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Qrio・Moff・BONX、クラウドファンディングや量産化の時どうだった?

「量産はぶっちゃけタフ」IoTハードウェアスタートアップに赤裸々話を聞いてみる

IoTのスタートアップは人を探すだけで
1年とか2年が過ぎてしまう

 開発の人材というのはどこも苦労しているようで、残りの二人も口をそろえる。高萩氏は、ハードウェアのデザイナーに頼むのに苦労したそう。西條氏はソニーの開発力を利用したが、「自分で人を集めているスタートアップはすごい!」と感心する。

 「IoTのスタートアップは人を探すだけで、1年とか2年が過ぎてしまうくらい、発見が困難なんです。Qrioがそこを自前でやろうとすると、たぶんスマートロックの開発は1年以上遅れたと思います。人をちゃんと集めてやっている会社ってすごいな、って思います」(西條氏)

 とは言え、外部の開発リソースを使う、という点で苦労もあったようだ。

 「Qrioサイドがハードウェアに無知すぎたので、とてもコミュニケーションのロスがありました。たとえば、『モーター回して鍵を開ければいいだけ』と思ってしまうと、なんでこれやるのに3ヶ月もかかるんだろう、と感じてしまうんです」(西條氏)

 モノ作りをしているメーカーにとっては当たり前のことだが、インターネット業界は短いサイクルでビジネスを進めるのが当たり前になっているので、より違和感があったそう。しかし、ハードウェアを出して不具合があればリコールになるし、怪我や事故があればさらに問題になる。そのモノ作りの時間軸や感覚をつかむのに半年以上かかったと言う。

 大量の量産は、資金の問題や工場選びなどハードルが高く、最後は根性、という意見もよく耳にする。量産に関して、どんなことがあったのだろうか。

 「基本的に量産は大変です。車を作るときも部品点数が多いのでいろいろあるし、間違えると人を殺しかねません。そういう意味では、大企業もスタートアップも変わらないなと思います。単純にスタートアップは人が足りないとか、経験がないということなので、それは違う方法で補えばいいんです」(高萩氏)

 「ハードウェアの量産は、数千万円後半くらいからかかってくるので、普通のインターネットビジネスと比べるとベンチャーには結構タフな事業だと思います」(西條氏)

 「量産がぶっちゃけタフだったなと。経験があるメンバーや工場を揃えて、万全だなと思ったんですが、相当不具合とか出て本当に苦労しました。Bluetoothヘッドセットでは経験も実績もある工場だったんですが、やっぱりBONXはファームウェアを始めものとして特殊なんです」(宮坂氏)

アメリカはチャンスは大きいが国土も広大すぎるのが問題

 3社とも海外にも展開、もしくは展開予定だ。中でも、アメリカの広大さに直面しているのが、高萩氏。

 「契約の規模感でいえば、アメリカは本当にでかいですね。とある小売りチェーンで大きい規模の受注の話をしていても、どこの地域のどこに配られるのかわかりません。つくづく思うんですけど、アメリカはチャンスもめちゃくちゃくれるし、市場の広さでも底が見えないくらい大きいのですが、国土がでかすぎる、という問題もありますね」(高萩氏)

 とかくハードウェアでの海外展開には課題が多いようだ。

 「Qrioも海外からも多数の問い合わせをいただいています。ただ、海外は鍵の形状が違うんです。サムターンの台座が大きくて取り付けのところを工夫しなければならないとか、ヨーロッパだと鍵を2回転させなければならないとか、そもそも手で思いっきり回さないと回らないとか。まずは、アメリカやアジアとかの鍵を調査することから始めています。正直売れるかどうかはわからないので、アメリカでやるときもクラウドファンディングを使うことになると思います」(西條氏)

 BONXも11月から日本と北米で同時にローンチする予定だ。

 「BONX Gripはアウトドアスポーツ全般、たとえばスノーボードだけじゃなくて、自転車とか釣りとかでも利用できます。その辺の事例作りを、スポーツならアンバサダーみたいな人に使ってもらったりというのをやっていきたいですね」(宮坂氏)

大ヒットが出て業界に人材とお金が流通するようになって欲しい

 最後に、今後のハードウェアスタートアップ業界にどうなって欲しいのか聞いたところ、そろえたように3社とも人材に関する内容の返答だった。

 「業界としては、高萩さんがはじめたときよりはそろってきていると思いますが、やっぱりハードウェア系のエンジニアを集めるのは相当大変なので、その方達がスタートアップの方にも来ていただけるといいなと思います」(宮坂氏)

 「センサーがなかったような現場にセンサーを入れるという業務だと、僕らだけで要件定義したり、お客さんに対応するのが難しい。一緒にやってくれる開発パートナーさんとか、代理店みたいなところがあったらいいなと思っています」(高萩氏)

 「大ヒットサービスがブレイクするとか、IPOで高い時価総額がつく企業ができたりして、大成功の事例が出てくると、人も流動化して、いい人材が集まってきますし、お金も動きます。IoTで出るとおもしろいことになると思うので、誰かが一発当ててほしいですね」(西條氏)

 Qrio、Moff、BONXのセッションは次から次への興味深いエピソードがあふれ出ておもしろかった。ぜひ3社とも大成功し、IoTハードウェアスタートアップの業界を盛り上げていただきたい。今後の動向も期待を込めて、目を離せないところだ。

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