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最大の武器は「落とし物を考える会社」 なくしたものがわかるMAMORIO

2017年03月10日 07時00分更新

 鍵、財布、そしてデジタルガジェット――私たちの周りには、小さくて大切なものがたくさんある。これらを”なくさない”ためのIoTデバイスが、東京・秋葉原のベンチャーからリリースされている。”なくすを、なくす”をキーワードにしたBLE(Bluetooth Low Energy)製品、忘れ物防止タグ「MAMORIO」だ。

 Bluetooth Low Energyによりスマートフォンとペアリングすることで、MAMORIOを付けた”大切なもの”がどこにあるかを把握するというシンプルな製品。これまでMAMORIOは個人を対象として販売されてきたが、そのシンプルさが理由で、実は「エンタープライズビジネス」からも注目されているという。企業においても”なくすを、なくす”がどのように活用できるのだろうか。MAMORIO代表取締役の増木大己氏に聞いた。

MAMORIO代表取締役の増木大己氏

「落とした人と拾った人をマッチングする」からスタート

 MAMORIOはもともと、大切なものを落としてしまった人と、落とし物を拾った人をマッチングする「落し物ドットコム」からスタートした。

 同社は「ものがなくならない」世界を目指し、名札のような小さなIoTデバイス「MAMORIO」をリリースする。これはスマートフォンと連携することで、手元から大事なものが離れてしまったときにスマートフォンに通知を送り、その場所をマップで確認できるというものだ。

 また、MAMORIOのアプリを入れているユーザーたちが協力することで、他のユーザーが落としてしまった大事なものが自分のスマートフォンの圏内(約30メートル)に入ると、その情報をサーバーに登録。「すれ違い通信」の要領で、落とし物を見つけるという「クラウドトラッキング」機能も有している。

 MAMORIOのタグ単体では4G/3GやWi-Fi通信機能はないが、Bluetoothを使って「みんなのスマートフォンを利用して探す」ことが可能になる。MAMORIOのWebサイトにはこの機能を使って大事なものがいくつ見つかったのかも、リアルタイムで表示されている。

 3.5センチ×2センチほどの大きさで、電池も約1年間持つ。わずか3500円で大事なものをなくさない仕組みが得られる。財布や鍵だけでなく、「ペットの迷子札」としても活用されているとのことだ。さらに、渋谷駅では鉄道の遺失物センターにMAMORIOタグのセンサーを設置する実証実験も行われており、クラウドトラッキングで見つかる可能性が格段に高くなったという。

「なくさない」というニーズは企業にもある

 だがこれ以上にMAMORIOというデバイスの活用範囲は広い。当初は個人向けに考えていた「なくさない」というソリューションは、KDDIのベンチャー育成プログラム「KDDI ∞ Labo」に参加したときに花開いたという。第10期プログラムに参加した増木氏は、「落とし物からスタートしたものの、このままでは市場は拡がりにくい。しかし、企業の視点から見るとさまざまなアイデアがあった」と述べる。

 例えばそれは、”なくし物”に敏感な現場における管理手段としてのMAMORIOタグ活用だ。「飛行機を整備する場所では、整備のための工具や台車などの管理が大変シビア。工具はたくさんあり、1つでもなくなってしまうと大問題になる。たとえば日本航空さんの場合はこの課題を何とかしようと模索していたところで、MAMORIOに注目していただいた」と増木氏は述べる。

 KDDI ∞ Laboを通じ日本航空とつながった増木氏は、飛行機整備場で使えるMAMORIOタグ管理画面を制作、工具、器具の可視化を行う実証実験を進めている。

日本航空での実証実験

 ビジネスにおいての活用例はなくし物だけではない。準備すべき物品がすべてそろっていることの確認のためにも応用できる。例えばテレビ局のロケ隊は、機材がすべてそろっているかを確認し、ロケ場所へ向かう。そのとき、もし”忘れ物”があった場合、ロケは途中で中断せざるを得なくなってしまう。そのとき、機材のすべてにMAMORIOタグがあれば、ロケバス内でスマートフォンアプリをチェックすることで、”忘れ物がない”ことを確認できる。この実証実験はテレビ朝日にて行われ、効果をあげたという。

テレビ朝日との「MAMORIO」物品管理システムへの応用

なくさない機能が内蔵されたモノ、なくしたらなくなっちゃうモノ、どちらを選びますか?

 MAMORIOが満たす企業ニーズは、落とし物、なくし物に限らない。現在行われている実証実験の対象は「人」だ。認知症で徘徊(はいかい)をしてしまう患者に対して、MAMORIOがなにかできないかという模索が、大手製薬会社と共同で行われている。

 「認知症患者の徘徊対策デバイスはすでに世にあるが、高価なうえにいかにも”徘徊対策です!”という大げさなものが多い。軽度の認知症の方だと気楽には受け入れがたい。MAMORIOのタグならば、家族も『これ持っていると、ものをなくさなくていいよ』と簡単に渡すことができ、万が一のときは家族にも本人の位置情報がわかるような使い方もできる。このコンセプトはある程度の効果が実証できつつあるので、2017年中には正式にリリースしたい」(増木氏)。

 珍しいところでは、「IoT手袋」までも登場している。いつの間にか片方だけなくなってしまい、結局片方を捨てなくてはならない経験がある方も多いはずだ。そこでMAMORIOタグに相当する機能を手袋に埋め込み、なくさないという機能がついたものが販売された。「なくさない機能付きの手袋と、なくしたらなくなっちゃう手袋――MAMORIOが既存の商品に付加価値を与えられるという事例ができた」と増木氏は述べる。

IoT手袋

 だが、ここまでの道のりには、数千個のロットを破棄しなければならないような、ハードウェアを扱うスタートアップならではの苦労もあったという。

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