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月のウサギは鉄製だった:

清水建設が「月の砂」を作っている理由

次なるチャレンジは「月世界ビジネス」

金山 そしてもうひとつの構想が月面建設です。1988年に発表した「コンクリート月面基地構想」は、月の資源でコンクリートモジュールを作り、モジュールを組み合わることで大空間を作ろうという研究。これは30年以上にわたり継続的に取り組んでいるテーマです。現在は鵜山さんがリーダーを務めています。

月資源コンクリートを使った基地のイメージ(画像:清水建設 シミズ・ドリーム「月面基地」

── 35年前の構想が現在まで続いているんですか、すごいですね。

金山 コンクリートは水分を含んでいるので放射線遮へいに使えます。月は地球に近い軌道上と比較して過酷な環境と言える場所です。輸送費が高いこともあり、現地資源を使ってうまく遮へいができるということであれば、有人滞在施設に有効ではないかと。

── コンクリートというといかにも建設会社らしいところですしね。

金山 また、2009年の「ルナリング」という壮大な構想があります。月の赤道上に幅数百キロの太陽電池を一周巻きつけて発電して、レーザーあるいはマイクロ波で地球に送電するというものです。理論的には地球が一年間に使う電力をまかなえるということで、以前こちらの記事として紹介されていた「GREEN FLOAT」の次にシミズドリームという形で公表しました。

ルナリング マスタープラン(画像:清水建設 シミズ・ドリーム「月太陽発電 LUNA RING」

── どちらもすさまじい構想ですが、現在はそれを事業にしようと鵜山さんが取り組んでいらっしゃると。

鵜山 主に取り組んでいるのは「何を作るか」「どうやって作るか」の2つです。重要なのは輸送コスト削減のための現地資源利用ということで、月の砂(レゴリス)をどう建設資材に加工するかの研究をしています。試算によれば、コンクリートブロックを地球から月まで運ぶと1kgあたり1億円かかってしまうんですね。

── それはたまらないですね。我々世代からすると「月の石」になじみがあるんですが、月の砂って地球の砂とは違うんですか?

鵜山 成分的には地球の物質と似ていますが、地球の砂が風化して丸くなっていく一方、月の砂は風も水もないので風化しません。そうなると隕石に当たって砕けるか温度差などで勝手に割れるかで、どれだけ小さくなってもデコボコして尖っているのが特徴です。あと、基本的に多くは酸化物です。

── へええー。成分的にはシリコンとかなんですか?

鵜山 シリコン(ケイ素)とアルミと鉄、カルシウムが含まれています。たとえば月のウサギが見えるところは黒いですよね。あそこは鉄成分を含む色の濃い玄武岩が多い部分なので黒くなっているんです。

── へええー!!

鵜山 黒っぽいところは「海」、白っぽいところは「高地」と呼ばれていますが、海と高地は化学組成だけでなく鉱物組成としても違うところがあり、高地は色が薄めの斜長石のようなものが多く、海は色が濃い玄武岩質のものが多いという特徴もありますね。

── 月の砂でコンクリートは作れるんですか?

鵜山 現地の砂からセメントを生成するのは現状まだ難しいかなと思っていて。代わりにレゴリスをレンガとして焼き固めるとか、コンクリート以外のものを作れないかということでトライしていた時代がありました。

── おお〜、面白いですね。実際に焼いてみたんですか?

鵜山 太陽炉、虫めがねで紙を焼くような原理を利用して、太陽集光でレゴリスを熱して固める実験をやったことがありました。

── 面白いですね〜。レンズでレンガを作っちゃうと。

鵜山 資源利用という点で言えば、先ほどのルナリングも太陽電池パネルは地球から持っていくのではなく現地資源から作るという話なんですよね。

── というと、ミニプラントみたいなものを作るんですか?

鵜山 まさにそうなんです。構想では自走式太陽電池パネル生成プラントのようなものになっていて、前からレゴリスを取り込むと後ろからパネルが出てくるような。

コンクリートモジュールを製造し、施工するイメージ(画像:清水建設 シミズ・ドリーム「月面基地」

── いいですねえ。サンダーバード第27話(英国では28話)で森林を伐採しながら前進すると後ろからパルプのロールが出てくる機械が出てきましたけどそんな感じですね。

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