AIの能力高度化で高まるセキュリティリスク、セキュリティ戦略を根本的に見直すべきとき
【提言】フロンティアAIが生む“脆弱性パッチの波” 企業はパッチ適用プロセスの見直しを
2026年08月18日 11時00分更新
2026年4月、高度な脆弱性発見能力を持つAIモデル「Claude Mythos」が発表され、世界のセキュリティ関係者に衝撃を与えました。こうした最先端AI(フロンティアAI)は、サイバー脅威の状況を一変させる可能性があり、防御側である企業や組織では、それに対応した新たなセキュリティ戦略の構築が必要です。元IDC Japanアナリスト、現フォーティネットジャパン Field CISOの登坂恒夫氏による提言です。
現在、AIの活用がグローバルで急拡大しています。企業だけではなく個人も、さらにはサイバー攻撃グループ/攻撃者も、AI活用に大きな可能性を見いだしています。そうした状況のなかで、企業は「最先端のAIがもたらす脅威への備え」と「自社におけるAI安全活用のルール」という、2つの側面からAIセキュリティを考える必要に迫られています。
前者は、高度な脆弱性の発見能力を持つAIが登場したことへの対応です。今年の春、Anthropic(アンソロピック)が発表した「Claude Mythos(クロード ミュトス)」は、世界中のセキュリティ関係者に大きな衝撃を与えました。最新鋭のAIが、既存のソフトウェアに潜在する未知の脆弱性を短時間で大量に発見できること、複数の脆弱性を順に突いていく複雑な攻撃プロセスも実行できることを証明したからです。
この“Mythos以後”のサイバー脅威に備えるために、防御側の企業は、これまでのセキュリティ対策のアプローチと“セキュリティマインド”を根本的に見直す必要があります。今回は、こうした「最先端のAIがもたらす脅威への備え」について、企業経営やビジネスの観点から必要となることを解説し、実践すべきことを提言します。
なお、後者の「自社におけるAI安全活用のルール」については、あらためて次回の記事で取り上げます。
世界に衝撃を与えた「Claude Mythos」はどのような能力を持つのか
Claude Mythos Previewは、米国のAIスタートアップであるAnthropicが2026年4月に発表した、サイバーセキュリティの防御目的に特化した超高性能なAIモデルです。ただし一般公開は行わず、特定のパートナー企業/組織への限定公開にとどめています。
なぜ「一般公開を行わない」という異例の対応が行われたのか。Anthropicのセキュリティリサーチチームや、Anthropicが主導し大手ITベンダーが参画する共同サイバー防衛プロジェクト「Project Glasswing」、英国のAIセキュリティ研究所(AISI)などが報告したMythos Previewの検証結果を見ると、その理由が分かります。
(1)Anthropicセキュリティリサーチチームによる評価結果と対応案
Anthropicのセキュリティリサーチチームでは、Mythos Previewの技術評価テストを1カ月をかけて行いました。具体的には、このAIモデルにソースコードを読み込ませ、仮説を立ててソフトウェアを実行し、必要に応じてデバッガも利用しながら、脆弱性を攻撃できる概念実証コード付きのバグレポートを作成しています。
この手法によって、同チームは深刻度が「重大(High)」または「緊急(Critical)」と評価される数千件もの脆弱性を特定したと報告しています。特に、以下の3つは、オープンソースソフトウェアとして多くの人が開発に関わりながら、長年にわたって発見されなかった未知の脆弱性(ゼロデイ脆弱性)を発見したという成果であり、その能力の高さを示しています。
・27年間発見されなかったOpenBSDの致命的なバグ
・17年間発見されなかったFreeBSDの脆弱性(NFSサーバーのリモートコード実行可能な脆弱性)
・16年間発見されなかったFFmpegの脆弱性(H.264コーデックの脆弱性)
Project Glasswingは、Mythos Previewの高度な能力を活用して、重要なソフトウェアの脆弱性を攻撃者より先に発見/修正するプロジェクトです。発足時にはAWS、Apple、Google、Microsoft、Linux Foundation、NVIDIAなどが参加し、現在は50社ほどのパートナー企業/団体が参画しています。
Project Glasswingでも、Mythosを用いて1カ月ほどの技術評価を実施し、深刻度が重大(High)/緊急(Critical)に該当するセキュリティ欠陥を「1万件以上発見した」と報告しています。
(3)英国のAIセキュリティ研究所(AISI)による評価結果と対応案
英国のAIセキュリティ研究所(AISI:AI Security Institute)でも、Mythos Previewの能力評価を行いました。サイバー攻撃の「初期偵察」から「完全な掌握(乗っ取り)」まで32段階に及ぶ攻撃シミュレーションをMythos Previewに実行させたところ、人間の専門家では20時間かかると想定されると推定される一連の攻撃を、一度のプロンプト指示だけで完了させました(10回の試行のうち、攻撃の完遂に3回成功)。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

