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DX伴走支援チーム「DX戦隊デジベイターズ」の目標は解散

市役所の当たり前が市民の負担 その罪深さを痛感した職員が推進する自治体DX

2026年10月16日 07時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水 写真提供●サイボウズ

研修も講義もやめて各課に足を運ぶ「DX戦隊デジベイターズ」を結成した

 令和7年度、松原さんは遠藤さんのバトンを継ぐべくデジタル推進課へ異動した。最初に感じたのは、文字起こしのAI議事録や文字を読み取るAI-OCRなど、デジタル推進課の持つツールを自分がまるで知らなかったことだ。kintoneも、たまたま自分が触る機会を得ただけで全庁に浸透しているとは言えない。各課に通知は出しているのに使いこなす職員は少ないのではないかと考え、提案したのがDX伴走支援チーム「DX戦隊デジベイターズ」だ。

 ツールの説明を聞きに来てもらう研修や講義は一切やめ、各課に足を運んで一つ一つ伝え、その課の業務に合ったツールを提案する。恩人たちが自分にしてくれたことを、今度は自分が現場に走って返すことにしたのだ。

腕章をつけて各課へ出張するDX戦隊デジベイターズ

 スタートにあたって決めた目的は3つある。1つ目は7階の壁を壊すこと。最上階にあるデジタル推進課は、現場から見れば何をしているかわからない遠い場所だった。7階に座っているのをやめて現場に飛び込み、デジベイターズって何、というところから認識してもらう。

 2つ目は自然な気づきをデザインすること。デジベイターズへの出動要請を受け付けるエントリー窓口には、保育コンシェルジュの予約で使ったkViewerとフォームブリッジの仕組みをそのまま流用した。市民向けに作った予約システムを職員向けの申し込み窓口に置き換えて見せれば、感度のいい職員なら自分の課の業務にも使えるとピンとくるからだ。この読みは当たり、あのフォームはうちのイベント申し込みに使えるかという声が次々に上がったそう。

 3つ目は成功体験というバトンを渡すことだ。デジベイターズはツールを置いて帰るだけの支援にはしなかった。自分たちの手で業務を変えたという強い実感と、デジタル推進課は伴走してくれる味方だという実体験を、各課に深く刻んでもらうことにした。

「市役所には必ず異動があります。成功体験を持った職員が次の部署へ移り、そしてまた新たな改善の種が芽吹く。このバトンこそ、組織を根本から変える力になると信じています」(松原さん)

 運用のルールも4つ定めた。押しつけずにエントリーしてもらい、手を挙げた課と縁を結ぶ。最初の1個はデジベイターズが作ってもよく、自分の業務がkintoneに置き換わる様子を見せて原体験にしてもらう。一方でマニュアルは作らない。教わったことを自分でアウトプットする作業が知識を補完する。そして事例を共有し、次のエントリーへつなげる。

 4月から準備して6月に動き出したデジベイターズは、令和7年度の3月末までに4人で412回の現場出動をこなした。保育園や公民館、保健所、消防署といった本庁の外の最前線から熱い思いが次々と届いたことに、松原さんは感動したという。各課のExcelや申請がkintoneに置き換わり、それを各課自身で運営する状況が現実になっている。

本庁の外にある保育園や公民館、保健所、消防署にも出動した

チームの「解散」をゴールに置き、現場の若手がバトンを握り始めた

 松原さんがどうしても紹介したい仲間として挙げたのが、保育課時代の自分の背中を見てきた3人の後輩だ。少し小さな腕章をつけたデジベイターズジュニア、通称子デジ。松原さんが保育課を離れた後も、3人は自分たちの手で保育課をさらに進化させた。

 子デジの存在が組織にとって大きいのは、デジタル推進課の職員ではないからだ。専門部署がどれだけ正論を語っても、専門の部署だからできるという壁が生まれてしまう。子デジは毎日市民と向き合い、現場で泥臭い作業をこなす普通の若手職員だ。その3人が自分たちの作ったkintoneの仕組みを他部署に自慢げに見せると、見た職員は同じ現場の人間がここまで使いこなしているのかと受け止める。

「この自分たちに近い存在が変えているという事実こそが、何よりも強く人の背中を押します」(松原さん)

保育課の後輩3人によるデジベイターズジュニア、通称子デジ

 眞下さんから松原さんへ、松原さんから各課へ、そして保育課の子デジへ。バトンは受け取った職員の手で次の走者に渡り、渡された側がまた自分で課題を見つけて走り出す。この連鎖が全庁に行き渡れば、腕章をつけて各課に出張するチームは要らなくなる。セッションタイトルに掲げた「デジベイターズを解散せよ」は、松原さんが本気で置いたゴールだった。

「全ての課に自分で課題を見つけ、自分でバトンを握るデジベイターが生まれた時、私たちのチームは役割を終えます。専門のチームがいなくなること。これこそが組織が本当の意味で自走を始めた証だからです」(松原さん)

 スライドのアルファベットのiをすべて小文字にしたのも松原さんのこだわりだ。iは英語の1人称で私を指す。一人一人の小さなiが周りを巻き込み、やがて大きく成長していくようにという願いを込めた。

「誰かが変えてくれるのを待つのではなく、自分自身がバトンを握る。その意味でkintoneは最高のバトンになります」と松原さんは語った。

質疑応答

セッション後、サイボウズの蒲原大輔さんから松原さんに質問が投げかけられた。

サイボウズ 蒲原大輔さん:最初の1個はデジベイターズが作っても良いというルールが面白いと思いました。一度DX部門が作ってしまうと現場のモチベーションが湧かなくなることもありますが、どうやって自走に持っていっているんですか。

松原さん:今回ターゲットにしたのは、自分たちで変えたいという思いを持って手を挙げてくれる人たちです。その人たちに最初のきっかけを与えれば、そこから自走していってくれると信じてやってみました。これは非常にうまくいったと考えています。

蒲原さん:自分で手を挙げるのは、最初はハードルを感じる方もいると思います。手が挙がる状況をどう作ったんですか。

松原さん:DXを進めるにあたって大切だと思ったのが、DXのエンタメ化です。何やってるんだあの人たちは、と見てもらうのが重要かなと。そこから口コミで広がって、今みんながやってくれている状態が続いているので、この腕章とデジベイターズという名前は本当に良かったと思っています。

蒲原さん:DX戦隊や腕章は、硬いイメージのある行政組織からするといい意味でギャップがあります。思い切ったチャレンジができている背景には、どういった要素があるんですか。

松原さん:2つあります。1つは間違いなく、やることに対して自分が意図と根拠を説明できることです。なんでやってるの、と言われた時に答えられるようにしておこうと。もう1つ重要な要素が上司です。私たちがいくら考えても、それを良しとして一緒に協力してくれる上司がいなければ成り立ちません。私たちの上司はすごく動いてくれたので感謝しております。

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