第330回
約1万5000時間の業務改善効果から、次は2万時間を目標に
1日1000通も届く請求書 不夜城と化したオフィスから、市民開発による542%の業務改善効果で1年で脱出
2026年10月21日 09時00分更新
新型コロナウイルス感染症の影響で売上がほぼゼロとなった旅行代理店は、訪日外国人の増加で一転V字回復を果たす。しかし、コロナ禍で流出した人手は戻らず、1日1000通にもおよぶ精算書の処理に追われ、オフィスは不夜城と化していた。その課題を解決するため、kintoneの市民開発に挑んでいく。
7月9日に開催されたkintone hive 2026 tokyoの7番手として登壇したのは、JTBグローバルマーケティング&トラベルの山本宗慎さんと飯島希実さん。プレゼンでは、「もう無理、限界」という現場の声に、kintoneの市民開発に挑み、542%もの業務改善効果を生み出した課程について語られた。
インバウンド急回復で生まれた「不夜城オフィス」、最初に限界を迎えたのは紙の精算書だった
kintone hive 2026 tokyoの事例登壇もいよいよ最後の7番手。「kintone市民開発365日の軌跡 ~不夜城オフィスからの脱出~」というタイトルで、JTBグローバルマーケティング&トラベルDX推進チーム・BPRプロジェクト 担当課長の山本宗慎さんと、同社DX推進チームの飯島希実さんが登壇する。kintone歴は山本さんが約1年8か月、飯島さんは8か月で、文系出身で非専門職の2人が市民開発1年目の歩みを交互に語った。
JTBグローバルマーケティング&トラベルは、1912年に創業したJTBのグループで唯一の訪日インバウンド機能特化型会社で、社内ではGMTの通称で呼ばれ、約600名が働いている。コロナ禍前に600億円あった売上は移動制限でほぼゼロまで落ち込み、2023年に一転してV字回復した。訪日外国人の数は2025年に4000万人を超えたが、流出した人手はすぐには戻らない。2023年春の最繁忙期、天王洲のオフィスでは夜遅くまで働くことが常態化し、さながら不夜城のような状態になっていた。
「ただ、人手が少なかっただけで、こんな状態にはなりません。1つの旅行案件にはお客様、私たち社員、そしてバス会社や宿泊施設といった事業パートナーの方々、実に多くの人手が関わっています。いわゆる労働集約型産業というやつですね」(山本さん)
情報は各所に散在し、連絡手段が乱立して認識のずれが頻発する。勘と経験に頼る属人化で担当者が不在になれば業務は止まり、手書きやFAX、郵送も残る。業務を停滞させる負のスパイラルができあがっていた。
悪い連鎖が続く中、翌2024年に最初に音を上げたのが、ツアーガイドから郵送で届く紙の精算書の処理だった。多いときには1日1000通が届き、開封と確認、差し戻しの郵送待ち、スキャンと手入力に追われ、単純作業だけで丸1日が費やされる。もう無理、もう限界という現場の声がDX推進チームに届いた。
1人が3ヵ月かけて作った精算書アプリが原点、「そうだ、市民開発しよう」で30名が集まった
GMTがkintoneの導入を決めたきっかけは、「文系管理職なのに~」というフレーズから始まる豊川悦司さんが出演するCMだった。当時の担当者1人が3ヵ月ほど試行錯誤を重ね、初めてのアプリとなるガイドの精算書アプリを作り上げた。
ガイドがトヨクモのWebフォーム作成サービス「FormBridge」から精算書を提出すると、そのレコードを営業部と財務が確認して会計システムに取り込む。紙が中心に鎮座していたフローはシステム中心に変わり、関係部署の業務量は50~70%減った。ペーパーレスと完全内製でコストが下がり、支払遅延も撲滅できた。自分たちの手で業務を変えられたという実感が、GMTにとって初めての成功体験になったという。
手応えを得たDX推進チームは、仕事が見えない、データを活用できない、コミュニケーションがつながらないという3つの状態を全社共通の課題としてとらえ直した。みんなでたくさんアプリを作れば、もっと大きな成果が出る。実に単純な発想から掲げたのが「そうだ、市民開発しよう」というアイデアだった。
2025年4月の経営会議では、市民開発は業務改善の丸投げではなく人財育成であり組織風土変革だと強調して理解を得た。続く公募では、精算書アプリの成功が知られていたおかげで半数以上の部署からおよそ30名が集まった。
市民開発初期のアプリの1つ目が、属人化した見えない仕事と闘う案件管理アプリ。ありふれた業務だからこそkintoneへの置き換えに向き、登竜門にもぴったりだった。
「以前は、案件管理のために担当者はまず社内の基幹システムを見て、メールやExcel、Teams、SharePoint、Box、デスクトップ、ファイルサーバーを見て、それでもわからないから、あの人に聞きに行こうかなと思ったら、今日休みじゃん。イライラしますよね。担当者のメンタルも士気も削れています」(山本さん)
このイライラをまるごとまとめたのが案件管理アプリで、ツアーごとの情報からペンディング事項、ToDoリスト、作業引き継ぎまでを1つのレコードに収め、進捗が一目でわかるようにした。単一機能だったアプリは改良を重ね、タスク管理やリマインダーを兼ねるマルチ機能へ進化していく。個人の仕事がチームの仕事に変わると、この部署ではユーザー数が一気に増えた。
別の部署は、Excelに散在して活用できていなかったアンケートやレポートに取り組んだ。スペイン語とポルトガル語を併記したツアー満足度アンケートをFormBridgeで作り、回答をkintoneに蓄積して外部公開サービスの「kViewer」で共有する。担当者1人でも回せるようになり、データドリブンな商品開発ができるようになった。
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