エプソンのスマートグラス「MOVERIO」(モベリオ)の最新モデル、「BT-300」が11月30日に発売される。大幅な小型軽量化を実現し、さらに「メガネ」に近いスタイルとなったBT-300。なぜ、エプソンがスマートグラスを作っているのか。そして最新製品は何が進化したのか。セイコーエプソン ビジュアルプロダクツ事業部 HMD事業推進部 部長で、MOVERIO事業を主導する津田敦也氏、同設計担当である髙木将行氏と鎌倉和也氏に話を聞いた。
世の中になくて、人が驚いてくれる製品を開発できないか
MOVERIOは、メガネのように装着すると、眼前に情報が浮かび上がるように表示されるスマートグラスだ。一時期話題になった「Google社製 Google Glass」と同様の製品だが、MOVERIOが登場した時期は古く、初代BT-100は2008年に企画が開始され、2011年に発売された。なぜ、エプソンがスマートグラスの開発に着手したのか。津田氏は、「液晶ディスプレイ事業の譲渡がきっかけだった」と話す。
エプソンは長く液晶ディスプレイの開発・製造を行なっていた。その事業を他社に譲渡することが決まり、直視型のディスプレイを開発・製造ができなくなった。エプソン自体には有機EL、高温ポリシリコン、半導体の技術が残ることになったものの、大型のディスプレイは製造できない。そこで、これら技術を活かし「世の中になくて、人が驚いてくれる製品を開発できないか」(津田氏)と検討が開始されたという。
そこで選ばれたのがメガネ型のスマートグラスだ。装着すると、メガネのように外界が見えるが、その一部にディスプレイの映像が表示され、空中に映像が浮かんでいるように見える。今の言葉でいえば、まさに「AR」(拡張現実)である。VR(仮想現実)ゴーグルとは異なり、外界がまったく見えないということはないため、映像を見ながら周囲の状況も確認できる点がメリットだ。
このスマートグラスに使われているのは、小さなディスプレイだ。映像を反射させてメガネに表示する仕組みで、プロンプターにも近い仕組み。そのために必要なのが小型のディスプレイで、ここにエプソンの技術を活用したというわけだ。
コンシューマ向けに開発、その後法人向け展開という「真逆の戦略」
初代「BT-100」は、「メガネ型」というには大ぶりのボディで、装着すると「黒い目線」のような見た目になった。津田氏は、「メガネの形にできなくて、思いきって大きくした」と笑う。企画段階では、「シースルーで外界が見える」という状況がなかなか理解されず、人気マンガに登場したアイテムの「スカウター」のようなもの、と説明していたそうだ。
企画の検討を開始した2008年当時、「ARという言葉はまったく浸透していなかった」(津田氏)。スマートフォン用として同時期に出てきたARアプリもヒントになったという。さらに、法人向けではなく当初からコンシューマ向けを想定して開発したのも「当時としては珍しかった」と津田氏は言う。新しいことにチャレンジする場合、法人向けで足場を固めていくのが主流の時代だったが、結局それがうまくいっていなかった、というのが津田氏の認識だ。まずはコンシューマ向けをやってから法人向けに展開するという「真逆の戦略をとった」(同)のだ。
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