「BALMUDA The Gohan(バルミューダ ザ・ゴハン)」
2月下旬出荷予定 直販価格4万4820円
バルミューダ
https://www.balmuda.com/jp/gohan/
ねちねちではなく、むちむち。
バルミューダの『BALMUDA The Gohan』で炊いたごはんはむちむちした食感になる。うちの炊飯器はごはんを口に入れた瞬間に甘みがわかるけど、バルミューダはごはんを一口噛んではじめて甘みが果汁のようにしみだしてくる。人なつこいごはんの味、この正体は何なのか。
正体を探ろうにも、食の知識がパッパラパーでどこから手をつけたらいいのかわからない。そこへバルミューダの半澤さんからお誘いが来たのは1月初旬。「BALMUDA The Gohanと土鍋と羽釜の炊き比べをするのですが、ご興味ありますか?」と連絡がきた。知りたかったことをドンピシャでついてきた。心を見透かされたようで緊張し、「あっいっはい行きます」とどもりながら返事をした。
ごま塩ごはんのポテンシャルはやばい
招かれたのは代々木上原のとあるマンションだ。打ちっぱなしのキッチンに所狭しと料理道具が並ぶ、and recipeのワークスペースだった。and recipeは料理家の山田英季さんと、マネージャー小池花恵さんが中心のごはんユニット。昨年3月、毎月25日更新のWEBマガジン「and recipe」を創刊。バルミューダキッチンチームの一員として「BALMUDA The Toaster」向けのレシピを作るなどしているそうだ。ごはん好きなのだ。
部屋に入って、すぐ目に入ったのは羽釜。いわゆる「おかま」だ。
アルミ製の羽釜で、ずっしり重いのかと思っていたら片手でひょいともちあがるのでおどろいた。山田さんは羽釜を置いたガスコンロの火を弱めながら、となりのコンロにセットした土鍋の火加減も見ていた。様子を見ているだけでつばが出る。わたしもたまに鋳物ホーロー鍋を使って炊飯することはあるけど、調理はガスコンロの炊飯ボタンにまかせきりだ。初めチョロチョロ中パッパはできない。わたしも炊ける男になりたいと思った。土鍋としゃもじが似合う男になりたい。
山田さんはわたしの願望を知ることもなく、おかずの準備を進めながら、羽釜、土鍋、そしてBALMUDA The Gohanで手際よくごはんを炊きあげていく。
BALMUDA The Gohanはお米の浸水時間が必要になるため、一番最後の炊きあがりとなった。羽釜は4合、土鍋は2合、BALMUDA The Gohanも2合を炊いた。この羽釜は本当なら一升まで炊ける。でも米の比重でつぶれてしまうため「6~8合がベスト」だと山田さんは言う。むかしは大家族だったんだな。一斉にふたをあけると、どのごはんもきれいに粒が立ち、つやつやと輝いていた。
飯椀によそい、プレーンな状態で食べ比べてみた。
結論としては、BALMUDA The Gohanは羽釜で炊いたごはんにきわめて近かった。
バルミューダ寺尾玄社長は開発時に「土鍋ごはんの味を超える」という目標を課したけど、土鍋というよりはアルミ製羽釜を使ってガスコンロで炊いたごはんに肩を並べる、という印象だ。
羽釜で炊いたごはんはふっくらしていてハリが強い。土鍋で炊いたごはんにはちょっと焦げたような香ばしいにおいがある。いわゆる“土鍋ごはん”の味になる。BALMUDA The Gohanも羽釜と同じようにハリが強く、噛みしめたときにはじめて甘みと香りが広がる。そのため、手巻き寿司のように食材の旨みを引き出したい料理によく合う。日本酒で言えば吟醸香のついた華やかな主役ではなく、肴のうまさを引き立てる辛口の脇役という感じだ。
山田さんにつくっていただいたおかずも箸が進んで大変になった。食べた順に挙げていくと、豆腐とねぎのお味噌汁、お揚げをやわらかく炊いてゆずを散らしたもの、ぷるぷるのだし巻き玉子、明太子のごま油がけ(「アメトーーク」明太子芸人で紹介されたらしくめちゃめちゃうまい)、牛肉のしぐれ煮、しゃけの塩焼き、海苔、お漬け物。結局3回もおかわりをしてしまった。
自分では作れそうにない手間のかかったおかずをご用意いただいた中、一番感動したのはごま塩だった。ごま塩のポテンシャルはやばい。特別なものではぜんぜんなく、スーパーなどで普通に売っているエスビー食品の黒ごま塩をぱらぱら散らした白飯なのに、ありえないほどめしがうまい。めしが甘い。うまみがしみ出す。白飯を超えた“スーパー白飯”になる。ごま塩は神だ。ごま塩を今までお赤飯にしか使ってこなかったのが悲しい。ごま塩にはもっと主張してほしい。
糖質のとりすぎでおかしくなってきた。落ち着いて検証したい。なぜBALMUDA The Gohanと羽釜のごはんを似ていると感じたのか。結論から言うと、それはバルミューダが「おこわ」と「ごはん」の中間のような調理方法をとっているからだと思う。
バルミューダは「おこわ」と「ごはん」の中間
羽釜・かまど炊きの原理にこだわってきたのは、今までの炊飯器も同じだ。
最近の高級炊飯器は内釜が羽釜の形になっているものが多い。IHヒーターで熱した空気をUFOのような鍔(つば)でせきとめ、「空気の断熱層」を作り、かまどによる熱の対流を再現するというものだ。メーカーによって内釜の形を変えたり、素材を鉄・炭・銅などに変えたり、加熱・加圧方式を変えたり工夫をして、それぞれに羽釜かまど炊きごはんの味を追求している。
一方、BALMUDA The Gohanは「空気の断熱層」ではなく「蒸気の断熱層」を使う。外釜に入れた水をあたため、熱い蒸気を発生させ、内釜を加熱して米を炊く。バルミューダによれば「蒸気の断熱性は分厚い金属釜と比較しても数倍から数十倍」。前述の高級炊飯器と比べるなら「熱した空気と比較して」という話になるけど、とにかく蒸気の断熱性を活かすのがバルミューダ方式だ。
蒸気が熱源になるため、内釜底部が100℃を超えることはない。高気圧状態を作りだして内釜内部を100℃以上にするような機構もない。釜内にかける圧力を調整して対流を発生させ、お米をおどらせる「おどり炊き」とは真逆の発想だ。
同時にBALMUDA The Gohanは内釜に熱い蒸気を充満させて米を蒸し、蒸し炊きにしている。バルミューダは「蒸気炊き」と呼んでいる。BALMUDA The Gohanは一般的な圧力IH炊飯器に比べ、100℃近くまで加熱して炊きあげる時間が半分ほどしかない。代わりに米を浸水させて40~50℃で蒸しあげる時間を長くとっている。バルミューダならではの煮炊き法だ。
羽釜風味の決め手になっているのは恐らくこの蒸気炊きだ。
バルミューダによれば、40~50℃はでんぷんを糖に変えて甘みを引き出す酵素・アミラーゼがもっとも活発に働く温度。この温度帯をゆっくり経ることで、ごはんの旨味を引き出しているという。米の糊化は60℃からはじまり、60~80℃がもっとも進む温度帯。開発担当者によれば、「一度糊化が始まってしまうと表面のでんぷん質がおねば状になり、内部への熱が伝わりにくくなってしまう」。そのため60℃に達する前にじっくりと旨味を引き出すことが肝要と考えたそうだ。
その特性上、BALMUDA The Gohanは一般の炊飯器とちがい、最後の“焼締め工程”を省略している。バルミューダ半澤さんいわく、コメをひたすら弱火で仕上げる煮物のような調理法をとることで、米の表面を傷つけることなく旨みを中に閉じ込めるような煮方ができている。
江戸時代まで、蒸した米は強飯(こわめし)、炊いた米は弱飯(ひめ)と言われていた。バルミューダはこわめしとひめを合わせた中間のような調理法だ。
炊飯というのは、米に水を加えて加熱することで生でんぷん(βでんぷん)を糊化でんぷん(αでんぷん)に変える調理手法。でんぷんの糊化には重量の30%の水と熱が必要になる。そのため炊飯時は米を浸水させて水を吸わせ、加熱中に米粒に水分を送りこむため「煮る」という方式がとられている。炊飯器は、米の煮方を工夫することでいかに羽釜かまど炊きの味に近づけるかを競ってきた。
けれど、そもそも熱源の性質を比べると直火>ガス>電力の順で火力は落ちる。直火と同じ方法で似たような結果を出そうとしても限界がある。そこでバルミューダは蒸し米の原理を使い、今までと違う形で自分たちの正解を出したわけだ。
この味にはバルミューダの覚悟がある
BALMUDA The Toasterのときからなんとなく感じていたけれど、バルミューダの強みは「自分たちはこれがいいと思ってやっている」という独自のものさしにある。メーカーの強みは、自社独自の研究・解析・加工技術による設計・開発だ。しかし慣習や流通先や市場調査といった他人のものさしに頼ると結局は似たようなところに落ち着き、細かな差で比べられてしまうことになる。
前に取材をしたとあるメーカーは、BALMUDA The Toasterを指して「水で焼くのは邪道ですよ」と笑っていた。BALMUDA The Gohanにしても、炊飯方法としては邪道と考える人がいるかもしれない。でも、バルミューダの目標が「究極の炊飯」でなく「おいしい食事」にあると考えればとても自然な考えだ。それはBALMUDA The Toasterにしても同じことが言えると思う。
やり方が王道ではない以上、万人受けするものにはならない。
実際、BALMUDA The Gohanで炊けるごはんは好き嫌いが分かれる味だ。口に入れたときは旨さがわかりづらいし、一般的な炊飯器で炊いたごはんの方が甘くて美味しいと言うライターさんもいた。でも、バルミューダはきっとそれでいいのだ。自分たちはこれでいいと信じている。その考えに乗ってくれた人たちに選んでもらえたらそれでいいと考えているのだろう、たぶん。
人なつこい味の後ろにあるのは、こうしたある種の覚悟じゃないだろうか。それを良しと考えるか無しと考えるかでこちらの意志を試されている気もする。……そんな難しい話じゃないか。最後にあらためて炊きたてのごま塩ごはんはめちゃくちゃうまいので今夜ぜひお試しを。
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、家事が趣味のカジメン。今年パパに進化する予定です。Facebookでおたより募集中。
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