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【決定版・フェルメール『真珠の耳飾りの少女』展で見逃せない5つの謎】大阪中之島美術館のみでの14年ぶりの奇跡の来日。少女に隠された科学の物語に惹き込まれる

ヨハネス・フェルメール 『真珠の耳飾りの少女』(1665年頃、油彩/カンヴァス)。左上に署名: IVMeer (IVMは組み合わせ文字)

『真珠の耳飾りの少女』が来日!

 大阪中之島美術館で開幕した「フェルメール『真珠の耳飾りの少女』展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日」(2026年8月21日〜9月27日)は、オランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館が誇る至宝が14年ぶりに日本へ里帰りする、またとない機会だ。

 この少女の物語は、絵画の世界にとどまらない。1995年、23点のフェルメール作品を集めた回顧展がワシントンのナショナル・ギャラリーとマウリッツハイス美術館で開かれたのを機に、フェルメール芸術の人気は一気に高まった。

 1999年には小説「真珠の耳飾りの少女」が刊行され、2003年には同名の映画(ピーター・ウェーバー監督)が公開、スカーレット・ヨハンソンが少女グリートを、コリン・ファースがフェルメールを演じたことでも広く知られる。名画に秘められた画家とモデルの物語を絵画さながらの映像美で描き出したこの作品は、世界中でこの絵の魅力を決定的に押し広げる原動力となった。

 マウリッツハイス美術館は1636年に建てられた歴史的な都市型宮殿建築で、美術館としては約200年の歴史を持つ。同館のマルティネ・ゴッセリンク館長は記者説明会で、「まるで自分自身の娘を日本に連れてきて、皆さんに委ねるような気持ちだ」と語り、日蘭両国の長い友好関係(建物が建てられたのが日蘭関係の始まりとほぼ同時期にあたる)があったからこそ、リノベーション期間中の貸出先として「日本しかない」と判断したことを明かした。

 大阪中之島美術館の菅谷富夫特命ディレクターも、「開館以来40回近い記者説明会の中でも、今回は普段と雰囲気が違う」と、市民からの問い合わせの多さに驚きを語っている。

内覧会では、展覧会公式アンバサダーのミッフィーとフォトセッション

 本展の特徴は、マウリッツハイス美術館が所蔵するフェルメールの傑作3点のうち、『真珠の耳飾りの少女』と『ディアナとニンフたち』という貴重な2点を見られる点にある(もう1点の『デルフトの眺望』は今回来日していない)。

 さらに、レンブラント、フランス・ハルス、ヤン・ステーン、パウルス・ポッテルら、17世紀オランダ黄金期を代表する巨匠たちの名品がジャンル別に展示され、17世紀オランダ絵画の全貌を俯瞰できる構成になっている。

 監修を務める神戸大学大学院人文学研究科教授・宮下規久朗氏は「非常に精選された、オランダ17世紀の黄金時代を代表する」と評した。

 しかも、今回、フェルメールの2作品は、一般の人は撮影自由だ。映像のコーナーやフェルメールの全37作品の複製が一堂に展示されるコーナーもある。

 筆者は、オランダのマウリッツハイス美術館を取材で訪れたことがあり、14年前の神戸市立博物館での展覧会も堪能したが、今回で3度目の『真珠の耳飾りの少女』はなぜか、これまでで一番若々しく瑞々しく感じられる。日本で見るチャンスは滅多になく、美術館のリニューアルでやってきた名作たちが次に来てくれるのはかなり先になりそうだ。この機会を逃さず、鑑賞してほしい。

さまざまなレイヤーが織りなす、少女の5つの謎と魅力

「真珠の耳飾りの少女」は、大きな空間で展示され、さまざま切り口の解説パネルも充実して、思い切った構成が見やすく楽しい

第5位:そもそも「誰でもない」少女?――トローニーという謎のジャンル

 この魅力的な「少女」はいったい誰なのか。会場のキャプションによれば、画家の娘、知人の娘、フェルメール家の使用人など諸説あるが、はっきりしたことはわかっていない。『真珠の耳飾りの少女』は、人の表情を研究するために描かれる「トローニー」(頭部の習作)というジャンルに属する。特定の誰かではないからこそ、「少女」は時代や国境を越えて広く愛されるのかもしれない。

【胸熱トリビア】 本作は2003年に映画化(ピーター・ウェーバー監督)され、スカーレット・ヨハンソンが主人公の少女グリートを、コリン・ファースがフェルメールを演じた。1999年の同名小説の刊行と合わせて、『真珠の耳飾りの少女』を「世界中から愛される名品」へと押し上げる大きな原動力になったという。

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第4位:真珠は「本物」か「偽物」か?――顔料と光が織りなす細密描写

 少女はなぜこんなにも大きな真珠をつけているのか。西洋美術において真珠は、しばしば純潔、知性、愛のモチーフとされ、単なる装飾品ではなく何らかの象徴として描かれた可能性がある。

 ターバンにはアフガニスタンから海を越えて運ばれた高価な顔料「ラピスラズリ」を原料とするウルトラマリンが使われ、当時は純金よりも価値があったという。目のハイライトには鉛白、唇にはメキシコや中南米のサボテンに生息する昆虫(コチニール)から作られた半透明の赤い絵の具が用いられている。さらに、唇の脇に打たれた「ポワンティエ」と呼ばれる小さな白い光の粒が、つややかに濡れた唇を強調し、今にも話しかけようとしているかのような生命感を与えている。

【胸熱トリビア】 実は真珠には輪郭線もなく、耳に掛けるためのフックも描かれていない。100年以上前の修復処置でハイライト部分が平坦になってしまったともいい、「真珠」自体が一種の幻影かもしれないという指摘もある。

第3位:消えた「緑のカーテン」の謎――最新科学調査の衝撃

 『真珠の耳飾りの少女』の背景は、一見すると黒い闇のように見える。しかし2018〜2020年にかけて、マウリッツハイス美術館が主導し、オランダ保存・芸術・科学研究所(NICAS)、アムステルダム国立美術館、デルフト工科大学、オランダ文化遺産庁、アムステルダム大学、アントワープ大学、ワシントン・ナショナル・ギャラリー、Hirox Europeなど国内外の専門家チームが参加した技術調査「Girl in the Spotlight」により、もともとは濃い緑のカーテンが描かれていたことが判明した。長い年月の中で顔料が失われ黒く変色してしまったが、暗い背景が少女の顔の明るさを際立たせるという効果は今も変わっていない。

【胸熱トリビア】 鉛元素の分布を示すMA-XRF画像には、右上隅に布の折り目のような斜めの線がくっきりと浮かび上がる。過去400年で色は失われても、少女が闇から浮かび上がるように見える魅力はむしろ増しているとさえいえる。

第2位:1世紀も隠されていた”最後の輝き”――大修復とモノグラムの秘密

 1881年にオークションに出品された当時、『少女』の絵は表面がひどく汚れ、作者すら分からなかった。その後修復され、古いニス層が取り除かれると、画面左上に「IVMeer」というフェルメールの署名(組み合わせ文字によるモノグラム)が現れ、ヨハネス・フェルメールの作品であることが証明された。

 本物と向き合って鑑賞すると、私たちの視線は少女の目から口、そして真珠へと自然に移り、また顔へと戻る。この動きの繰り返しこそが、複製画では味わえない、私たちの心をとらえて離さない秘密だという。

【胸熱トリビア】 会場のキャプションには、目・口・真珠・顔アップ・X線という5つの視点で少女を分解した写真が並ぶ。研究によって初めて見えてきた「視線の往復運動」は、この絵の人気を支える最大の科学的発見のひとつだ。

第1位:少女がたどった道と、日蘭400年の絆

 200年以上もの間、いったいどこで、誰が「少女」の絵を所蔵していたのか。1881年にハーグのオークションに出品された時、作者は分かっていなかった。美術に詳しい人物がフェルメールの作品ではないかと見抜き、友人の美術収集家アルノルドゥス・アンドリース・デス・トンベに購入を勧めた。その遺言によって1903年、少女はマウリッツハイス美術館に寄贈された。

 来歴をまとめると、

1674〜1681年 デルフト、ピーテル・クラース・ファン・ライフェン(1624–1674)とマリア・シモンズドールト・デ・クナイト(1623〜1681)

(?) デルフト、彼らの娘マフダレーナ・ファン・ライフェン(1655〜1682)

彼女の夫ヤーコプ・ディシウス(1653〜1695)

(?) 1696年5月16日 アムステルダム、彼の遺品競売、作品番号38(36ギルダー)、作品番号39(17ギルダー)、または作品番号40(17ギルダー)

1881年(月日不明) ハーグ、ブラームス競売、デス・トンベが2.30ギルダーで落札

1881〜1902年 ハーグ、アルノルドゥス・アンドリース・デス・トンベ(1881年にマウリッツハイス美術館へ貸与)

1903年 ハーグ、アルノルドゥス・アンドリース・デス・トンベの遺贈」

 ……となる。

 そして今回、リノベーション期間を迎えた同館から、日蘭の深い友好の歴史を背景に日本へとやってきた。「この少女はきっと皆さんのことを見つめ返してくれる」とゴッセリンク館長が語る通り、数百年にわたり見つめられ続けてきた少女と鑑賞者との一期一会の視線の交差こそが、本展最大の体験だ。

【胸熱トリビア】 会場のラベルには「c.1665 Oil on canvas」に続き、ピーテル・クラース・ファン・ライフェンとマリア・シモンズドール・デ・クナイト夫妻に始まる詳細な来歴(プロヴェナンス)が記されている。名画1点の裏に、これほど緻密な“時間のレイヤー”が積み重なっていることに驚かされる。

 
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