第327回
DX伴走支援チーム「DX戦隊デジベイターズ」の目標は解散
市役所の当たり前が市民の負担 その罪深さを痛感した職員が推進する自治体DX
2026年10月16日 07時00分更新
コロナ禍を機に、独学のマクロとRPAで職員30名の約1200時間の残業を減らした保育課の職員は、「自分たちの都合で市民に平日の昼間に電話しろと強いていた」と反省した。そして、市役所内にDX伴走支援チーム「DX戦隊デジベイターズ」を作り、その解散を目標に奔走する。
kintone hive 2026 tokyoの4番手として登壇したのは、茅ヶ崎市役所の松原大さん。プレゼンでは、人との出会いから生まれたkintoneの導入によって、各課の壁を取り払い、市役所内のデジタル化を推進していく課程とそのゴールについて語られた。
コロナ禍で事務量が爆発した保育課で、独学のマクロとRPAが1200時間の残業を消した
松原さんは、人が変わるために必要な力を2つ挙げるところから話を始めた。
「人が変わるには大きな2つの力が必要です。1つは人との出会い、縁。もう1つは心を揺さぶるきっかけです」(松原さん)
DXは業務効率化やシステム導入といった冷たい言葉で語られがちだが、本質はそこにないと松原さんは確信している。ピンチのときに訪れる出会いと、可能性を信じて手渡されるきっかけがそろったときに人は動きだす。ことDXに関して言えば、kintoneがどんな状況でもつないでいけるバトンになるという。
松原さんは33歳まで民間企業で働き、公務員という職業にも茅ヶ崎という土地にも接点のないまま市役所に入庁した。目の前に広がるのは難解な法律用語と積み上がる紙の山で、テキパキと仕事をこなす先輩には言葉の意味を聞くことすらためらってしまう。何もわからないまま時間だけが過ぎていく、暗闇のどん底のような日々だった。
焦りばかりが募る日々に最初のきっかけが訪れた。コロナ禍だ。配属先の保育課は未知のウイルスへの対応で事務量が爆発し、帰りたくても帰れない日が続く。子育て中の職員も多い職場は全員が疲弊しきっていた。
山積みの書類を前に立ち尽くす松原さんたちの横に、当時デジタル推進課にいた眞下さんがすっと座った。差し出されたのは、マクロとRPA(定型的なパソコン操作を自動化する仕組み)という武器だった。カーソルが勝手に動いて書類が積み上がっていく光景は、魔法にしか見えなかったという。
これを自分のものにすればみんなを家に帰せるかもしれない。そう考えた松原さんは1年間独学し、作業を一つずつマクロとRPAに置き換えた。その結果、職員30名の保育課で約1200時間の残業を削減する。一人一人の夜の時間が、家族や自分のための時間に変わったのだ。
保育コンシェルジュの予約を、渡されたkintoneで2週間で形にした
手応えを感じ始めた松原さんの前に、次の壁が立ちはだかった。保育コンシェルジュの予約業務だ。保育園探しに悩む保護者に寄り添う繊細な仕事だが、予約の受付は市役所が開いている平日の昼間に電話のみで、管理は1冊の紙台帳だった。ダブルブッキングも起きていた。市民の不便も職員の負担も解消したい松原さんは、専用の予約システムの導入を模索する。業者と打ち合わせを重ねて理想の形を作り上げ、ようやく予算要求までこぎつけたが、財政課との協議で却下されてしまった。
専用システムの道が断たれ、立ち往生していた松原さんのもとに2人目の出会いが訪れた。当時デジタル推進課にいた遠藤さんが、これなら自分たちで作れるのではないかと渡してくれたのがkintoneだった。
kintoneって何、という状態からのスタートだった。それでも遠藤さんはフロアの離れたデジタル推進課から保育課まで何度も足を運び、わかるまで伴走してくれた。自分の実業務に置き換えると、kintoneは驚くほどすっと頭に入ってきたという。作ったのは、kintoneのデータを外部に公開するkViewerと、外部からの入力を受け付けるフォームブリッジを組み合わせた予約システムだ。夢中で手を動かすと2週間で形になり、茅ヶ崎市におけるkintoneのウェブ予約システム第1号となった。
リリース当日、市役所のホームページに予約リンクを貼り付けた20分後に通知ランプが灯った。職員みんなで画面を囲み、7階で残業していた遠藤さんを1階の保育課に呼びつけて一緒に喜んだという。翌朝ログインすると通知は3件。レコードの作成時間は夜中の23時、午前3時過ぎ、朝4時だった。
「私たちは自分たちの都合で市民に平日の昼間に電話をしろと強いていた。そしてそれが当たり前になってしまっている。その当たり前がいかに市民にとって負担になっていたか、その罪深さを痛感しました」(松原さん)
使える予算の少ない市役所で、自分たちの手でアップデートを続け、市民へのサービスを絶やさない。そのためのバトンがkintoneになる。この原体験が、のちのデジベイターズの軸になった。
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