昨年「4G・5G基地局の機器開発中止、国産化後退」とメディアで報じられたNEC。このセンセーショナルなニュースは、NECが基地局事業から完全に撤退し、投資も人材も引き上げるかのような印象を業界に与えた。
そのような状況の中、NECはMWC26に出展。NECブースおよび担当者への取材によると、これは単純な事業撤退ではなく、成長領域への経営資源の集中を目的とした「戦略転換」であるという事実がわかった。
「撤退」ではなく「成長領域への戦略転換」
現在のNECのネットワークインフラ事業ポートフォリオは、「注力事業」と「ノンコア事業」に明確に切り分けられている。ノンコア領域と位置づけられたのは、従来型の専用ハードウェアベースの基地局や、4T4Rなどの既存RU(無線装置)だ。
これらの領域はコモディティ化が進み、ハードウェア単体での利益創出が極めて困難になっている。そのため、これらの新規開発を縮小して既存ソフトウェアの機能追加や保守のみを継続し、案件によっては顧客の要求に合わせて最適なパートナー企業の製品を採用し、エンドツーエンドのソリューションを提供する方針とした。
先の報道では、この「ノンコア事業」の新規開発縮小という部分だけが強調され、意図と異なる伝わり方をしてしまった結果というわけだ。
一方で、事業を継続し経営資源を集中させる「注力事業」として据えているのが、AI・ネットワークの進化を見据えた仮想化基地局(vRAN)と、それに連携する新RU、Massive MIMO領域のハードウェア。オープン化が進むvRAN環境であっても、Massive MIMOに関しては技術的な難易度の高さから、CU/DUとRUを異なるベンダーで組み合わせる構成は難航しがち。
そのため、顧客からは現在もCU/DUとRUをセットで導入したいというニーズが多く、この領域ではハードウェア事業としてまだ十分に収益性が確保できると判断しているとのこと。
Beyond 5G/6Gを見据えたハードウェア開発の継続
さらに、ハードウェア開発継続の重要な背景として、次世代通信規格であるBeyond 5Gおよび6Gを見据えた研究開発の存在がある。6G時代には、RUが単なる通信機器ではなく、周囲を感知するセンサーとしての機能を持つ可能性が指摘されている。昨今のブロック経済化の進行を考慮すると、これは経済安全保障や安全保障(防衛)の観点で極めて大きな価値を持っている。
NECは来期に向けた新体制において、防衛事業とネットワーク事業を「社会インフラ事業」という大きな組織の傘下に統合する計画であり、Beyond 5G/6G向けの技術ケイパビリティを維持することは必須というわけだ。
MWC 2026のブースでは、この注力事業を象徴する製品として新型のSub6帯Massive MIMOユニットが展示された。この新型RUは、内部に搭載するパワーアンプモジュール(PAM)を高効率・小型化することで、大幅な低消費電力化と軽量化を実現した。発熱が抑えられるためファンレス設計となっており、背面には熱を下から上へ逃がすためのフィンが備わっている。
部品点数が少ないため環境耐性にも優れ、ブースで示されたベンチマークでは、競合他社の製品と比較しても重量や消費電力の両面で高い競争力を持つことがアピールされた。また光デバイス領域では、長距離かつ大容量の効率的な伝送を可能にするコヒーレントプラガブル光モジュールを展示した。
AIとソフトウェアで目指す「完全自律運用」の未来
ハードウェアの進化に加え、ソフトウェアによるネットワーク全体の高度化もNECの戦略の柱である。NECは海底ケーブルから地上、航空、宇宙に至るまでのデジタルインフラ事業を包括的に網羅している。これらのアセットをE2Eネットワークで繋ぎ、バーチャルなAIとリアルなロボティクス(フィジカルAI)が統合して人々を支える「AIネイティブ社会」の実現を掲げている。
複雑化するネットワークを効率的に維持するため、運用自動化技術の展示にも力が入れられた。Aspire Technologyのプラットフォームを活用し、ネットワークの最適化ソリューションを提供するほか、エージェンティックAIを用いた自律運用基盤も紹介。「Negotiation AI」やデジタルツインを組み合わせることで、最終的には人手をまったく介さない完全自律運用(レベル5)を目指すという。
仮想化の実績としても、AWS上に構築した5Gコアの商用展開や、インドネシアにおけるOREX SAIの商用導入の成功事例が示された。
NECの基地局事業は終わったわけではなく、激しい価格競争に陥る従来型の専用ハードウェアから戦略的にリソースを引き上げ、vRAN、マッシブMIMO、そしてAIを活用した運用自動化ソフトウェアへと経営資源を集中。コモディティ化による消耗戦を避け、6G時代とAIネイティブ社会を見据えた高付加価値領域で生き残りを図るという戦略の姿が、MWC26の展示から読み取れた。
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