真空管アンプとの組み合わせが意外に合う?
── 自宅で試聴してみて、真空管アンプとのマッチングがいいと感じました。
渡邉 それは大いにありますね。スピーカーのボイスコイルを動かそうと考えたとき、私は電圧帰還よりも電流帰還のアンプのほうが「音的にいい」と思っています。真空管アンプは電流帰還の特徴を備えていて、特に密閉型スピーカーとの組み合わせにマッチします。
日本ビクター時代に試聴室で使っていたのは、「MC275」「MC240」といったMcIntoshの真空管アンプでした。SX-3の音も真空管アンプで決められたものです。私の密閉型スピーカーは真空管アンプと組み合わせた際に一番パワー感を出せました、逆にトランジスターアンプではドライブしにくい面があります。スピーカーは密閉型がいいという感覚は、その組み合わせの中で養われたと思っています。
いまは、「バスレフ型スピーカーを高出力のトランジスターアンプで鳴らす」のが主流になっています。しかし、1970年代の前半は、アンプが真空管式からトランジスター式に移行していくタイミングでした。出力などの数値はどんどん上がっていましたが、いざ音を出すと、パワー感が出づらかったのです。ちなみに、いまのクリプトンではA級ソリットステートアンプで音決めをしています。
── なるほど、KX-3 Spiritと真空管アンプの相性がいいという感覚は間違っていなかったわけですね。
渡邉 私個人の考え方では、「密閉型スピーカーを電流帰還の真空管的なアンプでドライブする」ほうがよく鳴ると思っています。トランジェントもいいし、低域も豊か。出力も数十ワットあれば十分です。密閉型スピーカーは、バスレフ型とは違って、f0(最低共振周波数)以下の低音が自然に減衰していき、ひずみなどの出方も全然違います。
密閉型スピーカーにこだわり続ける理由
── バスレフ型に対する密閉型の利点をより詳しく教えてください。
渡邉 バスレフ型にすれば、f0を下げられます(編注:低い音が出せる)。しかし、その下には「無制動領域」ができてしまいます。ここをどうするのかは、あまり議論されない部分ですね。
無制動というのは、f0より低い周波数の音を制御できず、ドライバーがパコパコと動いてしまう状態です。密閉型とバスレフ型でf0以下の歪みを比較すると、20dB程度もセカンドハーモニクスが多くなります。つまり量感はあるけれどひずみも多くて、ユニットを正確に制動できていないのです。セカンドハーモニクス(二次高調波)は、サードハーモニクス(三次高調波)などとは違って、出ればある種、気持ちいい面もありますが、「本当はない音が鳴っている」とも言えます。つまり、低域が出ているような感じはしても、正しい低音と言えるのかは疑問です。個人的にはあの低音を少し気持ち悪く感じます。
── 低域の量感はバスレフ型に譲るけれども、密閉型のスピーカーであれば、f0以下の低域もしっかりと制動できて、正しい音が出せるということですね。
渡邉 私はそう思っています。私以外の人はそう言わないかもしれませんが(笑)。世の中の趨勢として、バスレフ型が主流になったのは残念ですね。「売るため」にシフトした面もあると思います。密閉型スピーカーに真空管アンプを組み合わせれば、昔でも、相当いい音が出せていましたから。
しかし、アンプがトランジスターになってしまったのが悲劇で、(低域の量感が出る)バスレフ型スピーカーが主流になっていく原因を作ったと思っています。アンプの変化がスピーカーのトレンドを左右してしまったのです。あくまでも私個人の考えですが、これも密閉型スピーカーを世の中で見かけなくなった理由のひとつではないかと考えています。そんな趨勢は感じつつも、私は自分のこだわりを貫いて機器を設計しています。
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