個人向けタグ販売→企業向け展開へ、でも変わらないものは
個人と個人をマッチングさせるWebサービスからスタートし、IoTデバイスというハードウェアを提供するものづくりメーカーへ、そして今は企業と協業するB2Bビジネスに移り変わったMAMORIO。しかし、その根底にあるのは常に「なくすを、なくす」というモットーだ。コアになるこの思いは、いまも昔も変わらないという。
2012年にスタートしたMAMORIO(旧社名は落とし物ドットコム)は、BLE(Bluetooth 4.0)を利用した「タグ」の可能性を感じ、BLEタグを使ってなくし物を見つけられるソリューションを日本でも展開しようと模索する。
増木氏にはものづくり経験も資金もない状況だったが、クラウドファンディングを活用し、300万円ほどの資金を調達する。「2014年当時、こういうのを作りたい、デザインはこれ、名前はこれ、というのを提示して資金調達した。きっと技術的にはできるし、ソフトウェア開発も自分でできるだろうと考えていた。今から考えると危ない橋だった」と増木氏は振り返る。
その後の話は「思い出したくないくらい、つらかった」と増木氏は苦笑いする。
「ものづくりを甘く見すぎていた。設計、評価、量産、組み立て、パッケージングのすべてを自分たちでやる必要がある。これが本当に大変だった」
一番のピンチは、最初の製品が数千個納入されたあとの話だった。「製品はちゃんと動いたが、電池がたった数日で切れてしまう。もちろん設計は1年持つという前提だった」。原因を調べたところ、選定したチップのバージョンが古いもので、想定していた消費電力を抑えるファームウェアの機能が対応していなかった。「電池を替える、ファームウェアを変える、アプリで何とかする……手探りで試行錯誤してみたものの、電池の持ちは1ヵ月半が限界だった」(増木氏)
増木氏は初期生産分をすべて破棄し、すべてを1から作り直すことを決断。想定していたリリース時期からは半年以上遅れてしまった。
「ものづくりの専門家でなければ、ハードウェアを作るのは難しい。その経験から『ハードではなく、ソフトウェア、サービスをコアにする』というビジネスモデルにしようと決めた。ハードウェアはこだわればこだわるほど費用も手間もかかってしまう。だからこそ、最低限シンプルなハードウェアにとどめ、裏側であるアプリで勝負すると割り切る。シンプルに徹することでハードは安くなるし、サービス提供のスピードもアップできる」。増木氏は失敗をバネに、MAMORIOが向かうべき方向を定めることができたのだ。
Googleですら持っていない情報
なくさない機能を拡張し「ものがどこにあるか」を把握する――増木氏はここに、B2B市場での勝機を見いだした。「世界のサービスを見ても、ものがどこにあるかを押さえている企業はない。あのグーグルでさえも『私のお財布はどこ?』と聞いても答えられる情報を持っていない。モノの場所情報を押さえること、我々はそれを目指している」(増木氏)。
そのためには、なくさないためのこの仕組みが、さまざまなデバイス、モノにこの機能が含まれる必要がある。先の「IoT手袋」のように、ハードウェアに最初から含まれている世界が理想だ。とくにB2BにおいてはMAMORIOタグのカスタム化も必要となるだろう。「たとえば屋外で利用するものであれば、耐久性の高いパッケージングが必要。MAMORIOタグはあくまでシンプルなビーコンなので、他社のビーコンを”MAMORIO化”することもできる。我々はハードウェアベンダーではないので、なくさないための仕組みを提供することに注力している――それを実現するために分かりやすく、ハードウェアも提供している」
ソフトウェア、サービスを中心にビジネスを展開することで、新たなビジネスも登場している。それが保険だ。
同社はすでに、サポート付きのオプション「MAMORIOあんしんプラン」を備えている。年1000円 / 1デバイスで、財布、鍵、電子機器、バッグを対象に、なくしてしまったときの補償を含むサービスを提供している。
「ハードウェアだけだと、月額費用もいただくというモデルは難しい。じつは損害保険や盗難保険は一般的にも広く存在しているが、紛失時も対象となる保険はなかなかない。MAMORIOタグを付けていた場合に保険が下りるよう、特約をつけた契約にしている。なくなったら立ち直れないような大事なデバイスへの補償や、鍵をなくして玄関を開けるときに、損しなくて済んだと思っていただければ」
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