築地市場移転を控える13兆円の水産市場に参入したベンチャー
「魚の電子化」だけでは勝てない 水産プラットホームを目指すフーディソンの課題
鮮魚小売店事業「sakana bacca」(サカナバッカ)、飲食店向け卸売り事業『魚ポチ』、産地PR事業、水産に特化したシステム事業を手がけ、”ITを活用した水産流通プラットフォームの再構築”を目指して、水産業界に正面から取り組んでいるのが株式会社フーディソンだ。
13兆円もの市場規模があるが、労働集約的であり効率化が進んでいない水産流通。そのような構造的に疲弊した業界を変えるべく、店舗・EC・BtoB卸など一式で、生産者・量販店/飲食店・消費者をつなぐ仕組み作りを目指している。
飲食店向けの卸事業は3500の顧客数を超え、この4月からは全国の水産会社向けに自社向けだったシステムをカスタマイズして入荷情報の開示から飲食店・量販店からの受注、請求書発行までを行う『魚ポチPLUS』の提供を開始する。創業から3年を経て、「魚の電子化」の波は自社だけでなく業界へ向けて着実に進んでいる。だが、各種事業群を拡大させて動くのみかという状況だが、ここにきて、新たな経営課題が見えているという。
「水産業のバリューチェーン上の問題として、業界での感覚として各プレイヤーの言っていることはそれぞれ正しい。それは漁価の向上であり、物流の向上であり、それぞれは効果があること。ただ、現在の範囲での人的リソースでは見合わない。業界内に入って蓄積してきた知見を改めて顧みると、現在ビジネス上での戦略を改めてつくるべきタイミングとなっている」と語るのはフーディソンの山本徹代表取締役CEO。
長い歴史を持つ日本の水産業。業界のデータは農林水産省が蓄積しており、上流から下流まで要素は出そろっているが、それらは統合されておらず、10年後、どのようなビジョンが必要かは見えていない。水産業界のプラットホーマーとして業界を変えるには、何が必要なのか。単純なIT化だけでは終わらない、戦略をともなった変革実施のために何か求められるのか、山本代表に現状を聞いた。
4時間の業務が最短5分まで短縮
2013年4月創業のフーディソンは今年が4期目。現状の社員数は50名で、パートも含めると総勢は100名と成長。中でも、同社によるわかりやすい鮮魚IT化実績の一例は、4月18日から正式リリースとなる「魚ポチPLUS」だ。フーディソン自身が鮮魚サプライヤーの1社であるため、効率化を進めるため自社で作った飲食店向けシステム(魚ポチ)で、3500店を超える飲食店での利用がある。
「魚ポチとサカナバッカ(小売店)で使っていた仕組みを外に当てはめるとこうなるのでは、という提供を始めた形。魚ポチPLUSは、卸、仲卸、さらには漁師にも提供できるものとなっている」
テストマーケティングとして、築地の仲卸で使ってもらっていたが、それまで4時間だった業務が30分から短いところで5分まで短縮できた実績があるという。手書きから始まり、集計、FAX送信、FAX集計、箱への入れ分け、納品伝票作成とあったものが、データ直つなぎで梱包にシール1つで済むようになる。
フーディソンが自社で試算した市場関係の人件費は4500億。その3分の1が受発注系の業務に投下されており、市場規模としてはここだけで1500億程度となる。
だが、このような省力化の導入によってプレイヤーが変わるわけではない。鮮魚を消費者に届けてくれるサプライヤーがつなげるべき情報は変わっておらず、空いた時間でより魚の売買をつなげるための、付加価値の高い情報を使ったサービス展開などができるはずだと山本代表は考える。「コスト削減の一方で、もっと売り上げを増やせるはずの部分、たとえば顧客サポートの時間をさくなどできる。少ない人数で対応できる受発注によって、これまで失っていた機会を取りに行ける」
レガシーな水産市場に参入を果たしたベンチャー
さらに昨年末、関連会社として設立したフーディソン大田は、築地と並ぶ国内の巨大市場である東京都中央卸売市場大田市場で水産物部の仲卸免許を持つ。1月からの実稼働以降、フーディソン大田が市場内で行うのは、物流センターと商品開発だ。
「大田と築地ではそれぞれで役割が異なっている。物流といっても幅広く、鮮魚で大きく分けると、まずは産地からの長距離物流、次に物流センターでの集荷・商品化、そして顧客に届けるラストワンマイル物流の3点。築地ではフーディソンは自社の場所を持たないため、物流センター機能は業者と提携したものだった。一方、大田では物流センターとして、自社でシステムも作り、すでにある市場機能をより便利にするべく動いている。最も重要な点となるラストワンマイルの物流試験も始めている」(山本代表)
魚ポチがシステムとして拡大したのと同様に、顧客接点となる重要なラストワンマイルを手がけることで、ほかの業者へのシステム提供でのさらなる効率化も目指している。そのまま他社に対して物流機能を提供できるセンターとしても、フーディソン大田の存在は大きいという。
「大田市場に参入できたことは非常に大きい。3年目にして初めて 、ようやくフーディソンは”水産業界内の人”になれたが、これがじつは一番難しいことだった」と山本代表。11月には築地から移転予定の豊洲市場の動きもある。ただ、実質的に流通を一時的に止められる移転期間はたった4日間のみで、完全な機能移転を果たせるのかという業界での懸念もある。その短い期間のうちに0を一気に100にしなければならず、大田を予備として考えている業者も多く、枠は余っているわけではなかった。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります