オープンイノベーションの大きな流れは、地方にもたらすことができるか。
2月27日、大企業と地方のスタートアップをつなげることを目的に全国で開催されている“STARTUP JAPAN TOUR IN EHIME”が愛媛県の松山市民会館にて開催された。さくらインターネットとサムライインキュベート主催によるイベントで、全国各地をまわって通算5回目となる。
各地方のベンチャー企業がプレゼンを行うスタートアップピッチでは5社が登壇。グランプリを獲得したのは、最先端のものづくりが学べるIT教室の展開を進めるテックプログレス。サムライ賞に輝いたのは、胎児心拍計をコアにした医療プラットホーム実現を進めるメロディインターナショナルだ。
デジタルに触れる子供たち、好きを学びに
グランプリに輝いたテックプログレスは、松山を本拠としたIT×ものづくりが学べる児童向けの教育事業を展開している。
「教室ではスクラッチで子供たちがプログラミングなどをしているが、最先端のSTEM教育というよりは習い事のひとつとして親御さんは見ている」と同社の武田知大代表は語る。
テックプログレスが提供する通学教室では、JavaScript、ロボット、3Dプリンターを活用したCADなどの指導コースがある。教材をベースとした自学自習がメインで、オリジナルのカリキュラムを6年分、提供しながらブラッシュアップしている。
2015年2月開講後、すでに累計500名の生徒をかかえており、その継続率は99%だと武田代表は自信を見せる。今後は、約500億円規模となる西日本での習い事市場を狙って、愛媛以外での新規教室開講へ動く予定だ。
武田代表によれば、プログラミング教育というアプローチではなく、「ゲーム大好き・Youtube大好きなお子さんの興味を生きる学びに変えませんか」という告知に変えたことで、当初来なかった生徒が一気に増えたという。
関東ではLITALICOによるQremo、Tech Kids CAMPなどが同様のアプローチを進めているが、IT教育×ものづくり需要は地方でも眠っていたようだ。テックプログレスは2016年1月にクラウドワークス・個人投資家を引受先とした第三者割当増資を実施しており、今後も関西地方を中心に地域の需要を掘り起こすという。
遠隔診療で出産の課題を解決
サムライ賞に輝いたメロディインターナショナルは香川県の企業。産婦人科医の急減や高齢出産の増加需要対応といった社会課題を解決するため、テクノロジーや遠隔診療での助産システム提供を目論む。
同社が目指すのは、妊婦と赤ちゃんの健康管理プログラムを用いた世界中の妊婦と医師のコミュニケーション・プラットフォーム構築だ。出産前の通院を自宅または近隣の助産院で管理するシステムの実証実験などを進めている。
特徴は、センサーデバイスサイズにまで小さくした赤ちゃんの位置発見が可能な胎児心拍計だ。従来は部屋に1台置くような機械だったものが、手のひらサイズまで小さくなったという。「データセンターを中心にモバイル検診を行う。かつては分娩監視装置も大型だったが、今なら家庭から心拍が確認できる」と語るのは、同社の二ノ宮敬治CIO。
将来的には胎児心拍計をコアにした、アジアも含めてのパーソナルヘルスレコードのプラットホーム形成を狙う。現在は開発資金調達とパートナー募集の段階で、本格的なデバイス普及などはこの先の予定だ。
地方でいかにスタートアップは育つのか
スタートアップピッチの前に開かれたパネルディスカッションで語られたのは、愛媛、中四国での起業周辺での課題だ。特に話題となったのは、地方とそれ以外でのマインドの違いだった。
昨今、地方でも起業環境が以前よりよくなっており、融資や業務支援などは受けやすくなっている。ただし、環境やいごごちのよさがマイナスになって、小さく収まってしまう感じが見受けられるのではと登壇者から声が上がった。
地元愛媛出身で企業支援なども行っている医療系システムコンサルのファインデックス相原輝夫代表は、「投資の観点で、違いを感じる。特に都市部と地方の若者で差の変化がある。(かつて起業した)自分の場合は、地元を元気にというものはなく、とにかく会社を大きくしないといけない、食っていかないといけないという思いがあった。『地方を元気に』といったキーワードは昔はなかったもの」だと変化を語った。
スタートアップという短期間での急成長を現すような言葉も、地方では”まだ最近のもの”という扱いのようだ。やりやすい環境でのこじんまりとした成果が、いいか悪いかは微妙な境界線上にある。それでも、全国での起業家のレベル底上げには、東京と地方でのバランスの違いは理解したうえで、地方に閉じず海外・東京など飛び回るような観点が必要なのではと意見が交わされた。
「かつてのように銀行にお金を借りて大変な思いをするのではない、企業運営とお金の部分が切り離されている変化は感じる。シリコンバレーのような、会社を切り売りしていくことで伸ばしていく、そういう動きは地方でもできはじめている。こじんまりとした現状は打破してほしい。投資家が出資するのは、成功の可能性があるから。1億円を出したら、10億円で返ってくるかもしれない、その部分を言えるような大きな規模での戦略・プランの練り込みがほしい」(相原氏)
また、スタートアップが地方で育ち、大きくなった例として、大手監査法人出身の会計士である北田隆氏はサイボウズを挙げる。
「サイボウズは愛媛から出て大阪、最終的には東京へ行った。そのような上場企業は簡単に育てられるわけではない。地方にとどまれという考えではなく、目指す事業でステージは変えればいい。サイボウズも含めて、そのような企業はみな日本・世界を見ていた。5億10億で安定するのも野望のひとつ。ただ、愛媛を捨てて東京や世界に向かう稀有な異端児が出てほしい」と北田氏は語った。
モデレーターを務めたサムライインキュベート玉木諒氏は、地域の起業家を応援する流れについて、「重要なのはせきとめない流動性。オープンにしているところはうまくいっているようにみえる。地域でいえば福岡が盛り上がっているのは、自治体がつくった好例」だと受けた。
中四国関連の支援の動きでは、3年前から始まった日本トリムが寄付金を援助している高知でのビジネスプランを募集する支援基金事業(原則返還不要で最大1000万円の支援がある)がある。第2回目で認定事業者となったexMedioなど、高知県出身の人材がスタンフォード大学などを経て地元でビジネスプラン応募をするような面白い動きも出始めている。地方には当然デメリットはあるが、それでもその地域に関連したチャンスを生かして伸びていくスタートアップの増加に期待したい。
次回の“STARTUP JAPAN TOUR IN 北海道”は、2016年3月12日に札幌コンファレンスホールにて行なわれる。
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STARTUP JAPAN TOUR
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