週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

エブリイ×リレーションズ、変わる地方スーパー

食料生産者への「しわ寄せ」なくす IT産地直送で実現する未来の市場

2016年03月16日 07時00分更新

 生鮮品の産地とスーパーなどいわゆる消費地をつなぐ、新たなテクノロジーによる市場をベンチャーが関係者を巻き込み作ろうとしている。

 「日本の生鮮品流通は約6割がスーパーを経由して消費者へ届いていると言われている。その根幹が変わるとインパクトは大きい。たとえば外食などは一店舗で扱う生鮮の量は限られている。O2Oアプリで進めているのはあくまで実験の1つ。これから検証していかないといけない」と語るのは東京のスタートアップ企業・リレーションズ株式会社の長谷川博章代表取締役。

リレーションズの長谷川博章代表取締役

 2015年秋から始まったスタートアップと広島の地方スーパーが進めるO2Oアプリを中心とした展開は大きな成果を残し、次の段階が見えてきている。狙いは、スーパーと消費者に加えて、生産者も巻き込んだものだ。

 スーパー側とスタートアップ側、それぞれの視点からの状況とともに、考える将来像を聞いてみた。

コンテンツ化したスーパーの売り場

 最新のデータマーケティングを駆使したO2Oアプリでの施策開始から半年が経過して、地方スーパーのコンテンツ化が進んでいる。

■関連記事

 「入社2年目のベーカリー担当の女性スタッフが投稿する記事は、ほかと比べて2倍(のPV数)。彼女自身のコーナーが始まったことで、これまで店舗側からは言えなかった焼きたて・できたてのタイムリーな情報のアピールができている」と語るのは株式会社エブリイ販促企画室チーフマネージャーの奥村聖治氏。

 O2Oアプリ施策のトライアル店舗の1つだったエブリイ長楽寺店(広島県)は、本来郊外型が主流のエブリイにしては珍しいベッドタウン内での出店形態だ。新聞をとらない若い夫婦・一人暮らしが多い地域で、O2Oアプリ施策開始前からウェブチラシへのアクセスも多く、利用者からはスマホでアプリやチラシを見る方法がないか問い合わせもあった。

 「『特売だから来てほしい』ではなく、『いい魚が入った・焼きたて出来たてがある』という情報の鮮度は違う。ほかの記事PV数に比べて、倍近い(200PV)実績になっているのは確か」だと奥村氏は語る。長楽寺店の店長も、これまでのチラシ以上にO2Oアプリの効果を実感しているという。

エブリイ販促企画室チーフマネージャーの奥村聖治氏

 好調を見せているO2Oアプリ施策だが、最大の利点は、エブリイが目指す「企業価値の最大化」へと一歩踏み出せたことだと奥村氏は語る。

 「数字的な部分もあるが、店舗スタッフのアップする内容がとてもよかった。エブリイの31店舗でまったく同じような店はない。地域の消費者に合わせて各店舗で最適化を進めている。各店長主導でお気に入りの店にしていただけるように努力しているが、チラシだけではこのような個店情報は発信しきれていなかった」

 実際、エブリイは広島・福山・岡山の3エリアで億単位の広告費も投入しているが、新聞購読率が下がっている中、折り込みチラシの効果という点では今一度検証の必要性を感じていた。その一方で、SNSを活用した今風の利用者とのコミュニケーションも想定されたが、スーパーとして使いこなせるのかどうかという意見が経営陣にもあった。

 チラシの効果がこの先弱まっていくことを前提として、消費者とどのようにコミュニケーションを取っていくのか。重要なのは、店舗毎に店舗スタッフの力で独自性を発揮するように、告知の面でも独自の強みを発揮できる武器を手に入れることだった。

Facebookのような「いいね!」がほしい

 リレーションズ側の支援もあるが、とはいえコンテンツを継続して発信し続けるのは根気がいる。同様のオウンドメディア施策に苦労している企業は少なくない。ましてや不慣れなスーパーだ。そのため今回のトライアルでは、モチベーションを維持することに重点が置かれた。実際発信した記事の中には、情報発信として不必要な投稿もあったが、エブリイとリレーションズでガイドラインを作り上げ、日々調整を行っている。

 たとえば施策を続けるなか、現場からは、「モチベーションが維持できない」という声も出てきた。「Facebookのように『いいね!』が付くようなコミュニケーションはできないのか? やっていることへの反応が見えづらい」という声とともに、一時はアップされる記事も減っていったという。

 「若い女性はLINEなどで慣れているため3分くらいで投稿ができるが、そうでない人もいる。店長よりも、若者リーダーが活発に投稿した。楽しんでやってもらわないと、モチベーションは上がらない」(奥村氏)

 そのため、「いいね!」機能をはじめとした調整施策はすぐに検討された。ただし、O2Oアプリでの現在の記事露出は過去記事がストックされないフローコンテンツのため、瞬間での反応がないと「いいね!」機能を仕掛けることは難しい。「いいね!」の数を可視化することでモチベーションが下がる懸念もあった。

 だが、一定規模のアプリファンはしっかりと育っていた。エブリイだけの「いいね!(通称、『エブリイイね!』)」を実装したところ、記事に100をも超える反応が即座にある状況となっていた。

記事に実装された「エブリイイね!」

 さらに、店舗へのフィードバックとしておみくじ企画(通称、「エブリイみくじ」)での来店促進施策を実施した。アプリで引ける当たり付きのくじで、店舗での商品交換施策を行ったところ、想定以上の反響があった。

 「来店までのコンバージョン率でいえば、エブリイみくじを1104人が引いて、来店者数が348人(31.5%)という立派な数字。小さいことだがアプリからの来客が実感につながりはじめている」

 このようなトライアルの効果が見え始め、3月からは導入店舗を増やすことなり、まずはモチベーションの部分で実施を希望する店舗をつのった。実際、13店舗が新規で手を挙げ、合計で17店舗での実施となっている。

 「本部主導で無理やり導入して、うまく使いこなせていない店舗を指摘してしまうのはNG。店長によっては、この施策の様子を見ている段階でもあり、あくまで多数ある販促施策での1つの手段として使ってもらう。かつてシュフーやクックパッドの施策ではなかなか手が挙がりにくかったが、自社O2Oアプリへの注目度は高い。来店しないお客様へ届けられる武器に期待しているのではないか」

 リレーションズ側としても、O2Oアプリの成功は、店舗側、コンテンツをつくる側のモチベーションにかかっているという。クライアントに効果の実感がなければ、施策の意味はない。

エブリイみくじ

 さらに効果はこれだけではない。多方面に影響が見込める、1000PVを超えるスーパー発の人気コンテンツも現れ始めている。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります