「Spire(スパイアー)」は、身につけるとiPhoneアプリに呼吸の深さを記録できる小石のような形のデバイス。呼吸から心理状況(緊張・平穏・集中)を推定し、ストレス状態が続いたときなどには振動して注意を促す。スタンフォード大学の研究から生まれた製品で、アップルストアなどで販売中だ。歩数や消費カロリーなども分かるので、一風変わったアクティビティトラッカーとしても楽しめる。
呼吸トラッキングデバイス
「Spire SP-1(スパイアー)」
実売価格1万3392円 発売中
https://spire.io/
呼吸でストレスを可視化できる
iPhoneは常時オンだ。オフがない。仕事の連絡は昼夜を問わず届くし、添付ファイルだって開けてしまう。開けなければ「手元にパソコンがなくて」で済んだのに。iPhoneの電源を切るかフライトモードにでもしない限り、ストレスと縁の切れない暮らしになった。それでもiPhoneを捨てるわけにはいかない。
それならストレスで乱れた呼吸を整えることでメンタルをコントロールしようというのがSpireの発想だ。
Spireはズボンやブラジャーなどにクリップでとめて使う。息をするとき、Spireの中にある圧力センサーにかかる力の変化から呼吸の深さを取得する仕組みだ。なるべく胸やお腹の動きがわかりやすいよう、肌に近いところにつける。
本体はすべすべした樹脂製素材で肌に触れるとなめらかだ。小石のようなデザインは日本庭園をイメージしたものらしい。ケーブルをつなぐ端子のような穴がどこにもないため、誤って洗濯機に入れてしまっても問題ないという(怖いけど)。
電源はリチウムイオンバッテリー、1回の充電で7日間使える。充電台はコルクを使ったトレイのような形。ワイヤレス給電でのせるだけで充電できる。充電時は青い光がホタルのようにやわらかく明滅する。
使うときはまずiPhoneとBluetoothでペアリング、アプリに年齢・性別などを登録する。設定終了後すぐに呼吸のトラッキングが始まり、自分が1分間に何回息をしていて、いまどんな心理状況にあるかが見られるようになる。日本語がところどころあやしいのに笑わされるけど、デザインはシンプルで、操作もわかりやすい。
記録は時系列表示。緊張・平穏・集中状態になった時間がそれぞれ分単位でわかる。カレンダーや写真などのiPhoneアプリと連携すると、どこで何をしていたときどんな心境だったかということがわかっておもしろい。呼吸の記録に写真や予定が入ってくると「呼吸日記」のようだ。着席時間・移動時間もわかり、活動量計としても使える。ただし動いているときの心理状況はわからない。
どれだけ仕事がイヤか計測してみた
さっそくSpireを身につけて仕事をしてみた。「これで仕事がどれだけイヤかわかるな」と思っていたら、Spireがぶるぶる振動して止まらなくなり焦った。デフォルト設定では、緊張状態が2分間以上続くと通知が来るようになっていた。平穏時は静かな海を表示するアプリの画面が紅に染まっていた。怖い。
まさかそこまで仕事が嫌いだとは思わなかった。Spireを装着しているへその右側がずっと振動していて気持ち悪い。アプリが「深呼吸をしましょう」とアドバイスをするので腹式呼吸で深呼吸をした。しかし振動は止まらない。その日は家に帰っても奥さんと話していても緊張状態が続いていた。緊張状態は合計5.9時間に及び、平穏状態はなんと0分だった。へその右側は寝る前までずっと振動していた。
このままいったらわたしは緊張で死ぬんじゃないかと心配になった。しかし2日目からは平穏・集中・緊張がしっかり分類されるようになったので安心した。呼吸速度の平均値(BPM)が一定程度とれたため数値が安定してきたのだと思う。
2日目は午後から測定をはじめ、平穏68分間、集中17分間、緊張27分間。比較的平穏な1日になった。その日はウルトラマンがゲストに登場するニコニコ生放送の仕事があった日で、本番前はずっと緊張状態が続いていた。しかしいざ収録がはじまると平穏状態になっていた。そこから2時間ずっと平穏状態を保ちつづけていた。仕事は嫌だが、ウルトラマンは好き、ということらしい。
自分だけでは正しいかどうかわからないので、他の人にもつけてもらおうと20代の西牧くんに試してもらったところ、初日はずっと集中していた。すごいと思っていたらお昼ごはんを食べているときも集中していた。かと思えば「メタリカっぽいロゴを作れるジェネレーター」で自分の名前のロゴを作るときは緊張状態になっていた。よくわからない。メタリカが好きではなかったのだろうか。
1万3392円で生活を変えられてしまった
それからはなるべく忘れないようにSpireで呼吸の記録をつけている。
装着をつづけているとだんだん呼吸の記録も安定してきた。たとえば先のお正月休みは緊張状態の時間がゼロだったので感心した。仕事初めの日なんかはわかりやすく緊張状態が続いていて、やっぱり仕事が嫌いなんだなとあらためて自覚した。
あまりにも緊張しているので、たまに肩甲骨のストレッチをするようにした。仕事が始まってからは家でも緊張状態になることがあったので、思いきって帰宅後はiPhoneをフライトモードに設定してしまうことにもした。まだ心理状況に目立った変化は出ていないけど、なんと1万3392円で生活を変えられてしまった。
モノとして感心したのはSpire本体にボタンやディスプレーが1つもないことだ。ウェアラブルデバイスというのはようするに宝石の代わりにセンサーを埋め込んだアクセサリーだし、アクセサリーにボタンやディスプレーは必要ないと感じていたので、まっとうなデザインだと思った。
はじめは心理状況がわかるなんて本当かなあと疑っていたけれど、いざ続けてみると遊び半分でもそれらしい記録がとれていくので面白い。最近働きすぎてリラックスできてないなと思っている人に試してほしい。
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、家事が趣味のカジメン。来年パパに進化する予定です。Facebookでおたより募集中。
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