なくしもの、落とし物――個人も、大企業も困っている
ここまで見てみると、MAMORIOの強みは「落とし物を探すハードウェア」だけを提供していない部分にあるとわかってくる。周囲からもビジネスにはとてもなりにくいと見なされていた”落とし物のポータルサイト”運営から、増木氏が考えるコアな価値のあり方は変わっていない点こそが重要だ。
そしてこの先は、「目に見えないMAMORIO」を増やすフェーズが始まる。2017年2月20日に発表された、メルコホールディングスを割当先とする第三者割当増資実施もその流れだろう。
メルコホールディングスは、ネットワーク機器で強いシェアを持つバッファローを中核とする名古屋の企業だ。LANやWi-Fiでの法人向け製品についても広く展開を行っており、MAMORIOが想定するビジョンとの相性は抜群といえる。
ちなみにMAMORIOは、すでにコンシューマ向けには数万単位のタグをさばいているというが、スタッフはわずか6名のみで回しているという。注文から発送までのオペレーションを徹底的に自動化・効率化し、製品開発に集中してコンセプトを磨き続ける狙いが見える。
「落とし物ドットコム」から始まったモットーを貫き通した結果、多くの人が「なくしもの」に困っていることが分かった。それは個人だけでなく、大企業であっても同じだったことは、増木氏にとっても、勇気づけられるに値する発見だった。
「ものをなくす悩みはどんな企業にもある。『落とし物を考える会社です』というと、向こうからいろんなアイデアがやってきた」と増木氏。保険という考え方との組み合わせも、そのようは必然のもとにできたサービスだ。
「もちろん新製品も考えているが、ハードウェアの高機能化などは考えていない。むしろ機能を限定し、値段を下げ、電池を持たせることが重要。いまは3500円という価格だが、これがもっと安くなれば気楽に付けてもらえる」(増木氏)
サービス、ソリューションを提供しつつ、ハードウェアも製作するMAMORIO。「ハードウェアを作っていて良かったのは、アーリーアダプターに賛同されやすいこと。やはり日本では、”かたちがあるもの”が好かれる。ただ、ハードウェア製作は初期の資金調達が大変だし、遅れると訴えられてしまう――そのぶん、できあがったときの感動はひとしお」
KDDI ∞ Labo参加以降も、関係企業から「おもしろい」といってもらえる機会が増えたそうだ。貸し会議室の設備管理、展示会の万引き防止など、アイデアもたくさん出てくる。増木氏はMAMORIOタグをあらゆるなくしたくないものに付けておく世界を目指している。
「いまのMAMORIOでできることはまだ一部でしかない。でもいろいろ言い過ぎるとわかりにくくなるので『これさえあればなくさない』を中心に、どんどん広げていく」――この思想が浸透すれば、あらゆるモノの位置情報が取得できる未来が来るのかもしれない。
●MAMORIO株式会社
2012年7月に旧社名「落し物ドットコム」として設立。なくしたものを登録し、見つけた人とマッチングを行う「落し物ドットコム」から、「なくすを、なくす」をモットーにした落とし物追跡タグ「MAMORIO」、および関連するサービスを提供する。
資金調達では、2017年2月20日にメルコホールディングスを割当先とする第三者割当増資を実施。金額などは非公表。
スタッフ数は2017年3月時点で6名。Androidエンジニア、カスタマーサポート、その他さまざまな職種を募集中。
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