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「売上を1.6倍にした人工知能」リアル店舗をウェブ化するABEJA

2016年01月29日 07時00分更新

現場の感覚値を覆す3割のデータとは

 ABEJAのインストアアナリティクスの反響は実際どれだけなのか。具体例として岡田代表が挙げたのは広めのアパレルショップだ。

 店内のあるエリアにまったく来客がないのではという経営陣の仮説があったが、現場スタッフはかたくなに否定していた。だが実際にカメラを付けて定点観測を行ったところ、まったく客がいなかったことがわかった。

 「お店の現場の方、また経営陣の方と話をすると、7割は企業ごとにもっている仮説の通りだが、3割はまったく間違った結果が出る。3割くらいだと、感覚値で方針が決まってしまいがち。その3割の感覚値が正しくなかった場合、そのままデータとして出てくるので驚かれる。社内で伝わらなかった部分が、証拠が示せることで改善につながりよかったという声をいただいている」

 現状はアパレル企業がメインだが、10月にサービスのランディングページをオープンして以来、新規の問い合わせも多い。地方のホームセンターから書店まで、さまざまな業種から話が舞い込んでいる。

 「現在の成長レートは毎月百数十パーセント以上。採用もPRも力を入れている。今後、ハードウェアも関わってくるので、ロジスティクスの部分でボトルネックにならないように設置などをより簡素化できるように連携を進めている」

人工知能や分析技術ではなく、
“いかに簡単に導入させるのか”が重要

 計測結果について、分析・改善を行って実際の接客に反映できる継続していくことで、結果について新たなオーダーも出てくる。「たとえばインバウンドでの需要に応えるため、外国人の比率を調べられないかなど。日本人か中国人か欧米人かわかるだけで、店舗側の言語対応が変えられる」

 このほか、ウェブで行っているような解析と同様の需要では、リアル店舗でのリピーター認証の希望も多い。だが、ここについては個人情報保護やプライバシー保護の観点があるため、個人を識別するレベルの顔認証は行っていないという。「カスタマー側が何も確認してない、オプトインなしで認証されてしまうのは、企業倫理に反する。(ベンチャーなので)売上や利益を追求する必要はあるが、一方でモラルも重視すべきだと考えている」

 そもそも2012年の創業当時、リアル店舗をテクノロジーで活性化させるようなO2O(Online to Offline)、オムニチャネルといった言葉はまったく流行っていなかったと岡田代表。画像認証・人工知能を使って分析しマーケティングに活用する試みは、今だからこそ認められているが、そのようなリアルな販売現場での活用は危ない見られ方をする懸念が強かった。

 「我々としては、顔認証は絶対にしない。クラウドにたまったデータはすべて適切に破棄している」

 また、顔以外で仮に詳細なデータを取ったとしても、現状ではまだまだ生かせないという。「広告代理店からはもっと詳細にデータを取りたいといわれるが、それにあった費用も乗ってくるというもの。そもそもデータを回収しても、それで本当に分析できるんですかと。大型ショッピングセンターでのフルトラッキングの場合、1人あたりで万単位のデータが発生する。数テラバイトのデータをお渡しても結局分析ができない」

 ABEJAでは、カメラを使って確認できるものは3つに絞ってある。1つは年齢・性別推定のための顔を撮影するもの。2つにカウンティングとして、人数だけ取りたい場合は天井側から撮影して頭だけを映すもの。3つにヒートマップでのビジュアル分析ができるように体の動き全体、人間の行動をとらえるものがある。リアル店舗での使用にはこれで申し分ないという。

 現在はネットワーク機器に強いプラネックスコミュニケーションズとも戦略的業務提携を結んでおり、カメラも一緒に開発している。「店舗に送って付けるだけ。すぐにレンズからの映像を確認したら、あとは無線LANルーターのボタンを押すのみ。コネクションしたら何もする必要がないようにしているが、ここにくるまで相当苦労した」

 創業当初は、岡田代表が直接店舗に行ってカメラの取り付けから設定までを行っていた。「3年くらい前で社員も3名だけの時代。カメラを確認して、ルーターの設定をしてというのを個別の店舗で行っていた。当時は営業と平行して仮説検証の繰り返し。どのカメラがデータを取るのに最適かわからなかった。IPカメラで毎回設置したら死ぬんじゃないかなというくらい(笑)」

 ビジネスとしてのネックは、人工知能や分析技術ではなく、“いかに簡単に導入させるのか”という部分だった。カメラ1個だけでも設置が難しいとなると、店舗側はもういいとなってしまう。「商用でここまで人工知能を発展できている企業はほかにないと自負している。人工知能の草創期は、ある程度人工知能を理解した人しか営業できない」

 ハードウェアについては外部と提携をしているが、ソフトウェアはほぼ自社製だ。社内のエンジニアチームも人工知能関連分野に特化している。データの処理の面では、資本・業務提携を結んでいるさくらインターネットと、そのほか一部AWSを使用している。

 データ分析を自社でやるのにも理由がある。ビッグデータを扱える企業は数多いが、岡田代表によれば3次元の座標点ビッグデータ分析を専門に扱って得意分野にしている企業はないという。「時系列も絡んできているので、とんでもないデータ量。一人あたりでテーブルが1個必要となる。現在ABEJAでは100テラバイト以上の分析が可能。リアルタイムでも10テラバイトの分析を回している。その点での知見は日本でもかなり優秀だと思っている」

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