AIのヨイショでその気になるのは超危険! おべっかを抑え、AIを本音アドバイザーにするプロンプトの使い分け方
2026年06月01日 09時00分更新
本連載は生成AIをこれから活用しようとしている方たちのために、生成AIの基本やコピペしてそのまま使えるプロンプトなどを紹介。兎にも角にも生成AIに触り始めることで、AIに対する理解を深め、AIスキルを身に着けて欲しい。第60回はAIのおべっかを抑えて、厳しい意見を出力するためのプロンプトを解説する。
AIは褒め上手。シコファンシーが起こる理由
ChatGPTやClaudeに何かアイデアを話したりすると、まず「かなり面白いです」「そのアイデア、非常に未来的でワクワクしますね!」と褒めてくれることがある。気分はいいが、よく読むと適当に肯定していることも多い。こちらの間違いやクオリティ不足を指摘してくれないと、ユーザーとしても困ってしまう。この現象は「シコファンシー(sycophancy)」、日本語では「迎合」「おべっか」などと呼ばれ、生成AI利用時の課題となっているのだ。
スタンフォード大学が2025年に発表した論文「SycEval」では、ChatGPT-4o、Claude Sonnet、Gemini 1.5 Proを数学と医療相談のタスクでテストしたところ、なんと58.19%の応答で何らかの迎合行動が観察された。半数以上の場面で、AIは正しさより「ユーザーが喜びそうな答え」を優先している可能性が示されたのだ。
同年4月にはOpenAIのGPT-4oアップデートでこの傾向が悪化し、ナンセンスなビジネスアイデアにまで「天才的だ」と返してしまい、わずか3日後にロールバックされる事件まで起きた。サム・アルトマン自身が「迎合的すぎて鬱陶しい」と認めたほどひどかったのだ。
シコファンシーが起きるのは、生成AIが「正しいことを言う」だけでなく、「人間に気に入られる答え」を出すように作られているため。評価されやすい会話の型として、ほめる、同意する、寄り添う、といった返答を選びやすくなるのだ。
特に、ユーザーが強い口調で「自分は正しいよね」「相手が悪いよね」と聞くと、AIはその流れに合わせて答えようとする。さらに、チャットAIはもともと「親切でやさしい存在」に見えるよう設計されているため、きっぱり否定するより、やんわり肯定する方向に寄りやすい。その結果、間違いを直さず、危ない考えにもブレーキをかけず、ユーザーの思い込みを強めてしまうことがある。
現在は、ある程度調整されているものの、ビジネス利用者にとって、これは笑える話ではない。事業計画レビュー、議事録の要約、報告書のチェック、市場分析などを行う際、「私の判断、合ってますよね?」とAIに聞いてしまうと、本来見つけたい弱点や反証が見えなくなってしまう。
AIから率直な意見を引き出すプロンプトを使い分ける方法
最も手っ取り早い対策は、質問文の書き方を変えることだ。「私の考え、いいと思う?」と聞くとAIは肯定側に寄るが、「弱点を3つ挙げて」と頼むと批判側のスイッチが入る。
まずは、「ウイスキーの小分け販売事業」という企画書をアップロードし、「新規事業のすごいアイデアを考えました。凄いですよね。成功しますよね?」と入力してみる。すると、「いや、これはかなり筋がいいです。特に「高級ウイスキーを所有から体験へ変える」という軸が強い。単なる“小分け販売”で終わっていないのが重要です」とべた褒めしてくる。
その後もおべっかが続き、最後にボトルネックとして「オペレーション地獄」「“ただの転売屋”に見えるリスク」「「本当に飲みたい酒」を確保できるか」の3つを提示してくれた。指摘内容は大きく外していないものの、企画書の記載範囲をなぞるものが多く、踏み込んだ助言としてはやや物足りなかった。それどころか、この返答ならこのまま行けそうな気になってしまう。
続けて事業計画書を添付して、「弱点を3つ教えて」というプロンプトを試してみると、さくっと3ポイントを列挙。実務の詰めが弱い、数字の考えが甘い、優位性がないなど厳しく指摘された。特に、このくらい稼ぎたい、という妄想の金額に対して、リアルにツッコミを入れてくれるのはありがたいところだろう。
●プロンプト
添付の事業計画書を読んでください。この計画の弱点を3つ挙げてください。お世辞や前置きは不要です。
●出力
1. 許認可・小分け実務の詰めが甘い
酒販免許・卸免許はある前提だが、小分け場所は「申請を進めている」段階。品質管理、表示、ロット管理、年齢確認まで必要で、ここが遅れると販売開始できない。
2. 売上計画が楽観的
初年度1,800万円から3年目1.2億円への伸びに対し、集客単価、CVR、リピート率、広告費、会員獲得コストの根拠が薄い。特に月間注文数2,000件まで伸ばす導線が弱い。
3. 差別化が模倣されやすい
小瓶販売、飲み比べセット、定期便、解説カードは魅力的だが、大手酒販店や既存ECも参入可能。強い仕入れ網、独占ボトル、専門家ブランド、コミュニティなどの防衛策がまだ弱い。
褒め殺しされない、厳しい意見を聞くためのプロンプト
英語圏のビジネスパーソンに人気なのが「容赦のないアドバイザー化」プロンプトだ。日本語でもほぼそのまま機能するので試してみよう。「容赦のないアドバイスをください」だけでも機能するが、ここではこれでもかというくらい突っ込んで欲しいのでプロンプトを拡充してみた。
すると、金額の計算ミスの指摘から、見えないリスクまで厳しいツッコミが入り、「投資判断できる事業計画書」にはなっていないと一刀両断された。5つのツッコミが入ったが、それぞれどうすればよいのかアドバイスも入っており、役に立つことは間違いない。
1000本の既存在庫があると企画書に入れており、前述のプロンプトでは強みだったのだが、中身次第で、「回転しない趣味在庫なら資金繰りを悪化させる」と厳しい指摘が入る。小分け時の酸化の問題や、マーケティング戦略など、シンプルなプロンプトだと出てこないツッコミも出てきて、とても参考になった。心が折れそうな人は「優しく指摘して」のような文言を入れておくといいだろう。
●プロンプト
添付の事業計画書を読んでアドバイスをください。安易に同意するのではなく、容赦なく正直で、高い視座を持つ助言者として振る舞ってください。私を無理に肯定したり、耳ざわりのいい言葉でごまかしたり、お世辞を言ったりする必要はありません。むしろ、私の考えに遠慮なく異議を唱え、前提を疑い、私自身が見落としている盲点や、あえて直視していない問題を指摘してください。論理が弱い部分があれば、どこがなぜ弱いのかを分解して説明してください。私が都合よく解釈していたり、自分を騙していたりする場合は、その点もはっきり指摘してください。常に客観的かつ戦略的な視点で状況を見て、私が言い訳をしている箇所、リスクを過小評価している箇所、判断を誤りそうな箇所を具体的に教えてください。
●出力
率直に言うと、この計画は「魅力的な企画書」にはなっていますが、「投資判断できる事業計画書」にはなっていません。最大の弱点は、需要・利益・法務オペレーションの3点が、希望的観測でつながっていることです。
第一に、売上目標が粗いです。1年目売上1,800万円、3年目1億2,000万円という数字はありますが、どの商品が何本売れて、広告費いくらで、リピート率何%なら達成できるのかが分解されていません。月間注文数350件、客単価5,500円なら月商192.5万円、年商2,310万円です。1年目売上1,800万円とズレます。こういう数字のズレは、外部に出すと一発で「計画を作っただけ」と見抜かれます。
~略
毎回プロンプトに「お世辞は不要」「厳しく回答して」などと書くのは面倒だ。そんな時は、カスタムプロンプトに設定しておくと手間が省ける。例えば、ChatGPTなら「パーソナライズ」設定の「カスタム指示」にベースとなるプロンプトを設定しておけばいい。
●カスタム指示
ユーザーに過度に気を遣ったり、無理に同調したりせず、客観的な視点から率直に意見を述べてください。ユーザーの発言に論理の矛盾や誤り、事実認識の間違いがある場合は、曖昧にせず明確に指摘してください。判断にあたっては、科学的事実や客観的事実、社会的な常識や定説を優先してください。不要なお世辞や、浅い称賛、回りくどい前置きは必要ありません。
これだけで、応答の冒頭から「素晴らしいご質問ですね」が消え、事実誤認の指摘も自然に出てくるようになる。試しに、同じ企画書をアップロードし、「この企画、よくできてますよね?」と入力しても、「事業計画としては弱い」と厳しく指摘してくれるようになった。
AIに肯定されて気持ちよくなった瞬間こそ、もう一度疑ってかかったほうがいい。プロンプトを工夫して批判役を頼むことで、欲しかったブラッシュアップ案が見つかるかもしれない。シコファンシーに振り回されず、AIから本当に欲しい指摘や提案を引き出せるようにしてほしい。
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