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目指すは医療者・利用者双方のためになる社会インフラ

「孤立する子育て救いたい」深夜に駆け込める小児科オンライン

2017年02月24日 07時00分更新

 株式会社Kids Publicは、小児の健康相談に現役の小児科医が答える小児科オンラインを提供している。

 「医療に関する情報を提供するサイト」はDeNAのウェルクで問題となったが、同社が目指しているのはサイトを訪れる人を闇雲に増やしていくことではない。現役の小児科医でもある創業者兼CEOの橋本直也氏は、「生活環境が大きく変わり、技術が進展している中で、家庭と小児医療の新たな接点を持つべきではと思っている。スマートフォンを活用することで、親御さんの家庭での不安に寄り添い、軽い症状でも判断がつかずに子供を連れて夜間に救急病院に駆け込むといった状況を改善していくことが狙い」と話す。

 実際に医療現場で小児科医として多くの親や子供達に対面する橋本氏は、「(医療現場で)待っているだけではダメだと思った」と自ら起業を決意した。小児科オンラインが目指すのはどんなサービスなのか。

株式会社Kids Public創業者兼CEOの橋本直也氏

医師は医療現場で待っているだけでよいのか

小児科オンライン

 小児科オンラインは、平日の夜18時~22時、子供に関する健康相談に小児科医が答えてくれるサービス。自宅にいながら小児科医に相談でき、それに答えるのが現役の小児科医であることが特徴だ。個人で利用する場合には、月額3980円の料金で何回でも相談できる。LINEでのやり取りができ、深夜であってもスマホから我が子の健康について質問できる。

 創業者であり、CEOである橋本直也氏は現役の小児科医。実際に現場で働いてきた経験を持っており、現在でも現場に立つかたわらで事業を運営している。起業を思い立ったのは、「診療所で待っているだけでよいのか?」と小児科医として感じた疑問からだったと説明する。

 現在の小児医療は、さまざまな課題を抱えている。

 少子化・核家族化が進み、働きながら子育てをする母親が増加するなど、以前とは異なってきている。子供の成長における悩みや、子供が病気になった際に相談する相手がない状況でありながら、病院やクリニックは18時に閉まってしまうことが多い。そのため、本来は重篤な患者を対象とする小児向け救急医療施設にキャパシティ以上の患者が押し寄せる結果となり、本来は率先して診察を受けるべき重症の子供の診療が後回しになることや、多くの患者を診察しなければならない小児科医に過剰な負担がかかるといった問題が現実に起きている。

 「起業を決意したのは大学院時代。医学部を卒業後、2つの医療機関で働き、その後、大学院に戻って勉強し直した。そこで医学部以外の授業に出席し、知り合った同級生が起ち上げたネットメディアにライターとして参加する体験を通して、ITのもつリーチ力の高さを実感した経験があった。一方で小児医療の現場に関わって思ってのは、生活様式の変化に対応できていない点。自分は診療室で待っているだけでいいのか? スマートフォンを患者との接点として活用することで、自分が本当にやりたい医療ができるのではないかと考えた」(橋本氏)

 実際に小児科医として救急病院に勤務していると、「鼻水が出ています」、「蚊に刺されたところがいつもより腫れている気がします」といった必ずしも緊急を要するわけではないケースも多い。しかし橋本氏は、「子供を連れて病院に駆け込む親御さんは心配しているから、救急病院にやってくる。本当に救急なのか、そうでないのかはそもそもわからない。現状では救急病院に駆け込むのも無理もない」と指摘する。

 こうした状況を変えるために、迷い悩む親にとっての相談窓口となる『小児科オンライン』の立ち上げを橋本氏は目指した。

「かつてお母さん達の助けになればと書籍を書いたが
現代ではそれをスマートフォンでやろうとしている」

過去の相談例も掲載されている

 本サイトがリリースされたのは2016年5月30日。スタート時点では橋本氏1人だったが、サイトのコンセプトを話すと、橋本氏が小児科医として勤務していた国立成育医療研究センター時代の同級生10数人が賛同してくれた。

 「現在では24人の小児科医がサービスをサポートし、サービスを提供している。こうして協力してくれるメンバーがいるからこそ、小児科オンラインは成立している」(橋本氏)

 問い合わせに答える小児科医以外にも、mixiでエンジニアとしてアルバム作成サービス『ノハナ』を開発した経験を持つ田中和紀氏が協力してくれることになった。

 「ノハナは毎月1冊、家族写真アルバムを出すというサービス。田中氏が家族に関わる仕事をしたいと考えていたことから、小児科オンラインのコンセプトに賛同いただいた。コアメンバーは小児科医としての経験はあるものの、ビジネスはまったくわからず、田中氏が協力してくれるようになったことは大きかった」

 協力している小児科医のバックグラウンドはさまざまだ。本業として医者の仕事をしながら副業として小児科オンラインに関わっているメンバーもいれば、現在は育休中の女性医師も関わっている。

 「小児科は女性医師の割合が多い分野だが、産休に入ったまま復職できないケースが少なくない。小児科オンラインは自宅にいながら仕事をすることができるので、産休中、産休後に復職できていない医師が働いてもらう場になればとも考えている」

 ただし、現役医師が関わっているといっても、現状の法律では「相談に答える」ことは可能だが、診断につながる断定を行ってはいけない。様子を訊いて、すぐに医者にかかるべきかの緊急性の有無、緊急でない場合は家庭ですべき対応のアドバイスを行う。

 「緊急性の有無の判断は確かに重要。ただ、一番の狙いは、親御さんの不安に寄り添うこと。このサービスを利用してもらうことで、親の負担を軽減することが大切だと思っている」と橋本氏は話す。

 ここには小児科ならではの特殊性がある。「小児科は患者本人が病状を訴えるのではなく、親が患者である子供を連れて病院を訪れる。つまり、患者と医師の間に同伴者のフィルターが介在することになる。親御さんの負担を減らすアドバイスはとても重要」

 このような小児科オンラインのコンセプトについては、先輩小児科医の先生方も賛同してくれた。

 「小児科医の先輩方に、こういうサービスを開始しますとご紹介する機会があり、そのとき話したのは、『これは育児支援を目指したものです』という点。先輩方からは、『自分たちは若手の時代に、お母さん達の助けになればと書籍を書いた。現代の君たちは、それをスマートフォンでやろうとしているんだな』と言ってくださった。これはまったくその通りで、小児科に病気になった子供を連れてくる親御さんは、『自分のせいで子供が病気になってしまった』と自分を責める。親が楽しく育児ができない状況が、子供の健康に影響を及ぼすこともある。親御さんが安心して子育てをしてもらえるような相談窓口として、小児科の役割は大きい」

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