週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

『ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操縦航空機パイロットの証言』特別企画

戦争とテクノロジー ドローンが人類にもたらすもの

人類にとってまったく未経験なゾーンへの勇気ある突入

 これは、ドローンに搭載されたコンピューターのコード(プログラム)が、物理的な姿勢を完璧にコントロールするだけの性能を持ったということだ。これによって、時間と位置を指定してそのとおりにふるまう自動航行が可能となり、業務的な“システム”の一部に組み込むことができることになる。

 アマゾンが計画している荷物の自動搬送から、空撮情報の分析による精密農業(耕作地の必要な領域に最小限の肥料しか与えない)、災害時の被害状況の把握などさまざまな利用が期待されている。ドローンによる荷物の運搬がどれほど効率的なのか?

Amazon Prime Air航空宅配ドローン

 2015年のバレンタインデーを前に、香港は九龍半島側からドローンを飛ばしてビクトリア湾をまたぎ、100万ドルの夜景で有名なビクトリアピークなどを次々迂回して香港島の裏側にある観光地レパルスベイまでチョコレートを運ぶ動画を公開した人がいた。これに要した時間はわずか14分。バスやフェリー、トラムを使って同じところまで運んだとしたら1時間ではとてもすまないだろう。ちなみに、ドローンは時速50キロ程度で飛んだものと思われる。

 日本では、2015年9月に改正航空法が成立して、12月10日より施行となった。“無人機”という項目が新設され、飛行禁止空域や夜間での使用禁止などの制限がうたわれたが、ドローンの用途・重量等による登録・免許制も検討されている。しかし、そうした法整備よりも速いスピードで、ドローンは人工知能を搭載して、自動車の自動運転のようにさまざまな状況に対応できるものになるだろう。これがもたらすのは、いったいどんな世界なのか?

 それは、人類にとってまったく未経験なゾーンへの勇気ある突入だといっても大げさではない。

 プレデターに話を戻せば、戦場はドローンで溢れているという言い方をする人もおり、民間人の犠牲者が多いと指摘される等その使用自体が問題視されている。一方、家族と一緒の日常生活とプレデターの操縦を行き来することで、パイロットに心的外傷が生じているというニュースもある。さらには、ドローンを取り巻く話題として、“CCW”(Convention on Certain Conventional Weapons=特定通常兵器使用禁止制限条約)に関連して、自律型兵器(ロボット兵器等)に関する議論も国連などで行なわれている。人類にとって“重要な一線”といえるものに、すでにリアリティがあるということだ。こうしたいままでとはまったく違った“テクノロジーに対する認識”を持つことが、これから我々が生きながらえる最低限の条件なのではないか?

 ここで、ドローンは危険なのでもっと規制をかけるべきだと言うのではない。ドローンによる搬送の実験を積極的にすすめるべきだというのでもない(そうした個別の事柄に目を奪われている場合ではないのだ)。たったいまの中東情勢でも有人機・無人機が使われていると当たり前に報じられているとおり、ステージはとうに変わっている。それは、テクノロジーから見る限り、さらなる変化が控えているということだ。

 それらは、生の人とテクノロジーのせめぎあいともいえる部分であり、ドローンはそうした時代を象徴するものだといえる。


ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操縦航空機パイロットの証言

 アルカイダとの戦いで初めて注目を集めた米軍の遠隔操縦航空機(RPA)戦闘プログラムの内情が、パイロットにより初めて綴られる。爆音も揺れもなく、ボタンひとつで数千キロ離れた敵を殺戮する異常な心理とは?(著者:T・マーク・マッカーリー中佐、ケヴィン・マウラー 翻訳:深澤誉子)

Image from Amazon.co.jp
ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操縦航空機パイロットの証言

遠藤 諭(えんどうさとし)

角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。1990年~2002年まで月刊アスキー編集長、その後、株式会社アスキー取締役などをへて2013年より現職。趣味は文房具作りと香港・台湾などのアジア旅行、月1回東京カレーニュースBARを開催している。『週刊アスキー』巻末連載「神は雲の中にあられる」のほかTokyo MXにて『週刊アスモノ』に出演中。

※本記事は書籍の解説文に加筆・修正を加えたものです。

■Amazon.co.jpで購入
この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう