第334回
老舗鍛造メーカーがアナログな現場にデジタルと改善文化を定着させるまで
工場の“見間違い”ミスを完全ゼロに “現場ナイズ”なkintone実装から始まった意識改革
2026年10月08日 07時00分更新
鍛造メーカーであるISS山崎機械は、年1で大きな不具合を引き起こしていた現場の“見間違いミス”に悩まされていた。アナログな対策が実を結ばない中で、kintoneのOCR・条件分岐アプリでミスゼロを達成。この成功体験が、工数削減や属人化解消、何より現場の意識改革につながっていく。
サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2026 matsuyama」を開催。5番手に登壇したISS山崎機械の恒光一輝さんが語ったのは、“現場ナイズ”なアプリ実装から始まった継続的なDX推進の取り組みだ。
長年の悩みだった“番号の見間違い”ミス
ISS山崎機械は、2026年に創業80年を迎えた老舗の製造メーカーだ。最大8トンの巨大ハンマーが鉄を打つ鍛造ラインと最新設備の機械加工工場を併せ持ち、高品質な鍛造品および機械加工品を手掛けている。
鍛造品ができるまでの工程は、まず鉄の棒を製品の重量に合わせて「切断」し、それを約1200℃で「加熱」。続いて、熱間型打鍛造という製法で「鍛造」し、最後にバリと呼ばれる不要な部分を「トリミング」して完成となる。今回披露されたのは、最初の切断工程で生じていた課題をkintoneで解決した事例だ。
同社では、「材質」「寸法」「チャージ番号」という3つの要素で材料を管理している。特に重要となるのがチャージ番号だ。これは鋼材メーカーが発行する「品質保証書」に遡るための番号であり、同社は長年、この番号の「見間違い」に頭を悩ませていた。
もし、異なるチャージ番号の材料を混在したまま切断してしまうと、材料自体の見分けがつかなくなり、最悪の場合は材料ごと廃棄せざるを得なくなる。恒光さんは、それは例えるなら、国産と中国産のアサリを混ぜて酒蒸しを作ってしまい、産地を保証できなくなってしまうようなものだと語った。
なぜ、チャージ番号の見間違いが起こるかというと、目視のチェックによる限界があった。作業者は指示書と照らし合わせながら、1万本以上もある材料の中から該当番号のものを探し出す必要がある。ラベルの角度によっては「505066」と「506066」のような酷似した数字の識別も難しかった。
「これが1日に数本であれば『見間違えるな』という話ですが、1日に数十本から百数十本も目視でチェックするとなれば、どうしてもミスが発生してしまいます。実際に年に1度の頻度で大きな不具合につながっていました。過去にも様々な対策を講じてきましたが、突き詰めればチェック回数を増やしているだけで、解決までには至りませんでした」(恒光さん)
kintoneアプリを使ってもらうための“現場ナイズ”
アナログな対策に限界を感じた工場長は情報技術課に相談。そこで「これで解決できますよ」と提示されたのがkintoneである。
早速、課題解決に向けたアプリ開発がスタートし、タブレットで撮影したラベルをOCRが自動読み取りし、正誤判定をクリアして初めて次の入力ステップに進めるkintoneアプリが出来上がった。ラベルの読み取りには「モジトリ」、正誤の分岐処理は「条件分岐処理」のプラグインを利用し、紙の指示書自体もkintoneに全面移行している。
「これさえあれば間違いは起こらない」と確信できるアプリが作れたものの、実際の運用はなかなか始まらなかった。というのも、情報技術課がある滋賀県の本社と、切断工程を手掛ける高知県の奈半利工場は、直線距離で約260kmも離れていたからだ。そのため現場への十分なフォローが行き届かず、「kintoneが使われないため、ブラッシュアップも進まない」という悪循環に陥っていた。
さらに、情報技術課ではkintoneに詳しくても、実作業のことは何も分からず、現場社員はその逆という「知識のギャップ」も問題だった。「Zoomや電話で打ち合わせをしても、極端に言えばお互い何を言っているか分からない状態。結果、アプリはできているのに4か月も停滞したままでした」と恒光さんは振り返る。
この膠着状態を打破すべく投入されたのが、現場業務とDX推進チームを兼務する別工場の恒光さんだった。ここからkintoneアプリを「現場ナイズ」していく恒光さんの挑戦が始まる。
恒光さんがまず着手したのは、「紙の指示書の方が見やすかった」問題だ。あらゆるシステム移行でぶつかるであろうこの壁は、「慣れるまで我慢して」の一言では乗り越えられない。そこで「PrintCreator」のプラグインで、紙の指示書の見た目をkintone上で完全再現。これで「見づらい」という不満を一掃した。
次は、「OCRの読み取りに時間がかかる」問題だ。これまで目視で行っていた作業をOCRに置き換えたため、どうしても従来より工数がかかってしまう。しかし妥協のできないポイントだったため、それ以外の作業をkintoneで効率化していった。
例えば、歩留まりやスクラップ重量といった電卓で手計算していた工程を自動化。手書きや転記作業の廃止も進め、ひとつの「切断指示書アプリ」への入力だけで必要なデータが集まる仕組みも整備した。これでOCRで増えた工数分は無事回収できたという。
「こういった改善を続けて、現場で使えるアプリを仕上げていきました。やったことは、シンプル。これなんで使ってくれないの?と聞いて回って、アプリを直して、これでどうですか?とフィードバックを得る、それだけです」(恒光さん)
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