バルミューダが初めて挑戦した炊飯器。3合炊きの小さなサイズで、1~2人暮らしもしくは小さな子供のいる家族向け。予価4万4820円は3合炊きにしては高級だが、市場を賑わす10万円以上の高級炊飯器とはちがう。同社のヒット作として知られる高級トースター「BALMUDA The Toaster」と同じく、機能を最低限におさえ、バルミューダならではの“味”にこだわった。
3合炊き二重釜式炊飯器
「BALMUDA The Gohan(バルミューダ ザ ゴハン)」
2月下旬発売 直販価格4万4820円
バルミューダ
https://www.balmuda.com/jp/gohan/
「蒸気」で釜をあたためる
しっかり立ったお米の粒がむっちり口に入ってくる。噛みしめると米の甘みがじわーんと広がる。いつかどこかで食べた味、これは吉祥寺のタイ料理店クゥーチャイで食べたタイの蒸し米カオニャオだ。むちむちしていながら適度に硬く、さらっとしてグリーンカレーのようなスープによく合う食感。外側はさらっとしていて、内側に甘みがとじこめられていて、口に入れたときにほろっとほぐれる。
アジアっぽくて不思議と懐かしい味。トーストと違って好き嫌いが分かれるかもしれないけど、わたしが好きなタイプのごはんだ。冷や飯のおにぎりもおいしく、お弁当にも合いそうだ。ぱらっとしているのでチャーハンにも合うかもしれない。全体に主張しすぎず、おかずを引きたてるごはんという印象だった。
むちむちごはんが炊ける理由は二重の釜。200ccの水を入れた外釜が蒸気を出し、内釜に入れたお米と水を蒸しながら炊いている。
独特のむっちり感は内釜を蒸すところからくるものだ。湯煎しているような仕組みなので、内釜の温度は100℃を超えず、おこげはつかない。ぐらぐら沸騰したお湯でお米をおどらせ、ねっとりした甘みを引き出す炊飯器とは逆の発想だ。構造上、0.5合炊きなど少量でもおいしく炊けるという。釜の素材はステンレス製で軽く、お米を入れるときも扱いやすい(最近の高級炊飯器は釜の素材や厚みにこだわっているため、釜そのものが2kg近くあり、もちあげるのが大変だったりする)。
二重釜方式自体は新しいものではなく、むしろ炊飯器のはじまりだ。
古くは「三重釜間接炊き」、東芝が1955年に完成させた電気炊飯器「自動炊飯器」の機能だった。東芝は水分の蒸発速度をタイマーに応用したものだけれど、二重釜の構造はおなじだ(東芝未来科学館「日本初の自動式電気釜」参照)。構造上、保温機能をもたず、昔ながらの羽釜と同じように炊きあげたごはんをおひつに移す必要がある。バルミューダの炊飯器もやはり保温機能はもっていない。炊飯モードも、白米・白米急速・玄米・炊き込み・おかゆの5種類だけとシンプルだ。
それとわかると「なるほど原点回帰かね」と早合点してしまいそうになるけど、はじめバルミューダは二重釜方式を採用するつもりはなかったらしい。
開発は液体窒素の冷凍ごはんから始まった
「パンがおいしくできたんだから、ごはんもおいしくなってほしいよね」という話が出たのは2015年5月。バルミューダ寺尾玄社長が土鍋でごはんを炊いていたことから「土鍋よりおいしいごはんを炊く」という目標ができた。
開発者はごはんのおいしい料理店に行き、羽釜で炊いたごはんのおいしさから研究をスタート。「おいしいごはんは米がうまいのでは?」という仮説を立て、「液体窒素を使っておいしい冷凍ごはんと、おいしく解凍できる電子レンジをつくる」という斜め上の開発をしばらくつづけた。しかし冷凍ごはんはさすがに遠回りすぎるんじゃないかという話になり、方向性をあらため、炊飯器の開発に移ることに。ガスより火力の少ない電力でおいしいごはんを作るにはどうすればいいか。試行錯誤の末、2016年10月に蒸気炊飯器の原理試作ができあがり、そこから現在の形までブラッシュアップをつづけてきた。
そこで当の二重釜方式を採用することになったのだけれど、じつは開発者もむかしの炊飯器と同じ構造ということは途中まで気づいておらず、ゼロから炊飯器を作っていく上で「二重釜方式って新しいな」と素朴に思っていたそうだ。
「食感を出したかったんですよ。普通の炊き方では普通のごはんになっちゃうな、ということでゼロから見なおして、いろんな炊き方を試してみたんです。どういう炊飯方法というか、調理方法があるのかなと。焼く、煮る、蒸す、電子レンジであたためる、とかを端からやってみた。やっていく中で、蒸気であたためたとき、米の形とか食感にすごく可能性を感じたんです。蒸気である程度おいしいお米が炊けることになり、どうやって製品化しようと考えたとき、蒸気で包めばいいというので二重釜構造を考えた。そこまで『二重釜って新しいな~』と思っていたんですけど、パッと見たら東芝さんの初代のものがあって。アジア、中国とかに行くと当時の形のものがいまだにあったりして、『なんだ、あるんだ』と気づいたのが1年前くらいでした。実際こうした方式は特許がどうだろうと調べていると東芝さんのものに行きつくので、それを知っていて挑戦したというのではなく、あとあと調べていったらそれに気づいた形ですね」(開発者)
とはいえタイマー代わりというわけではなく、口に入れた途端にほろっとほぐれる食感を出すためにスチームを出すというのがバルミューダ独自の発想だ。似たように見えて、じつはまったくちがっている。懐かしいけど新しい、BALMUDA The Gohanは、味も形もそんな雰囲気がある。
これは懐かしくて新しい炊飯器
実は、炊飯器を見せてもらうまではかなり不安だったのだ。今までバルミューダが出してきたのは扇風機やトースターなど高級品が少ない製品分野だったけど、炊飯器はオーブンレンジと並ぶキッチンの主役で、高級品は山ほどある。最近は10万円を超えるモデルだけでコーナーが作られているほどだ。その中にバルミューダが入ってきても、埋もれてしまうんじゃないかと感じていた。
けれど、いざ炊飯器を見せてもらうと、それは杞憂だったと気づかされた。「ちょうどこれくらいのものがほしい」と思っている炊飯器が出てきたからだ。
33歳、夫婦共働き、晩婚ということもあって、子供は今年ようやく生まれる予定。家族の人数が少ないので3合以上を炊くことはめったにない。余ったごはんはタッパーに入れるか、ジップロックに入れて冷凍している。保温機能は低温調理のためにしか使っていない。おいしいごはんを炊くことには興味がある。ちょっと面倒ではあるけど、ごはん専用土鍋なんてどうかなあと考えている。そんな暮らしをしていてこういう製品を出されると、「オオッ!」と感動してしまう。
いま日本の生活は少子化・高齢化とともにどんどん小さくなり、昔の水準に近づいているように見える。サラリーマンの平均年収は2014年時点で415万円、わたしが生まれた1983年とほとんど変わらない。「持たない生活」や「ていねいな暮らし」がもてはやされるのも、暮らしが大量消費時代の前に戻ろうとしているからじゃないかと思う。いい炊飯器は5.5合炊きが主流となり、保温機能が当然のようについていて、ブランド米の炊き分け機能などもついている。たしかにすごいなあとは思いつつ、いまの暮らしで使いこなせるんだろうかと疑問を感じてしまうところがあった。すごさと欲しさはまた別のところにある。
寺尾社長によれば、バルミューダの製品開発に技術のすごさはまったく必要としていない。暮らしや生活スタイルをねらいとするターゲティングもたいして信用していない。代わりに基準としているのが「うれしさ」だという。暮らしに製品が入ってきたときに感じる「うれしさ」を目標として開発している。なんだかこの人は糸井重里さんのキャッチコピーみたいなことを言うなあと思ったけど、それはようするに寺尾社長の「うれしさ」、寺尾社長の感性がストレートに製品にあらわれているということだ。わがままといえばそれまでだけど、その感性が時代に合っていると考えると、すごいことだなと素直に感心する。
ちなみに寺尾社長に「炊飯器のご先祖様と同じ方式というのは象徴的で面白いですよね」と伝えると、「エッそうなの? なんだ、まったく新しいって言っちゃった」と本気で知らなかったようで驚いていた。こういう姿勢がバルミューダらしさなのかもしれない。それはともかくこの炊飯器は欲しかったです。
●SPEC
BALMUDA The Gohan
消費電力 670W
炊飯容量 0.5~3合
炊飯モード 白米(0.5~3合)、白米早炊(0.5~3合)、玄米(0.5~2合)、炊込(0.5~2合)、おかゆ(0.5~1合)
炊飯時間 白米(53~68分)、白米早炊(32~39分)、玄米(75~104分)、炊込(53~68分)、おかゆ(51~67分)
保温機能 なし
タイマー あり 時計式 前回の設定を記憶
サイズ 幅275×奥行き251×高さ194mm、重量約4.0kg
コード長 約1.2m
カラー
ブラック(型番:K03A-BK/ JAN:4560330117961)
ホワイト(型番:K03A-WH/ JAN:4560330117978)
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、家事が趣味のカジメン。今年パパに進化する予定です。Facebookでおたより募集中。
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