テクノロジーと音楽、映画が融合するNo Maps 2017
この秋、札幌・北海道は先端技術の実験場になる
Sapporo Creative Convention「No Maps 2017」の記者発表会が都内の会場で開催された。「まちに、未来を、インストール。」というキャッチコピーを掲げる同イベントは、会議、展示、興行、実験、交流の5つを柱に、多数のコンテンツを同時開催するもの。2016年のプレ開催を経て、2017年を第1回とし、本格的な活動をスタートする。10月の開催に先駆けて、今回は記者発表会の様子をレポートしたい。記者発表会といっても型通りの発表会ではなく、クリエイティビティーにあふれた進行になっており、それ自体がひとつの小イベントのようでもあった。
リアルに活用され恩恵をもたらす
ITの実験場として、北海道を再び開拓
記者発表会の司会を務めたのは、FC POPの河原 あず氏とタムラ カイ氏。タムラ氏は発表会の内容をグラフィックレコーディングで記録するという、ほかの記者発表会では見たことのないチャレンジを行なった。
司会の紹介を受けて最初に登場したのは、No Maps実行委員長の伊藤 博之氏。初音ミクを生み出したクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の代表取締役を務める人物だ。伊藤氏は、No Mapsが行なう5つの事業のうち、もっとも重視しているのは実験だと語る。
「FacebookやLINEなど、多くの人が普段からITの恩恵を被っていますが、多くは形がない、コンピューターの中だけでの対話です。これがコンピューターを出て、リアルの産業に溶け込むことでもっと大きなメリットをもたらすと考えています。そのための実験場として、新しいものを開拓していく場所として北海道を活用できると思っています」(伊藤氏)
伊藤氏が言う通り、ドローンやIoTなど、ITはコンピューターを飛び出しつつある。しかしその実験を行なえる場所は多くない。実際の道路や公園を使った実証実験を東京で行なおうと思ったら、必要な許認可を得るだけで疲弊してしまうだろう。No Mapsではその課題に正面から取り組む。
「No Mapsの実行委員会には、北海道を代表する民間企業、官公庁、大学などが参加しています。札幌市や北海道庁のバックアップを得て、社会実験をやりやすい場所にしていきたい。No Mapsをそのための着火点にしたいですね」(伊藤氏)
北海道の面積は、実に日本の国土の22%を占める。そこには街だけではなく農地も、牧場も、港もある。さらに今は、ロケット発射場の誘致活動も行なわれている。広い場所を使い多くのデータを集める実験場としての条件は整っていると伊藤氏は言う。
ITの話題が先行したが、クリプトン・フューチャー・メディアと言えば、初音ミクを生み出し音楽との関わり方を変えた企業でもある。司会の河原氏から「テクノロジーとカルチャーを結びつける人でもありますよね」と話を振られ、音楽イベントや映画イベントについても触れた。
「CDが売れなくなったというけれど、ライブなど音楽産業全体を見ると実は右肩上がりが続いています。No Mapsはテクノロジーと音楽、映画の掛け算を実験できる場所であり、相乗効果を期待できる場所でもあります」(伊藤氏)
映画にはじまり、カンファレンスにミートアップ、そして週末の音楽祭へ
マイクは伊藤氏から、No Maps実行委員会 事務局長の廣瀬 岳史氏へと渡された。廣瀬氏からはNo Maps 2017で予定されている事業の、より具体的な紹介が行なわれた。
「まちに、未来を、インストール。このキャッチコピーの通り、街全体が会場です。広域で新しいビジネスモデルやコンテンツを体感できる仕組みを作っていきます」(廣瀬氏)
メインとなる会期は、2017年10月5日(木)から10月15日(日)までの11日間。おおまかな流れとしては、前半に映画を中心としたイベントが開催され、中盤からはカンファレンスなどITビジネス寄りのイベントが、そして会期終盤の週末には多数の音楽イベントが予定されている。
序盤の目玉イベントのひとつが、第12回札幌国際短編映画祭だ。99の国と地域から寄せられた3524作品の中から厳選された約80本の入選作品が上映されるほか、フィルムメーカーや若手俳優とのミートアップも予定されている。
中盤以降には50を超えるカンファレンスが用意され、そのカバーエリアは農業、AI、地方創生、宇宙にまで広がる。そして週末には150組を超えるアーティストによるライブパフォーマンスが、複数の会場を使って開催される。
「映画、IT、音楽のいずれにおいても、交流の場を設けます。会期中にいろいろな場所で業種、職種を超えた交流が生まれることに期待できるしています」(廣瀬氏)
これを受けて司会の河原氏も「面白いイベントだから、面白い人が集まる。未来と出会うなら北海道へ」と会場に語りかけた。
Mobike札幌進出など、連携事業や
先端技術を使った実証実験の実施を発表
先に札幌でも記者発表会を行なっていた同イベントだが、今回の東京での発表会で新たに明らかにされた内容もあった。各種連携事業の紹介、CEATEC JAPANとの連携、そして社会実験の受け皿としての「No Maps Future Lab」の創設だ。
「No Mapsは起業家支援をがんばっていきたい。そのひとつとして、『No Maps NEDO Dream Pitch with北海道起業家万博』を開催します」(廣瀬氏)
名前の通り、NEDO(国立研究所開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)や経済産業省北海道経済産業局が主催するもので、北海道起業家万博とも連携事業として開催するピッチコンテストだ。優秀チームには、全国規模のピッチコンテストへの参加権が与えられる。NEDOと経済産業省北海道経済産業局によるピッチコンテストは昨年から開催されており、今後も継続的に実施予定とのこと。
CEATEC JAPANとの連携については、CEATEC JAPAN運営事務局長の菊嶋 隆史氏から説明があった。CEATEC JAPANは日本最大級の展示会だが、ベンダーだけではなくユーザー企業が出展する「IoTタウン」という取り組みを始めるなど、「共創」をキーワードに進化を続けてきた。
「今回は会議と交流の分野でNo MapsとCEATEC JAPANが連携します。CEATEC JAPANにおいてNo Mapsプレゼンツのセミナーを行ない、逆にCEATECからはCEATEC米国メディアパネルイノベーションアワードの特別賞受賞者をNo Mapsベンチャーカンファレンスに招待してセミナーに登壇してもらう予定です」(菊嶋氏)
続いて紹介された「No Maps Future Lab」の設置は、北海道を社会実験、社会実装の聖地にすることを目指すNo Mapsの中核にも関わる取り組みだ。行政との綿密な連携を実現し、他地域では時間を要する手続きや許認可をスピードアップすることで、「社会実験をやるなら北海道」という認識を広めていきたいと廣瀬氏は言う。こちらについては、実際に動き始めている実験事例が3つ紹介された。
1つは、株式会社リクルートテクノロジーズが携わる、ブロックチェーンを活用したライブパフォーマンスの演出実験。ブロックチェーンはビットコインのプラットフォームとして有名だが、金融以外の活用についても模索が続いている。今回はこれをエンターテインメントの世界で活用する実験を行なうという。
2つ目は、市街地を舞台にしたドローンゲームという刺激的な内容。こちらは株式会社東京放送ホールディングスと株式会社ドローンゲームズが手がけるもの。許認可のハードルの高さから、市街地でドローンを使った大規模な実証実験は一般的に困難だ。そのハードルを超え、大人から子供まで楽しめるようないくつかのゲームをドローンで提供する。
3つ目は、世界的にも注目が高まっている自転車シェアリングサービスMobikeの札幌展開。詳細については、実際にMobikeで使われている自転車に乗って会場に現れたBeijing Mobike Technology Co.,Ltdの国際展開を統括するクリス マーティン氏から紹介された。
Mobikeは中国で大規模に展開しており、ユーザー数は1億人を超え、ピーク時には1日2500万回もの利用がある。中国の主要都市をはじめ、シンガポール、イギリスのマンチェスターでサービスを提供。日本国内では福岡に続いて札幌が2つ目の展開都市となる。筆者の興味を惹いたのは、マーティン氏が日本語堪能であることと、Mobikeで使われている自転車がスタイリッシュでカッコいいこと。
「4年間メンテナンスフリーで運用できるよう、いくつもの工夫があります。チェーンはなく、自動車のようにシャフトドライブになっており、ブレーキはディスクブレーキを採用しました。タイヤはパンクフリーのエアレスタイヤです」(マーティン氏)
前後片持ちのフレームがカッコいいこの自転車には、GPSと通信機能、SIMが内蔵されている。GPSによる位置データはシェアリングサービスに必須なだけではなく、蓄積されることで公共交通の可視化を実現する。現在、毎日5TBものデータが集められ、公共交通機関の最適化などにも役立てられる予定だという。ビッグデータを活かすため、AIやディープラーニングへも積極的な投資を行なっているとのこと。
「サービスインの時期はまだ決まっていないが、ローンチ時期を決めてそこに向けて準備するのではなく、準備が整い次第ローンチするのがMobikeのやり方です。料金体系もいまはお話できませんが、日本向けには、日本で使いやすい支払い方法を取り入れるべくパートナーとサービス開発中です」(マーティン氏)
発表会の最後、廣瀬氏にスタートアップやテクノロジー的な視点からの見所を聞いたところ、中盤のビジネスセミナーから週末にかけてが見所になるのではないかとのこと。
「セミナーやピッチコンテストなどは前半に地方創生系の話題を、後半になるに従って未来感のある話題を配置する予定です。ブロックチェーンを使ったライブパフォーマンスの実証実験も後半に予定されているので、そのあたりを見に来ていただきたいですね」(廣瀬氏)
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります