチャームポイントにもなってますね。

波多野 ヘッドバンドに対してハンガーの回転軸部分を約15度傾斜させています。こうすることでハウジングの密着感が高まりますし、耳の穴の位置とドライバーユニットの位置が揃います。装着感と音質の両方にメリットがあります。

 また、装着感に直結するイヤーパッドにはこだわりました。縫製方法から内部に収めるクッションの材質・形状の違いに至るまで、さまざまな組み合わせを検討し、かなりの数を試作しています。最終的には立体縫製と低反発のクッションの組み合わせで、音質と装着感が両立できるものを選びました。

イヤーパッドの試作群。これでもほんの一部だとか。実際は立体縫製のパッドの内部に水色のスポンジが収まっている。パッドよりも大きなスポンジを詰め込むことで、イヤーパッド特有の“パンパンに膨れ上がった形状”になるわけだ

―― そのような音質面での要求が高かったにもかかわらず、本体は肥大化するどころか薄さを感じるところが興味深いです。

大町 ワイヤレスのための回路やバッテリーを内蔵しながら、装着時にはスッキリとした見た目になる薄型デザインの構築には苦労しました。また、操作用のタッチセンサーコントロールを内蔵するため、ハウジングは樹脂素材なのですが、ロゴマークにスピン加工を施し、音への信頼の証として主張するなどの細かな工夫もしています。

大町氏によるHPH-W300のデザインラフ。液タブで描いたイラストをプリントアウトしたものかと思いきや、直筆のスケッチブック! 筆の運びが見える生々しさにちょっと感動

装着感に加え、装着時の持ちやすさにまでこだわった「EPH-W53」

―― 今度はワイヤレスイヤホン、いわゆるネックバンド型のEPH-W53についてお聞きします。イヤホンのハウジング部分にはフィット感を高めるスタビライザーが装着されているなど、やはり装着感にこだわりがありそうです。

こちらもヤマハ初のBluetoothワイヤレスイヤホン「EPH-W53」。いわゆるネックバンド型だ。12月上旬発売予定。予想実売価格は1万8000円前後(税込)

大町 装着したときのフィット感も重要ですが、今回はそれに加えて装着時の持ちやすさにも配慮して形状を決めていきました。無造作に置かれたEPH-W53を三本の指で摘まんで耳にはめる……この一連の動作をいかにスムーズにするかにこだわっています。

―― 確かに、耳元まで持ってきたところで摘まみ方を変えないと耳に捻じ込めない、みたいな「日常生活でのちょっとした不快感」って、積み重なるとストレス源になりますよね。

大町 そのために、高さの異なるものやスタイビライザーの位置を変えたもの、果てはケーブルが飛び出す軸の太さまで仔細に検討しています。

波多野 そして、装着感は実際に試さないとわからない部分なのでコンマ数ミリレベルの試行錯誤が必要ですが、そのたびに金型を作るわけにはいきません。これまではそこが悩みの種だったのですが、今回は試作に3Dプリンターを導入したことで思う存分、試行錯誤できました(笑) 「試作→フィット感を確認→改良版試作→再度確認」を繰り返したことでフィット感をかなり詰められたと思います。

EPH-W53の図解。バッテリーは定評のあるVARTA社製を左右両方に搭載している。そしてHPH-W300同様、自然なステレオ感を得るために左右同一構造となっている

3Dプリンターによる試作品の一部。実際は「こんなものでは済まない数」を作ったとか

―― 装着感の向上のために、イヤーピースが5サイズ、スタビライザーも3サイズ同梱され、ユーザーに合わせたカスタマイズがしやすくなっていることにも感心しました。

大町 形状の検討の段階でも社内をはじめ、多くの人に試してもらっていますが、人間の頭部や耳の形状は個々人で微妙に異なりますので、よりフィットさせるためにイヤーピースとスタビライザーの種類を増やしています。このほかケーブルが本体から飛び出す部分の形状も、装着したときにケーブルが邪魔になりにくい角度にして、使い心地を高めました。

―― そしてヘッドホンのHPH-W300同様、EPH-W53にもバッテリーや電気部品を左右のハウジングそれぞれに内蔵するなど、左右の差をなくす設計を採り入れていますね。

波多野 イヤホンなのでサイズも小さく難しいのですが、ドライバーや保護回路、バッテリーは左右それぞれ同じものを内蔵して、左右の音質差・重量差を揃えています。また、自然な音を追求するため、イヤピースを装着する音導管の直近にドライバーを装着することで歪みの発生を抑えています。

―― 事前に試させていただいたときも、スムーズな装着や耳にすっぽりと収まる感触の良さに感心していたのですが、話を聞くほど細かな部分にまでこだわっているのがよくわかりました。イヤホンやヘッドホンは購入前に試聴する人は多いと思いますが、その際は装着感まで含めてじっくりと試してみてほしいですね。

形状そのものが装着感アップにつながっている。あくまで「まずはイヤホン本来の機能を追求する」ヤマハらしいデザインだ

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