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川崎のチネチッタで7.1chの重低音再生に文字通り震える

体で感じる重低音、BLAME!の音が生まれる場所に潜入

2017年05月17日 13時00分更新

暴れていた音が劇場に徐々になじんでいく様子を目撃

 音響調整はこの劇場の中央に陣取り、計測用マイクを接続したノートパソコンを使用して実施する。最初の作業はピンクノイズを出力して、各チャンネルのレベルを合わせること。その後トランシーバーで映写室と連絡を取りながら、岩浪監督が指定したシーンを上映。イコライジングなど細かな音を詰めていく段取りだ。

測定/調整用のソフトが入ったノートパソコン

 レベル調整の作業は、規模こそ異なるがAVアンプの調整に似ている。その作業中に、岩浪監督の「バックが3本だけなので、ここが一番つらい戦いになる。飛ばないように気を付けて」といった声が耳に飛び込んできた。

 東亜重音7.1ch LIVE ZOUNDの上映には「爆音ミックス」と名付けたられた7.1chの音源を使用する。爆音ミックスとは大型のサブウーファーを備え、「爆音上映」が可能な劇場用に別途用意しているものだ。

 迫力ある重低音はLIVE ZOUNDの魅力だが、爆音上映用にLFEチャンネルを持ち上げると、効果音だけでなく音楽部分の低域成分も持ち上がってしまう。それでは本編の迫力が上がっても音楽再生には違和感が出る。そこで音楽部分のLFEだけを事前に下げた、劇場専用のミックスを用意しているのだ。

 レベル調整が済むと、今度は具体的なシーンをみながらの調整となる。

 調整のために聞く場所はあくまでも作品のほんの一部だが、その魅力は存分に伝わる。すさまじい爆発音によって、空気の振動が体に伝わる圧倒的な感覚はやはりスゴい。

 同時に登場人物の視点とそれに連動した音響の緻密な作り込みにも感銘を受ける。例えば、登場人物が1人称的な視点で語る際には、ヘルメットの中から場面をみる息詰まるような閉塞感。一方で少し引いた視点でセーフガードとの攻防が描かれるシーンでは音が周囲から回り込み、どのような広さの場所で戦闘が繰り広げられているか、相手との距離感などを意識する。視点はシーン内で頻繁に入れ替わるが、自然と作品の世界に没頭し、引き込まれていく。

スクリーンの下に置かれたサブウーファー

 一連の調整の中で特に入念にチェックされていたのは、冒頭のアクションシーンとエンドロールに流れるangelaの「Calling you」、そして村人たちの前から霧亥が姿を消す前の盛大な爆発シーンのバランスだ。

 岩浪監督は、BLAME!では「効果音としての重低音と、音楽としての低域の両立が肝になるが、音楽に関してはエンドロールが最も前に出てくるので、そこを固めれば間違いがない」とする。

 調整の最初で各シーンを聞いた印象としては、びりびりと衝撃波が脚と体に伝わる、本編部分の低域のボリュームに圧倒される一方で、エンドロール部分の曲の爆音感、特にリズム帯がズンドコと暴れている点には違和感があった。そこで低域をガッツリと落とす調整を実施したようだ。2回目のプレイバックでは、その違和感は減ったが、微調整が続き、何度もシーンを行き来しながら、適切な落としどころを探っていく。その結果、本編の迫力を損なわず、音楽も適切に聴こえる調整となった。

 BLAME!に続いて、シドニアの騎士の調整にはいる。シドニアの騎士ではBLAME!の調整結果を加味しつつ、マスターボリュームを下げたうえでのチェックを実施する。チェックしていたのはオープニングおよび7機掌位の衛人が帰還する終盤からエンドロールにかけての部分。セリフの聞きやすさを重視してか、高い帯域をなじませるといった調整をしていたようだ。

劇場の素性がいいため、台詞をしっかり聞かせながら広がりを出せる

 調整作業が完了した後、岩浪監督に話を聞いた。

 まずはBLAME!の調整でもっとも気を配った点について。「LIVE ZOUNDのスピーカーは音楽(ライブ)用のスピーカーだが、音楽がおいしい帯域と映画は若干違う」とのこと。「音楽ではベースやバスドラが支えになって気持ちよく聴こえるシステムでも、映画では出すぎてしまう面がある」そうだ。

 LIVE ZOUNDということで重低音はふんだんに入れている。そのつながりを細かく修正しながら、低域の出方を重点的に調整していったという。

 一方で「低域から高域までワイドレンジに再現でき、しかも定位や抜けがいい」点は、一般的な映画館にはないコンサート用のアレイスピーカーを導入する大きなメリットだ。高い再生能力を生かし、今回は「広がり感を重視し、空間の音をリッチにできる調整を加えた」とのこと。

 ただし、そのためには機材だけではだめだ。「きちんと台詞を聞かせながら、広く出せる、劇場として素性の良さがあってのこと」だという。

チネチッタの音響を手掛ける山室亨氏と調整を詰めていく岩浪監督

 音響調整は足し算ではなく引き算。つまり劇場の個性を知り、その癖をつぶしていくことが重要となる。劇場がもつ性格はあとからどうにかできるものではない。チネチッタの8番スクリーンは、もともとTHX認定を取得していたスクリーンということもあり、静穏性、音響特性ともに高水準だ。「500人規模の小屋の中ではトップクラスのつくりで、調整が非常にしやすい」と、岩浪監督も評価していた。

サラウンドスピーカーは合計22台

 調整作業の最中に岩浪監督は、サラウンド感を確かめるためか、劇場の前方や後方、あるいは壁際の位置など様々な位置で音をチェックしていた。取材陣からも「チネチッタで再生したBLAME!の音響は後方でもサラウンド感が維持され、しっかりとしたフォーカスが得られていた」という感想が出た。これに対しては岩浪監督からも「そこがラインアレイの強みで、後ろの席ほど恩恵が高い。きちっと音が聞こえますね」という返答。

 そのうえで劇場のトレンドは(スクリーンの画角を広くとり、迫力を重視した)Wall to Wallで横長のタイプが多いが、「音響的には(やや縦長の)このぐらいの縦横比のほうがいい」とした。

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