第330回
約1万5000時間の業務改善効果から、次は2万時間を目標に
1日1000通も届く請求書 不夜城と化したオフィスから、市民開発による542%の業務改善効果で1年で脱出
2026年10月21日 09時00分更新
「Excelと何が違うの」という声とメンバーの温度差を、伴走とブートキャンプで乗り越えた
順調な事例の裏で直面した壁を、2人は「市民開発の成長痛」と呼んだ。最初の成長痛が、社内から寄せられる冷ややかな声だった。アプリを作る時間がない、デザインがちょっと、といった声の中で一番多かったのが「Excelと何が違うのか」で、たしかにデータ管理だけならExcelでもできる。kintoneの機能と拡張性を活かせる業務を見つけて置き換えようと、一緒に伴走して考えていった。
次の成長痛は、メンバーの温度差だった。2025年9月末の中間報告会で自作アプリを発表し合って横展開は進んだが、スキルが伸びて活用を広げる人と、スキルが伸びずログインが減る人に分かれた。
「引き続き全員一律で横並びで伴走すべきなのかどうか。これが私が市民開発を1年間進める中で最も悩んだ問いでした。これに対して私は最初、全員一律の底上げを目指しました。事例を共有したり、交流を促進したり、たくさんスレッドを立ててみたり、いろいろやったんですけど、正直効果はほとんどありませんでした」(山本さん)
山本さんは方針を変え、意欲のある人を伸ばして成功体験の数を増やすことを優先した。企画した「kintone bootcamp」は、参加者が好きな時間に来て作りたいアプリをその場で作り、DX推進メンバーがサポートする自由参加のワークショップになる。その場でアプリができあがってよかったという声が多く、自分で作ることが最大の学習となった。
スキルを伸ばしたメンバーは社外とのコミュニケーション課題にも取り組み、その1つが宿泊施設での忘れ物対応だった。忘れ物が見つかると宿泊施設からGMTに連絡が入り、GMTがツアー担当を通じてガイドに処理方法を確認して、回答をまた宿泊施設に戻す。個人情報の壁でガイドの連絡先を教えられないため、GMTが必ず間に入る伝言ゲームになり、どこか1ヵ所でも連絡が取れなければ業務は止まった。
「これに対し、私たちは拡張機能をフル活用して、コミュニケーションを管理する方法を考えていきました。人が関わっていたコミュニケーションを丸ごとkintoneに置き換えたことで、担当者は伝言ゲームから解放されて、通知をモニターしているだけでよくなったのです」(山本さん)
宿泊施設がFormBridgeから忘れ物の発生を報告すると、レコードがkintoneに登録され、ガイドとGMTに通知が届く。ガイドがkViewerでレコードを確認して処理方法を返し、宿泊施設が対応を終えて完了を報告すれば一件落着だ。忘れ物対応という小さな業務は、宿泊施設とガイド、GMTの間のやり取りをkintoneが仲介する仕組みに育った。
最後の成長痛は、活用が広がったからこそDX推進チーム自身がボトルネックになったことだ。プラグインやカスタマイズの希望が急増しても、設定権限を持つのはDX推進チームだけで、依頼が殺到する。そこでルールを改め、メンバーに少しずつ権限を開放していくことを選んだ。
1年で業務改善効果は542%に、成功が成功を生む連鎖で社員の空気が変わった
GMTの市民開発1年目は、精算書アプリという小さな成功体験から始まり、体験した人が増え、同じ体験を求める人が増えた。成功が成功を生む連鎖が市民開発を後押しする。市民開発を始める2025年4月時点で2710時間だったkintoneによる業務改善効果は、2026年3月に1万4687時間へ達した。542%という数字は、現場の社員一人ひとりが積み上げた成果そのものだと飯島さんは強調する。
「そして、数字に表れない成果というのも重要です。変えたくないなという空気が、自ら変えていこうという空気に変わっていった。このマインド変化こそが、市民開発でしか得られない何よりの成果であったと私たちは考えています」(山本さん)
現場のユーザーからは「kintoneなしでは生きていけません」という声も届いている。
「張り詰めていた会社の雰囲気が、この1年でグッと明るくなりました。こうした変化が社員のWell-beingにつながり、EX、すなわち従業員体験の向上につながっています。kintoneは今や私たちの業務に欠かせないものとなっています」(飯島さん)
2026年4月から始まった2年目は、ユーザー数を139名から200名へ、業務改善効果を累計2万時間へ伸ばす指標を掲げた。既存アプリの全社展開とガバナンスの標準化も進める。ここからは自分が引っ張っていく番だと飯島さんは宣言した。2人が最後に掲げた一言が「市民開発でDXを進めたら、EXが向上した」になる。
質疑応答
蒲原さん:市民開発を始めるときに経営層の理解を得に行ったそうですが、市民開発という概念自体を知らない方も多かったと思います。どのように理解していただいたのですか。
山本さん:市民開発でこういう成果を生みますよというプレゼン資料を事前に用意して、まずは私たちのチームマネージャーから経営層にプレゼンしてもらいました。そんなの現場の仕事じゃないだろうという声もあったんですけれども、最終的にはトータルでいろんな効果が生まれるというのを認めてもらえたのかなと思います。
蒲原さん:アプリを作る時間なんてないと冷ややかな目線を受けるのは推進者あるあるです。冷ややかだった方が市民開発の推進役に変わったケースはありましたか。
山本さん:弊社はインバウンドという業務なので、春と秋がすごい繁忙期なんですね。ブートキャンプもそこを外して設定することで、ちょっと時間ができたから行ってみようかなという人がやってみて、あ、いいかもということでマインドが変わっていったのかなと思っています。タイミングは大事だったかなと感じました。
蒲原さん:閉じていた権限を市民開発者にも広げていくという話がありました。事故があったらどうしようと不安に思う方もいると思いますが、どのように進めていますか。
山本さん:公開されているkintoneのスキルレベルでいうと最低限レベル3がある人を我々の目で見極めたうえで開放しています。正直まだプラグインの数を多く使っていなくて、トヨクモさんの2製品とレポトンさんとCrenaさんのプラグインだけなので、そこまで大きな事故にならないだろうというのもあります。あとは実際にどんなものを使っているかを管理アプリに入れてもらって、これなら問題ないでしょうという判断をしています。
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